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宮城県東松島市のサステナブルツーリズムの取り組みを紹介

宮城県東松島市のサステナブル・ツーリズムの取り組み事例

宮城県の太平洋沿岸の中部に位置する東松島市は、比較的温暖な気候と自然環境に恵まれ、農業や水産業が盛んに行われています。日本三景の一つ「特別名勝松島」の一角を占めることでも有名です。日本三大渓の一つで彫刻のような奇岩が建ち並ぶ「嵯峨渓(さがけい)」や、松島湾の260の島々と広大な太平洋を一望できる「壮観・大高森」などの景観を楽しみに多くの観光客が訪れており、震災以前は年間100万人を集めていました。

東松島市は、2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けましたが、震災直後からサステナビリティを意識し、1歩ずつ前進を続けてきました。がれきを手作業で分別して処理するなど徹底した環境配慮については、世界各国から視察団が訪れるほど注目されました。震災の復興から、次世代が誇れる持続可能な地域づくりを目指して様々な取り組みを行ってきました。

2022年9月27日には「Green Destinations Top100(世界の持続可能な観光地Top100選)」において東松島市が宮城県で初めて選出されました。

また、2023年10月18日には、国連世界観光機関(UNWTO)総会において、加盟国60か国以上、約260地域の中から「ベスト・ツーリズム・ビレッジ2023」として、東松島市の奥松島地域が東北地方で初めて認定されました。

本記事では、東松島市がどのような取り組みによって単なる復旧に留まらない「創造的復興」を成し遂げたのかを解説します。

復興への道のり

復興への道のり

2011年3月11日、三陸沖を震源として発生した「東日本大震災」は、東松島市で震度6強を記録し、巨大津波が直撃しました。市街地の約65%が浸水し、農地や漁港、社会インフラも甚大な被害を受けました。市民の多くが日常生活が一変するなか、1日も早い復興に向けた取り組みが開始しました。

2011年12月には復興に向けた取り組みを効果的、効率的に実現するために「東松島市復興まちづくり計画」を策定し、国の「環境未来都市」に選定されました。さらに、単なる元に戻す「復旧」ではなく、課題を解決しながら持続的に発展し、より良い状態を目指す「創造的復興」を遂行するため、2012年10月に東松島みらいとし機構(HOPE)を市・社会福祉協議会・商工会により設立しました。HOPEは行政(国・県・市)と地域コミュニティ、地域産業及び民間企業の「中間組織」として、研究機関や他地域との窓口となり、復興に寄与したい企業と東松島市および市民の要望をマッチングさせる役割を担っています。

2018年6月には国の「SDGs未来都市」の選定を受けました。

自然環境の保護と活用

自然環境の保護と活用

風光明媚な自然や景観で知られている東松島市では、海岸線や自然景観の保護について次のような施策を行っています。

  • 松くい虫対策、松林の植樹による自然環境・景観の保全及び再生
  • 自然に親しむことができる水辺や里山の整備
  • グリーンツーリズム活動(緑豊かな農村地域において、自然や文化、人々との交流を楽しむ滞在型余暇活動)の充実
  • 自然環境や景観に配慮した都市計画の整備
  • 特別名勝地松島の景観保全・再生のための支援
  • 漁業関係者と連携した海域の適正な維持管理
  • 官民連携した海岸、河川などの環境美化の推進

また、災害公営住宅の電力を太陽光パネルで賄うなど、早い段階から代替エネルギーの使用を積極的に取り入れています。

持続可能な観光地として、自然環境を活用した多彩な体験プログラムを提供しています。

①トレッキング

東松島市には、自分のペースで歩きながら景色を楽しめるトレッキングコースが充実しています。2018年に開設された宮城オルレ・奥松島コースは全長10kmのトレッキングコースです。2022年11月25日時点で観光客2万人以上が利用しています。長距離のコースですが、コース沿いにある観光スポットをすべて紹介するように設計されており、健康づくりのために参加する人も多くいます。多くの景勝地、海や山を見ながら縄文時代の歴史も感じられ、楽しく完歩できます。車を使わないので二酸化炭素を排出しません。トレッキングコースは住民が使う避難道も兼ねており、地域全体の協力のもと東松島市のシンボルとなっています。

詳しくはこちら:
奥松島コース | 宮城オルレ | 見て、歩いて、体験する。

②漁業体験

日本三景松島の外洋部に位置する松島湾最大の島「宮戸島」を拠点とし、地引網体験、シーカヤック体験などが楽しめます。松島湾内の穏やかな海なので安心して参加できます。

詳しくはこちら:
奥松島体験ネットワーク

③防災体験型学習施設「KIBOTCHA(キボッチャ)」

東日本大震災により津波被害を受けた旧野蒜小学校跡地を利用した新しい形の防災体験型学習施設です。レストランと大浴場がある宿泊施設で、遊びを取り入れながら防災を学べる教育プログラムを実施しています。

詳しくはこちら:
防災特別教育(キボッチャ) – みやぎ海べの旅案内

地域社会との連携

ブルーインパルス

地元コミュニティとの協力関係

震災発生時の避難生活において、多くの市民が、地域コミュニティの繋がりが最も心強い存在だったと語っています。復旧から創造的復興へフェーズが変わっても、共に苦難を乗り越えてきた強い絆が重要な役割を果たしています。地域内には8つの自治協議会があり、それぞれ地域の課題を市民が主体となってとらえ、地域の力で解決していくコミュニティビジネスの土台ができていました。

さらに、2016年より市の施策として東松島市地域おこし協力隊として都市部からの人材を受け入れています。市内各所で農業・漁業・デザインなど多職種で活動してもらい、新しい「ひと」の流れづくりに取り組むことで地域活性化を図っています。

地域産品の活用と地元企業との連携

東松島市の観光の目玉の一つは、航空自衛隊松島基地を拠点として活動しているブルーインパルス(展示飛行専門部隊)です。被災後はしばらく市外へと離れていましたが、2016年8月には復興感謝イベントを行いました。現在では航空祭や行事で華麗なアクロバット飛行を見学することができます。市内にはブルーインパルスをイメージした遊具やキャラクターが点在しており、撮影スポットにもなっています。市内の複数店舗で限定販売のブルーインパルス関連グッズや、地元食材を使った惣菜やパン、海そのものの風味を誇る海苔や、地元民考案で開発されたのりうどんなど市内の特産品も販売されています。

詳しくはこちら:
ブルーインパルス

のりうどんはこちら:
株式会社 ちゃんこ萩乃井

文化遺産の活性化

縄文土器

歴史的建造物や文化施設の保護と活用

宮城県には約210カ所の貝塚がありますが、松島湾に浮かぶ最大の島「宮戸島」に国史跡「里浜貝塚」があります。古くから人骨・漁具・装身具などが良好な状態で出土されており、縄文時代の地形環境や景観が日本最大規模で残存しています。

奥松島縄文村歴史資料館ではこれらの出土品を展示し、縄文人の知恵と生活をわかりやすく紹介しています。

見学するだけではなく、「縄文」を体感できる体験学習も用意されています。

(1)貝塚見学 (料金:無料 所要時間:40~60分)
資料館から徒歩10分。土器のかけらや魚の骨などを実際に手に取って見ることができます。

(2)縄文体験①(料金:150円 所要時間:30~60分)
火おこしー火おこし器を使って火おこしに挑戦。道具が無かったころの先人の知恵や苦労を体験できます。

(3)縄文体験②(料金:600円 所要時間:2~3時間)
土器づくりー縄文村特製粘土で土器づくりに挑戦。

詳しくはこちら:
奥松島縄文村歴史資料館

伝統行事や文化イベントの開催

東松島市では土地の歴史にちなんだ様々なイベントも開催されています。

縄文人の暮らしから、持続可能な社会を考える「縄文シティサミット in ひがしまつしま」では縄文人の「リサイクル精神」を学び、みやぎ東日本大震災津波伝承館と震災復興記念公園の視察を行いました。

縄文服と小物を身に着け、縄文人になりきって写真撮影を楽しめる「縄文写真館」や、縄文土器で煮込んだ「縄文そば粥」を試食できる「縄文キッチン」は奥松島縄文祭りで体験できます。

観光客にもたらす価値

東松島市の海の恵みの特産物である牡蠣は、全国2位の生産量を誇り、養殖だけでなく種牡蠣(牡蠣の赤ちゃん)の生産も行っています。震災時には牡蠣養殖施設はほぼ全施設が被災しましたが、大半の養殖漁家が再興を目指し、のちに復旧しました。

2013年10月には休止していた遊覧船が「奥松島遊覧船」として再開し、2016年8月には宮戸地区の月浜海水浴場が6年ぶりに運営を再開しました。波が穏やかで家族連れに人気の海岸で、近隣には海の幸が自慢の民宿もあります。

大きな困難に陥ったあとも、市民一丸となって昔からあるものを大事に保全・活用し、目標達成に向けて年単位で尽力を続けてきた結果が、現在の持続可能な観光地としての東松島の姿です。ただ美味しい、楽しいだけでなく、震災からこれまでの経緯を知って訪れる観光地・東松島では、他では味わえない感慨深い体験を観光客にもたらすでしょう。

創造的復興を遂げた持続可能な観光地としての将来

東松島市は、大震災で甚大な被害を受けたにもかかわらず、元の状態に戻すだけの「復旧」ではなく、地域における将来的な課題も解決に導きながら持続的により良い状態を創ってきました。「未来の子どもたちが自分の住んでいるまちは魅力的だと自慢できる東松島でありたい」その一心でした。自分たちで話し合い、意思決定し、実践できる地域コミュニティの自治力を最大限に発揮し、「住んでよし、訪れてよし、そして、営んでよしの観光地域づくり」の実現のため、観光業の活性化、住民の誘致、雇用の創出を行ってきました。

このような偉業を成し遂げた地域コミュニティからなる観光地であることが、人々を惹きつける魅力となっているのでしょう。

東松島市には、震災スタディツアーとして国内の学生や、インドネシア、ミャンマーなど世界各国からの研修員が視察に訪れています。2024年2月にはウクライナから視察団が東松島市を訪れ、復興に向けたがれき処理などを学びました。震災と戦争で状況は異なりますが、インフラの復興に生かせるノウハウを提供することができました。

東松島市は、被災地の「創造的復興モデル」の役割を担う持続可能な観光地として、今後も世界から注目されるでしょう。

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眞鍋奈穂子

眞鍋 奈穂子(まなべ なおこ)ライター/翻訳者、 企業や研究機関で技術翻訳等に従事したのち、趣味のピラティスがきっかけでライターとして活動を始める。温泉旅館とクサガメが好き。

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