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リジェネラティブ・トラベルとは?

欧米を中心に「リジェネラティブ・トラベル」という言葉を聞く機会が増えています。持続可能なビジネスを実現する上で、「リジェネラティブ」は重要なキーワードです。例えば、農業セクターでは、リジェネラティブ・アグリカルチャー(環境再生型農業)が欧米を中心に普及し、アフリカやアジアに浸透しつつあります。ジェネラティブ・アグリカルチャーは、農業を行う際、環境に対する負荷を軽減するだけでなく、環境そのものを再生する取り組みを行います。では、トラベルにおけるリジェネラティブとはどういうことでしょうか?

リジェネラティブとは?

Regenerative(リジェネラティブ)とは、「再生する」や「再生可能な」を意味する言葉です。この言葉は、持続可能性や環境への影響を考慮しながら、資源や環境を回復・再生するアプローチや考え方を指します。リジェネラティブなアプローチは、単なる環境保全だけでなく、積極的な環境の改善や再生を追求する行為です。

リジェネラティブ・トラベルとは?

Regenerative travel(リジェネラティブ・トラベル)とは、持続可能性や個人の健康と幸福を重視した新しい旅行の概念を指す言葉です。旅行が観光地・エリアの環境や文化に対してポジティブな影響をもたらし、地域全体を再生・向上させる手段として捉えます。欧米や欧米観光客がよく訪問する観光地・エリアを中心に、目的地との相互作用や環境への影響も考慮に入れ、より豊かで意味のある経験を求めるリジェネラティブな旅行スタイルの提唱が増えています。

リジェネラティブ・トラベルの主な特徴

「リジェネラティブ・トラベル」は、今ある観光資源を、その後の世代も利用可能にし、失ったものは再生しながら、より豊かにすることを目指します。「リジェネラティブ・トラベル」の主な特徴として、以下の4つの点が挙げられます。

持続可能性
環境への影響を最小限に抑え、地元の文化や自然を保護し、エコフレンドリーな手段での移動や、地元の資源を大切に使うことを心掛けます。例えば、量より質の高い観光コンテンツ提供を行うクオリティツーリズムや、観光地・観光従事者と消費者(旅行者)双方が責任あるエシカルな観光を行うレスポンシブ・ツーリズムが当てはまります。また、観光従事者の経営が、中長期的な視点で透明性が高い情報開示を行うことも観光業の持続可能性の追求に貢献します。粉飾がない、現実的な観光収益の見込み算出と実益を透明性高く開示すること。そして、一過性の事業計画ではなく、世代を超えて事業が継続できるようにするための事業継続計画を策定することも持続可能性を実現する重要な取り組みです。

② 地元の文化との交流
観光だけでなく、観光地の地元の人々との交流や文化への参加を重視します。伝統的な料理を試したり、地元のアートや工芸品に触れるなど、より深い経験を追求します。観光従事者は、地域社会や地域コミュニティが積極的に郷土観光に関与するコミュニティ・ツーリズムの知見を深めると良いでしょう。

③ 心身の健康
旅行者の健康と幸福も重要視されます。自然療法やウェルネスアクティビティ、リラックスできる環境での滞在が含まれ、旅行者の体と心を回復し、再生する健康・美容プログラムや自然の中で体験を行うアドベンチャー・ツーリズムは、「リジェネラティブ・トラベル」の大きな魅力となるでしょう。この魅力を最大限引き出すために、まずは多種多様な旅行者の心理的安全性を確保することも重要です。例えばイスラム圏からの旅行者を受け入れる体制を充実(ハラール認証の取得など)させたり、女性が安心して旅行ができる環境づくりを行うフェミニズム・ツーリズムや障害者が快適な旅行ができる環境づくり(ノーマリゼーションやアクセシビリティの拡充)であるバリアフリー・ツーリズムの推進も検討しましょう。

④ 地元の経済への貢献
観光が地元の経済にプラスの影響を与えるように、地元の事業やサービスを支援することも重要です。例えば、スマートシティ化を目指している自治体や都市では、スマートシティで享受できるITサービスを旅行者も利用可能にすることで、新たなビジネス機会の創出ができるかもしれません。また、観光地・エリアの渋滞を緩和するMaaSの実現やライドシェアサービスを実施することで、地元の経済にポジティブな貢献ができます。そして、旅行者に対して長期的滞在やワーケーション、ステイケーションを推進し、滞在期間が長くなることで旅行者による消費額が増えます。

リジェネラティブ・トラベルの取組事例

① ニュージーランド
ニュージーランド観光局は、すべての旅行者に「ティアキの誓い」をするように呼びかけています。この誓いによって、ニュージーランドの人々や文化、土地、海、自然に気を配る意識づけを旅行者に対して行います。具体的には、「ニュージーランドを旅する際、私は土地や海、自然に気を配り、全てに対して注意深く行動します。安全に旅し、文化を尊重し、開かれた心と考えで旅をします」と入国の際に旅行者は誓いを立てます。ニュージーランドが独自で行っている活動ですが、旅行者に対して旅行先・エリアを大切にする自覚的な決断を促す素晴らしい仕組みです。旅行者は、旅行先・エリア、そして地球全体に大きな影響を与えています。旅行者が自分の国や地域、自然に示す愛情や尊重を旅行先・エリアでも示すことで、旅先滞在中の旅行者の行動は大きく変わるかもしれません。

【記事】自然を大切にするニュージーランド、旅行者に対し責任ある行動を求める
【動画】Tiaki – Care for New Zealand. Our Kiwi kids’ promise to future visitors.

② サウジアラビア
産油国であり、メッカなどのイスラム教聖地の守護者でありながら、世界的な脱炭素の流れから新しい産業セクターの成長に力を入れているサウジアラビア。閉ざされた国から開かれた国へ変わろうと、サウジアラビアは観光立国への移行を表明しています。そして、サウジアラビアが新たな観光コンテンツ造成に取り組んでいるテーマが「リジェネラティブ・トラベル」です。

スキューバーダイバーにとって一度は訪れたい、色彩豊かな珊瑚礁とそこを棲家とする色鮮やかな魚たちのパラダイスの紅海(レッドシー)。この紅海で、TRSDC社(サウジ政府系企業)がアフターコロナを見据えて自然環境を活かした人工島の整備計画であるコーラル・ブルーム・プロジェクトを発表し、「リジェネラティブ・トラベル」のモデルケースの確立を目指しています。しかし、2030年には、50のリゾートで構成され、22の島々と6つの内陸部の敷地には最大8,000室のホテルと約1,300軒の住宅物件を提供し、高級マリーナ、ゴルフコース、娯楽施設、レジャー施設なども併設される予定のため、「リジェネラティブ・トラベル」の主旨にそぐわないという意見も多いです。

発展途上国では、経済発展のため新たなリゾート地を開発する流れがあります。このプロジェクトで参考にしたい点は、開発当初から自然との共生と再生を目指している点です。生物多様性(バイオダイバーシティ)への配慮を中心に据え、島のマングローブやその他の生息地を破壊しないように設計をしています。砂浜の自然浸食を最小限にとどめるよう配慮する一方で、島の自然環境を強化する修景によって新たな生息地を創出することを目指し、2040年までに希少種保全効果の30%アップを実現することをTRSDC社はコミットしています。

また、効果的に景観に溶け込んで島の美しい自然を満喫できるよう建物やインフラが設計されています。イルカの形をした島に作られる新しいビーチやラグーンは、土地の高さを上げ、世界的な海面上昇の脅威に対する気候変動の適応策を行います。プロジェクトの中心となるシュライラ島にある11軒のホテルは、世界でも有数のホテルブランドが運営する予定です。すべてのホテルとヴィラは、島の自然の景観をドラマチックに演出し、景観の中に溶け込むように配置されています。高い建物がないことで、壮大な景色を自由に楽しむことができると同時に、島がゆっくりと姿を現していく神秘的な感覚を旅行者に提供します。建物に使用される建材は軽量で熱量が小さい素材です。その他、集中冷房システムを実現する大規模な地域冷房プラント建設や、再生可能エネルギー発電と大規模な蓄電システムを建設することで、プロジェクトで建設される建物全体のエネルギー効率を高め、24時間グリーンエネルギーが利用可能な仕組みの構築を目指しています。

【動画】Coral Bloom designs at The Red Sea

③ フィリピン
フィリピンの離島でバーベキューやスノーケルを楽しめるボラカイ島は、2012年に米国の旅行雑誌「トラベル&レジャー」で世界1位の観光地に選ばれた人気の観光地です。そのため、ボラカイ島では観光客やホテル・飲食店が急増し、海が汚染されて多くの砂浜で白さが失われました。2012年は47万人の旅行者がボラカイ島を訪問しましたが、2017年には200万人規模となり、観光公害が急激に増えました。そのため、ドゥテルテ大統領(当時)は貴重な観光資源の環境破壊に危機感を募らせ、「災害宣言」を発令。2018年4月26日にボラカイ島を閉鎖し、最大半年間、観光客の立ち入りを禁止しました。島の閉鎖を行った半年間に、排水処理施設の整備や違法に建築された宿泊施設の取り壊し、観光客の収容能力の調査などの環境対策を実施しました。結果としてボラカイ島の大部分ではターコイズブルーの海と純白の砂浜がよみがえりました。そして、観光を再開した際に新たな規制として、1日に受け入れる観光客数を最大6400人に制限、島に滞在できる観光客を最大1万9200人に制限、ビーチでのゴミ捨てや飲酒、喫煙、たき火、パーティーの禁止、規制を守る宣誓書への観光客の署名などを導入し、一定の効果をもたらしてます。

本記事では「リジェネラティブ・トラベル」と事例を紹介しました。旅行する際は、訪問する目的地が将来にわたって再生し、繁栄できる方法を考えましょう。そのためには、観光地・観光従事者と消費者(旅行者)双方が、地域の環境やコミュニティに貢献するという強い意識を持つことが大切です。

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市川隆志

市川 隆志(いちかわ たかし)。株式会社アスエク 代表取締役CEO。米/ニューヨーク生まれ。大学卒業後、総合商社 双日株式会社に入社し、12年間 海外営業としてドバイに駐在。旅を通じて発見や刺激を受けることが好きで、これまで80カ国を探検しました!家では子供3人の父親です!

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