UNWTO(国連世界観光機関)とは|SDGsへの取り組みと活用方法
観光は、経済成長、雇用創出、文化交流など多岐にわたり影響を与える重要なセクターですが、環境への負荷や地域社会への影響も無視できない課題を抱えています。こうした中で、観光業界の持続可能な発展を推進するための国連世界観光機関(UNWTO)の役割が注目されはじめています。
本記事では、UNWTOの役割とそのSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みについて解説します。
UNWTOとは?観光業界への役割と影響
国連世界観光機関(UN World Tourism Organization)は、観光業の持続可能な発展を促進するための国際機関です。1975年に設立され、現在は世界中の観光政策の策定や観光産業の支援を行っています。加盟国は159ヵ国で、民間部門、教育機関、観光協等から500を超える賛助加盟員で構成されています。本部はスペインのマドリードにあり、多くの国連出先機関が日本支社を東京に置くなか、UNWTOは駐日事務所の拠点を奈良に置いています。駐日事務所は、観光成長が著しいアジア太平洋地域の観光促進及び同地域間の連携を強化することを目的に、1995年に唯一の地域事務所として日本に開設されました。現在、奈良を拠点に活動しており、2017年には国連大学本部(東京都渋谷区)に東京事務所が設置されています。
また、UNWTOは「持続可能な観光のためのグローバル倫理コード」を採択し、観光業界の倫理基準を設定しています。このコードは、観光業が地域社会や環境に与える影響を考慮しながら、持続可能な形で発展するための指針となっています。加えて、UNWTOは各国の観光政策を評価し、持続可能な観光の実現に向けたベストプラクティスを共有する活動も行っています。
SDGs(持続可能な開発目標)の概要と重要性
SDGs(Sustainable Development Goals)は、2015年に国連が採択した17の目標と169のターゲットから成る、2030年までの持続可能な開発を目指す国際的な取り組みです。貧困の撲滅、健康と福祉の向上、質の高い教育の提供、気候変動への対応など、多岐にわたる分野での目標が設定されています。SDGsは、持続可能な未来を実現するために政府、企業、市民社会が協力して取り組むべき重要な課題です。
SDGsの重要性は、持続可能な未来を築くために欠かせない指針として認識されています。例えば、SDG 13「気候変動に具体的な対策を」では、気候変動への対応が急務であることから、観光業もこの目標に貢献するために、カーボンフットプリントの削減やエコツーリズムの推進といった取り組みが促進されています。
UNWTOのSDGsへの取り組み
SDGsと観光業界の関係性
観光業は、直接的にも間接的にも多くのSDGsに関連しています。例えば、観光業の発展は貧困削減(SDG 1)や経済成長(SDG 8)に寄与し、文化遺産の保護(SDG 11.4)や環境保護(SDG 13, 14, 15)にも影響を与えます。持続可能な観光は、地域社会の福祉向上や環境保全に貢献するため、SDGsの達成において重要な役割を果たします。
例えば、ケニアでは観光業が貧困削減に大きく寄与しています。ケニアのマサイマラ国立保護区では、エコツーリズムにより地元住民の雇用を創出し、収益の一部を地域社会の発展に還元する仕組みが構築されています。この取り組みにより、観光業が地域経済の発展に貢献するとともに、自然環境の保護にも繋がっています。
また、国連世界観光機関(UNWTO)は、観光受入れ国と地域コミュニティにおける観光開発の支援に加え、生物多様性の保全、社会福祉及び経済の安定にも努めています。UN Tourismのコンサルティング・ユニットもまた、エネルギー効率化、観光の安全、気候変動のような、分野を超えた諸問題について情報を提供しています。UNWTOは、2004年と2006年の津波で被災した国々の政府と地方自治体に対して、観光インフラ再構築支援のため、専門知識の提供や助言を行っています。
UNWTOが推進するSDGsの目標と具体的な取り組み
UNWTOは、持続可能な観光の推進を通じてSDGsの達成を目指しています。具体的な取り組みには、以下のような活動が挙げられます。
観光を国際的なアジェンダの主流にする:
社会経済的な成長および発展の推進力としての観光の価値、国家および国際政策の重点事項としての観光、そして、観光が発展および繁栄するように公平な条件を設ける必要性を訴える。
観光競争力を向上させる:
知識の創造および交流、人材開発、さらには、政策立案、統計、市場動向、持続可能な観光の開発、マーケティングおよびプロモーション、商品開発、リスク・マネジメントおよびクライシス・マネジメントといった分野における卓越性の促進により、UN Tourismのメンバーの競争力を向上させる。
持続可能な観光の開発を促進する:
観光資源を最適な形で活用し、受け入れるコミュニティーの社会文化面での真正性を尊重し、全員に社会経済的な利益を提供する、持続可能な観光政策や慣習を支持する。
貧困削減および開発に対する観光の寄与を促進する:
貧困の軽減にむけて観光を最大限に寄与させる。また、開発の手段として観光を機能させ、開発アジェンダに観光を加える取り組みを進めることで、SDGsを達成する。
知識、教育、能力開発を促進する:
教育および訓練に関する自らのニーズを評価・対応できるよう各国を支援する。また、知識の創造および交流のためのネットワークを提供する。
パートナーシップを構築する:
民間部門、各地方や地域の観光組織、学術関係者や研究機関、市民社会、国連システムなどと協力し、より持続可能で、責任のある、競争力の高い観光分野を実現する。
具体的な活動事例として、UNWTOは「持続可能な観光のためのグローバル倫理コード」を採択し、観光業界の倫理基準を設定しました。このコードは、観光業が地域社会や環境に与える影響を考慮しながら、持続可能な形で発展するための指針となっています。また、UNWTOは各国の観光政策を評価し、持続可能な観光の実現に向けたベストプラクティスを共有する活動も行っています。
SDGsの観光業界への影響と活用方法
持続可能な観光の推進と地域社会への貢献
持続可能な観光は、地域社会に多くの利益をもたらします。例えば、地元の文化や自然資源を保護しつつ、観光収益を地域経済に還元することで、地域住民の生活の質を向上させることができます。また、観光業の持続可能性を高めることで、地域の魅力を長期的に維持し、持続可能な発展を促進することが可能です。
5つの村々で構成され、美しい風景と独特の文化で観光客を魅了す、イタリアのチンクエ・テッレ地方では、観光客の増加に伴う環境負荷を軽減するため、訪問者数の制限や持続可能な観光インフラの整備を行っています。この取り組みにより、地域の自然環境と文化遺産を保護しつつ、観光業の持続可能な発展を実現しています。
グローバル規模でのSDGs達成に向けたUNWTOの役割
UNWTOは、観光業を通じてグローバル規模でのSDGsの達成に貢献することを目指しています。そのため、各国の観光政策を持続可能な方向に導くことで、世界全体での持続可能な発展を支援し、国際的なパートナーシップを通じて、SDGs達成に向けた協力関係を強化しています。
2017年には「観光と持続可能な開発のための国際年」を宣言し、世界中で持続可能な観光を促進する活動を展開しています。この取り組みは、多くの国や地域で持続可能な観光プロジェクトの立ち上げや、観光業界全体の意識向上に貢献しています。
取り組み事例とその影響
持続可能な観光地として注目を集める、コスタリカとフィリピンの取り組みを紹介します。
コスタリカ
エコツーリズム発祥の地として注目を浴びているコスタリカは持続可能な観光の成功事例として知られています。年間100万人もの観光客が訪れ、バラエティに富んだ動植物と多様な地形と自然を楽しんでいます。多種多様な自然資源を保全するため、自然保護区の拡充と環境教育を通じて観光業を発展させました。その結果、観光業は経済成長に大きく貢献し、同時に環境保護と地域社会の福祉向上を実現しています。
コスタリカのエコツーリズムの成功は、他の国々にも大きな影響を与えています。例えば、ネパールではエコツーリズムを導入し、山岳地帯の観光資源を活用して地域経済の発展を図る取り組みが進められています。また、南アフリカでは、サファリツーリズムを通じて野生動物の保護と地域住民の雇用創出を実現するプロジェクトが展開されています。
フィリピン
フィリピンのボラカイ島では、長年に渡り大量の観光客が押し寄せ、好き放題に島を楽しみ、何の対策も施さなかった結果、周辺の海は大統領に「汚水溜め」と呼ばれるほどになりました。フィリピン、アクラン州中部にあるボラカイ島の当局者は、観光客の大量流入とビーチを荒らす行為を規制し、リゾート地の混雑を緩和するとともに、ターコイズ色の海に汚水がそのまま排出されないようにするため、観光客受け入れ人数の規制 やビーチでの行動規制などを設けました。
過剰な観光客による環境破壊を防ぐために島全体を一時閉鎖し、環境改善と持続可能な観光の再構築を行いました。この取り組みは、観光業の持続可能性を確保するための先進的な例として注目されており、他の観光地でも類似の取り組みがこれからも期待されています。
UNWTOメンバー国スペインの取り組みとその成果
UNWTOのメンバー国であるスペインは、観光業を通じてSDGs達成に向けた取り組みを行っています。スペイン政府は、持続可能な観光政策を策定し、観光業の持続可能性を高めるためのガイドラインを提供しています。また、観光地の環境保護や地域住民の参加を促進するプロジェクトを実施しています。
具体的には、スペインのバルセロナ市では観光客の増加による影響を軽減するため、2024年10月から観光税を25%ほど引き上げることを決定しました。また観光客の分散化や観光収益の地域還元を図るためのプログラムが実施されており、地域住民の生活の質向上と観光業の持続可能性が両立されています。
未来への展望
2030年アジェンダへ向けた挑戦と改善点
2030年までにSDGsを達成するためには、更なる取り組みが必要です。特に、気候変動への対応や生物多様性の保護と回復、地域社会との協働を強化することが重要です。例えば、航空業界では持続可能な航空燃料(SAF)の開発と普及、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上を図るための施策実施、ローカルの雇用と教育、地域コミュニティへの経済的な還元などが求められています。
また観光業でも技術革新やデジタル化の進展により、より持続可能な形で発展していくことが期待されます。スマート観光やグリーンツーリズムなど、新たな観光形態が普及し、地域社会と環境への負荷を最小限に抑える取り組みが進むでしょう。また、持続可能な観光の重要性が世界的に認識される中で、観光業界全体がSDGs達成に向けたリーダーシップを発揮することが期待されます。
持続可能な未来を実現するために、観光業が果たすべき役割はますます重要となっています。UNWTOの取り組みとともに、各国や地域が協力し合い、観光業を通じた持続可能な発展を推進していくことが求められています。
まとめ
観光業が持続可能な未来を築くためには、UNWTOをはじめとする国際機関や政府、企業、市民社会が協力して取り組む必要があります。観光業が地域社会と環境に与える影響を最小限に抑えつつ、経済成長と福祉向上を実現するための持続可能なアプローチが求められています。今後も、UNWTOのリーダーシップを通じて、観光業全体がSDGs達成に向けた取り組みを盛り上げていきましょう。
参照:
UN Tourism | Bringing the world closer (unwto.org)
Home – United Nations Sustainable Development