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ニセコ町(北海道)が取り組むサステナブル・ツーリズムの事例

ニセコ町(北海道)が取り組むサステナブル・ツーリズムの事例

恵まれた自然環境により1年を通して国内外から観光客が訪れる北海道・ニセコ町。夏は自然と触れ合うカヌーやトレッキング、冬は世界に誇るパウダースノーでウインタースポーツが楽しめます。観光地としての発展だけではなく、近年は持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)において目覚ましい成果をあげています。

ニセコ町は持続可能な観光の国際機関「グリーン・デスティネイションズ(Green Destinations 」(オランダ) による、世界の持続可能 (サステナブル) な観光地のTOP100選を2021年、2022年と2年連続で受賞しています。

さらに、2021年に国連世界観光機関(World Tourism Organization:UNWTO)より「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」として表彰され、同年に観光分野での気候変動対策の実施をコミットする「グラスゴー宣言」(COP26)への署名を行っています。

本記事では、ニセコ町が実際にどのような取り組みによって着々と持続可能な観光を実現しているのかを解説します。

ニセコ町の功績 

ニセコのスキー場

はじめに、ニセコ町が持続可能な観光において獲得した成果についてご紹介します。

①世界の持続可能 (サステナブル) な観光地のTOP100選受賞

観光地の国際認証機関「グリーン・デスティネイションズ」(本部オランダ)により観光地の持続可能性についての審査が行われ、認証されます。

ニセコ町は2021年、2022年と2年連続で受賞したのち、2023年にはニセコ町が注力してきた自然環境と社会福祉における取り組みが高く評価され、シルバーアワードを受賞しています。

②ベスト・ツーリズム・ビレッジに選出

国連世界観光機関 (UNWTO) により認定される「ベスト・ツーリズム・ビレッジ(BTV)」は国連の持続可能な開発目標 (SDGs) に基づいて、観光を通した文化遺産の促進、保全、持続可能な開発に取り組んでいる地域を見つけ出す取り組みです。2021年に世界の加盟国75か国・174地域の中から日本からは北海道ニセコ町と京都市南丹市美山町が選ばれました。

③グラスゴー宣言(COP26)に署名

2021年に国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、観光における気候変動対策に関する「グラスゴー宣言」が発表されました。

「グラスゴー宣言」とは、観光セクターが、同事業における二酸化炭素(CO2)排出量削減に積極的に取り組み、今後10年間で同セクターでの排出量半減を目標とし、2050年までに排出量ゼロへ移行することを目的としています。ニセコ町は日本の自治体として初めて署名を行いました。署名した自治体は12か月以内に今後の活動方針の詳細を提示します。

ニセコ町がサステナブル・ツーリズム先進地になるまで

ニセコ町は世界的に有名なスノーリゾートとして知名度が広がり、海外からの観光客が全宿泊数の約40パーセントを占めている時期もありました。しかし、COVID-19感染症の拡大により、他の観光地と同様にニセコ町の観光セクターも長期的な業績不振に陥り、観光地としてどのようにあるべきかを見つめなおす契機が訪れました。

ニセコ町では町内プロジェクトが主体となり、環境保全を重視した地域開発を実践してきました。その結果、2015年に「環境モデル都市」として、さらに2018年には「SDGs 未来都市」として国から認定されました。

環境を保全・活用しながら再生可能エネルギーを中心とする資源を用いて町民自らが自立的に管理、運営し、バランスよく農業と観光を両立できること、観光で地域経済を循環・還元する町民満足度の高い町であることを目標として取り組んでいます。  

ニセコ町内での取り組み事例

ニセコを訪れる外国人観光客

ニセコ町では持続可能な観光を実現するための第1段階として、問題点のあぶり出しを行いました。実際に地域開発は順調に進んでいるものの、訪問観光客数は頭打ちが続いていました。議論と調査の結果、対応できていない観光客の要望が存在すること、まだ活用されていない潜在的観光資源があること、事業者間のコミュニケーション不足などが問題点として浮き彫りになりました。また、住民のなかには生活環境の維持が難しいことから観光に対して好意的ではない意見もありました。

ニセコ町は対策として、町主催のイベント等の企画を通じて住民の理解を深め、住民と観光事業者が相互協力して持続可能な観光都市を目指すために一致団結すべきであるという認識を得られるよう尽力しました。ニセコ町では住民の参加と情報の周知を基本とし、これまでに約200回町民講座が開催されています。また、関係する異業種の人事交流を深めることにより連携力の高い地域経営を可能にしています。この既存の経営体制に持続可能な観光の手法を取り入れて、成果の拡大を実現しているのです。

次に、課題の特定目標とする将来像のイメージ化を行いました。

環境保護を維持しながら海外からの移住者の受け入れを可能とする多様化の実現が課題であると明らかになりました。そこで策定された新たなビジョンでは目標とする将来像3つ、数値目標と基本戦略が設定されました。

  1. 通年性であることーオフシーズンがなく、世界中から支持される
  2. 高品質で高付加価値があること―独自性があり、本物志向の体験が可能
  3. 町民満足度が高いことー観光客・事業者・町民の相互理解を高め、自然文化の理解および環境に対する配慮ができる

数値目標は2019年度から2028年度までに観光消費額は約100億円増、延べ宿泊数は約2倍など、具体的な数値が目標とされています。

基本戦略では上述の課題に対応すべく、安定した観光産業の経済活動と地域貢献として雇用の確保やCO2削減努力、観光客への対応として特別な観光体験の提供や環境整備、町民生活の質を高めるための観光客への配慮喚起などが施策として挙げられています。今後、ニセコ町では指標に基づいた計測結果を分析・公表し、改善への取り組みを予定しています。

ニセコ町民の声

ニセコの雪に覆われた木々

ニセコ町ではほかにも独自の取り組みが行われており、観光地の国際基準だけではなく、地域での雪崩事故防止や観光事業者の講演など体感的なトレーニングが開催されています。実際に参加した町民からは「自営のため観光業の将来について悩んでいたが、トレーニングに参加して観光と地域のつながりを感じられ、住民が幸せな地域こそが良い観光地であると実感できた」「観光に関する用語が飛び交うなかで戸惑いもあったが、理解が深まったことで自ら行動してみようと思えた」など前向きな声が多く挙げられています。

また、全国を対象として行われたサステナブル体験では、植樹体験や宿泊施設で環境に配慮した消費財や備品などを用いての接客を試行しました。体験した観光業従事者からは「これまでは受賞等による盛り上がりは直接感じられなかったが、体験を通じて将来の目標ができた」「開発に対する不安があったが町民の思いを知る機会を得られたことで次の行動に進むことができた」など持続可能な観光に向けて確実に前進している様子が見られました。

持続可能な観光とは、地域の環境を守り、文化・経済を育てながら、観光客にとって魅力的であるのと同時に、そこで暮らす人々が豊かで幸せに生活できることです。ニセコ町は町民が一体となってサステナブルツーリズムの象徴的な町であるということを体現しているのです。

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眞鍋奈穂子

眞鍋 奈穂子(まなべ なおこ)ライター/翻訳者、 企業や研究機関で技術翻訳等に従事したのち、趣味のピラティスがきっかけでライターとして活動を始める。温泉旅館とクサガメが好き。

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