SDGs目標1:貧困をなくす|世界と日本の貧困の現状を解説
2030年までにより良い世界を目指す国際目標として、2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs。17ある目標の1番目に掲げられているのが、世界中から貧困をなくすという取り組みです。MDGsの頃から8つの目標にも組みこまれていたほど世界的に大きなテーマである「貧困」について、現在の世界および日本の現状とそこに取り組む必要性を、できる限りわかりやすく解説いたします。
SDGsの目標1:貧困をなくそう
世界中の貧困者の数は1990年から2015年までの15年間で、世界人口の36.2%から10.1%にまで減少しています。しかし、今なお全世界で8億人以上が貧困の中で暮らしており、十分な食料やきれいな飲料水、そして衛生施設を利用できていません。
子どもの数だけで見ても、今なお6人に1人(3億500万人)の子どもたちが、「極度にまずしい」暮らしを強いられていると言われています。特に貧困者が集中する南アジアやアフリカ南部のエリアでは、改善に向けた大きな進捗は見られず、それどころか今後の気候変動や紛争、食糧不安による新たな脅威の中でその割合は今後ますます上昇するとも見られています。
絶対的貧困と相対的貧困
貧困状態を表す言葉としては、「絶対的貧困」と「相対的貧困 」という2つの基準が存在しています。南アジアやアフリカ南部を中心としたエリアでは、絶対的貧困が問題となっているため貧困といえば途上国の問題と捉えがちですが、相対的貧困は我が国を含めた先進国諸国においても他人事とはいえません。
絶対的貧困
ターゲット1に記された「極度に貧しい」暮らしをしている層を言い、世界銀行が定めた「国際貧困ラインで暮らす人々=1日1.9米ドル(約210円:2021.6.28現在レート)以下で生活する層」を元に算出された貧困層です。絶対的貧困層の約半数はインド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、バングラデシュの5カ国に集中しています。
相対的貧困
対して相対的貧困とは、その国や地域の水準と相対的に比較して大多数よりも貧しい状態のことを指します。具体的には、世帯所得がその国の等価可処分所得平均の半分(貧困線)に満たない状態を指します。この基準はその国の経済状況によって変化するため、日本を含めた先進国にもそうした層は一定数存在するのです。
貧困問題の現状
国際貧困ライン以下で暮らす人々の割合は1990年から2013年の間に、世界人口の35%から11%へと激減。このペースで過去10年間の経済成長率が保たれるのであれば、2030年までに4%まで減少すると見込まれるとされていました。しかし、果たしてその現状はどのようになっているのでしょう。
世界の貧困事情
絶対的貧困状態にある人々は、経済的に貧困しているというだけでなく社会的にも次のような状態にあります。
- 安全な飲み水を口にできない
- 電気が通っておらず他の燃料確保にも困窮している
- 満足な教育が受けられない
- 適切な医療が受けられず命の危険にさらされている
こうした絶対的貧困を引き起こす要因は、1つに限定することはできません。紛争や内戦、大規模災害、地球温暖化や環境汚染など、多くの要因によって引き起こされると考えられ、近年では新型コロナウイルスの蔓延も大きくのしかかってきています。
現に世界銀行は「貧困と繁栄の共有レポート/2020年版(2020.10.7)」の中で、「2020年の絶対的貧困者数は20年ぶりに増加に転じ、2021年までには約1.5億人も増加する見込み」と発表しました。SDGs1では2030年までに貧困の根絶を目標としていますが、現状のペースでは2030年の貧困率は7%になると予測されています。また、世界銀行のレポートでは今回絶対的貧困の定義だけでなく、相対的貧困の基準値として1日の生活費を3.2米ドル(約354円:2021.6.28現在レート)と5.5米ドル(約609円:2021.6.28現在レート)以下とした貧困率も算出しました。それによると、相対的貧困者数は3.2米ドルでは世界人口の25%、5.5米ドルでは40%以上にも達しています。
こうした相対的貧困者の多くは先進国にも存在し、中所得国での新しい貧困層の増加が問題視されるようになってきました。それに加え、先進国での富の減少による絶対的貧困層への資金援助の停滞が見込まれるため、世界経済の現状維持と支援拡大を全世界に呼びかけています。
参考:THE WORLD BANK(世界銀行)/プレスリリース【COVID-19は2021年までに1億5000万人もの極度の貧困層を追加する】
日本の貧困事情
そうした世界的な新しい貧困層の増加が問題視される中で、日本の貧困事情はどのようなものなのでしょうか。
厚生労働省では2018年に「平成30年 国民生活基礎調査(平成28年)の結果から グラフでみる 世帯の状況」という資料を公表していますが、それによれば相対的貧困に陥る世帯は全体の15.4%となっています。この数値はG7の中では米国についで高い比率となっており、貧困は日本においても決して無視できない問題なのです。日本の場合この相対的貧困者は高齢者と子どもに多く見られますが、これは65歳のひとり暮らし世帯の増加と、ひとり親世帯の増加に端を発しています。
貧困問題に取り組む必要性
日本の相対的貧困層に子どもが多いのと同様に、子どもたちの貧困問題は世界的な問題です。先に述べたような学習機会が失われるといった問題は、絶対的貧困層だけでなく相対的貧困層を多く抱える日本でも問題となっており、ひとり親家庭の子どもたちが金銭的な問題で満足な教育を受けられないといった例も報告されています。子ども時代に貧困であると、こうした学習機会の損失や自己肯定感の欠如をもたらし、心身の健全な成長に影響を及ぼす恐れもあるでしょう。
2015年には日本財団が、子どもの貧困の放置により1学年あたり2.9兆円の経済的損失と1.1兆円の政府の追加支出が発生するといったデータを発表しており(日本財団/「子どもの貧困」に関する経済的影響を推計)これは決して無視のできない数字です。次世代を担う子どもたちの貧困問題は、その国が継続的に発展していくための人的資本を損なうことに直結しますので、まさにSDGs(持続可能な開発目標)として国家だけでなく、その国の企業や個人まで1人ひとりが我が事として考え、取り組んでいかなければならない問題なのです。
まとめ
SDGs目標1「貧困をなくす」の世界と日本の現状と、この問題に取り組む必要性について解説してまいりました。途上国で大きな問題である絶対的貧困も、先進国で問題となる相対的貧困も、その多くの被害者は子どもたちです。世界の未来を担う子どもたちを貧困状態から救い出すこと。それこそが貧困をなくすというSDGs1の解決につながります。これに対して自分は、あるいは自社はなにができるのだろうと問いかけるところから、SDGs1への取り組みを始めてみてください。