EvaneosとRoland Bergerが開発した、オーバーツーリズム指標
観光地における来訪者の急増による環境や社会への悪影響「オーバーツーリズム」が、世界各地で深刻な課題となっています。観光庁の報告によると、日本でも京都や鎌倉などの観光地で混雑や生活環境の悪化が報告されており、早急な対策が求められています。[1]
フランスの旅行テクノロジー企業Evaneosと国際的なコンサルティング企業Roland Bergerは、持続可能な観光への取り組みとして、世界の主要100観光地のデータを分析した「オーバーツーリズム指数」を開発しました。
この指数は、観光地の混雑状況を数値化し、科学的な観光管理を実現する新しい指標として注目を集めています。
本記事では、オーバーツーリズムの現状と課題、そして具体的な解決策について解説します。
オーバーツーリズムの現状
観光産業の急成長に伴い、世界の主要観光地では深刻な問題が発生しています。国連世界観光機関(UNWTO)の報告によると、国際観光客数は2019年に14億人を記録し、観光地の文化遺産の損傷や地域住民の生活環境の悪化、環境破壊などの問題が顕在化しました。[2]
一方で、観光産業は地域経済の重要な収入源であり、完全な観光規制は現実的な解決策とはなりません。この課題に対し、EvaneosとRoland Bergerは、観光地の「受け入れ可能な観光客数」と「地域社会への影響」を客観的に評価する必要性を認識しています。
両社は、持続可能な観光の実現には科学的なデータに基づく管理手法が不可欠と考え、世界初のオーバーツーリズム指数の開発に着手しました。
- 観光客密度
- 環境負荷
- インフラ利用状況
- 地域住民の満足度
上記の多角的な評価基準を設定することで、観光地が抱える問題の「見える化」に成功しています。
オーバーツーリズム指数の開発者、EVANEOSとRoland Berger
持続可能な観光の実現に向けて、異なる専門性を持つ2つの企業が協力し、画期的な指標を開発しました。
観光産業のデジタル化を推進するEvaneosと、グローバルな戦略コンサルティングを展開するRoland Bergerは、それぞれの強みを活かし、世界初となる包括的な観光指標の作成に成功。
両社の協働により、観光データの収集・分析から実践的な解決策の提案まで、一貫した取り組みが可能となりました。
Evaneos
Evaneosは2009年にフランスで設立された革新的なトラベルテクノロジー企業です。世界150カ国以上の観光データと70か国の現地旅行会社ネットワークを活用したサービスを展開しています。
「個人旅行」と「持続可能な旅行」を重視し、旅行者の声を尊重しつつも、現地の専門家に相談しながら旅行プランを作成することで、現地ならではの文化や体験を取り入れた「オーダーメイドの持続可能な旅行プラン」を提供しています。
Evaneosのサービスは、旅行の企画から手配までを一貫する「ワンストップサービス」が特徴です。旅行者は現地の旅行エージェントと直接コミュニケーションを取ることで、宿泊、アクティビティ、ガイドなど、細かい要望に応じてカスタマイズした旅程を作成できます。
旅行者にとっては、ユニークで現地色豊かな体験が可能となり、現地のコミュニティへの経済的貢献も期待できます。
Evaneosはエコツーリズムやサステナブルな旅行に力を入れており、地域社会や環境に配慮した旅行形態の普及への取り組みも注目されている企業です。
Roland Berger
Roland Bergerはドイツに本社を構える、ヨーロッパ最大級の戦略系経営コンサルティング会社です。1967年にドイツのミュンヘンで設立され、現在は世界50か国以上に拠点を持ち、幅広い業界の企業や政府機関に対して「経営戦略に関するコンサルティングサービス」を提供しています。
Roland Bergerは特に、製造業や自動車産業、金融、エネルギー、テクノロジーなどの分野での専門性が高いです。
- 企業の戦略策定
- 企業の組織改革
- デジタルトランスフォーメーション
- サステナビリティ
企業が直面する、さまざまな課題の解決を支援しています。
また、Roland Bergerは独立したパートナーシップによって運営されており、社員が所有するプライベートカンパニーの形態を取っていることも特徴です。
これにより、長期的な視点に基づく意思決定が可能であり、顧客企業との信頼関係の構築や柔軟なサービス提供が実現されています。
共同開発した「オーバーツーリズム指数」
EvaneosとRoland Bergerが共同開発した「オーバーツーリズム指数」(Overtourism Index)は、観光地がオーバーツーリズムによって、どの程度影響を受けているかを測定する指標です。
観光地が「持続可能な観光」を維持するために必要なデータを提供し、観光の影響を視覚的に評価するツールとして注目されています。
オーバーツーリズム指数は、次の4つの主な評価基準に基づいています。
国際訪問者数 vs 住民数の比率 | 地域の観光客数と、現地の住民数の比率を比較する。観光客が多すぎると、住民の生活や地域インフラに影響が出る。 |
---|---|
1平方キロメートルあたりの観光客密度 | 地域内の観光客密度を測定し、限られた地域内での観光圧力を測る。密度が高い場所では、オーバーツーリズムが起こりやすい。 |
季節ごとの観光ピーク(季節性) | 観光客が特定の季節に集中するかどうかを評価する。季節的なピークが強い場合、観光業の平準化が課題となる可能性。 |
持続可能性の発展度 | 環境や地域社会への配慮がどの程度進んでいるかを評価する。現地コミュニティの関与、自然保護、資源の持続可能な利用など |
EvaneosとRoland Bergerが開発したこの指数は、観光地の「受け入れ可能な観光客数」と「地域社会への影響」を客観的に評価する新しい指標として有効です。
観光業における意思決定者(政策立案者、旅行業者、現地政府など)にとって、観光の影響を計測・監視し、持続可能な観光対策を立てるための重要な指標となっています。
各地域の観光課題が明確化
地域ごとの具体的な課題を「見える化」することで、地域特有の解決策を検討することも可能になりました。
世界の観光地は、EvaneosとRoland Bergerが開発したオーバーツーリズム指数により、5つの主要カテゴリーに分類されています。
- シーサイドツーリズム
- 主要欧州観光地
- 都市型観光地
- 要注意リスト
- 保護された観光地
オーバーツーリズム指数を使って、日本を含む70の国と地域が評価され、日本はウズベキスタンやポーランド、スウェーデンと共に「保護された観光地」として高評価を得られました。
一方で、訪日観光客の密度が高い点やサステナビリティ面での課題も指摘されています。特に京都や東京など、特定の観光地への観光客集中が深刻化しており、文化財や生活環境への影響が懸念されています。
今後は、オーバーツーリズム指数が示す客観的なデータを基に、各地域の特性に応じた観光戦略の立案が必要です。
観光収入による地域経済の活性化と、地域社会の持続可能性のバランスを保つことが、日本の観光地が取り組むべき重要な課題であると言えるでしょう。
まとめ
EvaneosとRoland Bergerが開発したオーバーツーリズム指数は、世界の観光地が直面する課題を科学的に分析し、具体的な解決策を導き出す画期的な指標となりました。
日本は「保護された観光地」として高評価を受けながらも、一部の観光地では、過度な観光客密度という課題に直面しています。
今後の観光産業には、地域経済の活性化と持続可能性の両立が求められます。オーバーツーリズム指数を活用することで、各地域の特性に応じた、観光戦略の立案と実行が期待できます。
観光による恩恵を最大限に活かしながら、地域社会と環境を守る新しい観光モデルの確立に向けて取り組んでいきましょう。
参照