マイクロビーズとプラスチック削減の最前線|海外・日本の取り組み
こちらの記事でお化粧品の中に含まれるマイクロビーズの問題について触れ、取り組みを行っている海外企業についてご紹介させていただきました。
今回の記事では、マイクロビーズの概要について解説するとともに、各国の取り組みや国内企業の取り組み、商品についてご紹介します。
マイクロビーズとは
マイクロビーズとは、目に見えないほど小さな球状のプラスチックビーズのことを指します。大きさは数ミクロン(0.001mm)から数百ミクロン(0.1mm)程度とされています。化粧品やボディケア用品、工業用研磨剤などに使用され、特定の用途のために最初から小さく作られたものです。
マイクロビーズとマイクロプラスチック
マイクロプラスチックは、大きさが5mm以下の微細なプラスチック粒子を指し、用途や形状に関わらず「5mm以下のプラスチック粒子」を指します。これらは大きく二つに分類されます。
1次マイクロプラスチック(Primary Microplastics)
1次マイクロプラスチックとは、最初から微小サイズ(5mm以下)で製造されたプラスチックで、化粧品、ボディケア用品、工業用研磨剤などに使われています。
例として、洗顔料や歯磨き粉に含まれるスクラブ剤があげられます。
2次マイクロプラスチック(Secondary Microplastics)
2次マイクロプラスチックとは、最初は大きなサイズで製造されたプラスチックが、破砕・細分化して5mm以下になったものです。
不法投棄や適切に廃棄されなかったプラスチック製品(例:ビニール袋やペットボトル)が、紫外線や波、石や砂によって劣化し細かく砕かれて発生します。
マイクロビーズは一次マイクロプラスチックに分類され、特定の用途のために意図的に小さく作られた球状のプラスチック粒子です。通常の排水処理施設では除去が難しく、環境中に流出すると回収が困難で、海や川に流れ出てプランクトンや魚に摂取される可能性があります。
一部の国では規制が始まっており、日本でも業界団体による自主規制が進んでいますが、法律では禁止されていません。
また、人体への影響も心配されています。具体的な健康被害はまだ明確ではありませんが、マイクロビーズを含む製品を使用すると、完全に洗い流せなかった粒子が体内に残る可能性があると言われています。その粒子が体内に蓄積されることで、血管や消化器官にダメージを与える恐れもあるのです。
マイクロビーズの成分表示
マイクロビーズを含む製品の成分は、通常、パッケージやラベルに記載されています。
たとえば、化粧品に含まれるマイクロビーズ(ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、シリコンなど)は、「ポリエチレン末」「ナイロン-12」「コポリマー」「クロスポリマー」などと成分表に表示されます。
ただし、メーカーによっては異なる名称で表示されることがあります。その場合は、メーカーに問い合わせるしかありません。マイクロビーズが含まれる製品を避けるためには、自分が使っている製品の成分をしっかり確認することが大切です。
マイクロビーズの代替成分
化粧品に含まれるマイクロビーズが環境に与える影響は、車のタイヤや合成繊維の衣類と比較するとかなり小さいと言えます。しかし、代替可能であれば、地球にも人にも優しい成分を使うほうが望ましいです。
環境保護の意識が高まる中、世界的にマイクロビーズの使用をできる限り避ける動きが広がっています。そのため、多くのメーカーは洗い流す製品において、マイクロビーズを以下のような天然成分に置き換えています。
- ミツロウ
- コメヌカ油
- ホホバ種子油
- トウモロコシ
- タピオカ
- カルナウバロウ
- 海藻
- シリカ
- クレイ(粘土)
これらの成分は環境に優しく、マイクロビーズの代替として効果的です。
マイクロビーズの環境と人体への影響
マイクロビーズは環境だけでなく、人体にも悪影響を及ぼします。
環境への影響
マイクロビーズは通常の廃水処理施設のフィルターを通過し、川や海に流れ出す。自然分解がされず、数百年間残留する可能性があります。
またマイクロビーズは環境中の化学物質を吸着し、生物体内に入ると生態系を破壊する恐れもあります。東京湾でとれたカタクチイワシの80%からマイクロビーズが検出されたという報告もあります。マイクロビーズは海洋生物に摂取され、これが食物連鎖を通じて広範囲に影響を及ぼす可能性があるのです。
人体への影響
マイクロビーズが含まれる製品を使用すると、皮膚や口内、目に残る可能性があり、これらが体内に侵入することもあります。
また、海洋生物が摂取したマイクロビーズが人間の食卓に並ぶことがあり、人間も間接的に摂取することになります。すると、マイクロビーズが体内に蓄積し、血管や消化器官に影響を与える可能性も。そして、マイクロビーズに付着する有害物質(重金属やダイオキシン)が体内に移行するリスクもあります。最近の研究では、健康な人々の血液や肺、心臓からもマイクロプラスチックが検出されています。
マイクロビーズはその小ささと環境中での長期的な残留性から、深刻な環境および健康問題を引き起こす可能性があり、適切な対策が必要です。
世界各国のマイクロビーズ対策の現状
世界各地から海に流れ込むプラスチックごみの量は年間800万トンと言われており、このまま何も対策を講じなければ、2050年にはごみの量が魚の数を上回るというデータまで発表されています。
ヨーロッパ諸国やアメリカ、カナダ、台湾などはマイクロビーズを使用している商品の製造や販売を規制しています。
詳しくみていきましょう。
アメリカ
アメリカでは、2015年12月に「マイクロビーズ除去海域法」が成立し、2017年7月からマイクロビーズを含む化粧品の製造が禁止され、2018年6月には販売も禁止されました。歯磨き粉なども規制対象となっています。
EU(欧州連合)
EUでは、2023年10月からマイクロプラスチックを含む製品の販売が禁止されました。この規制は、化粧品や洗剤、柔軟剤、玩具、人工芝などに使用されるマイクロビーズに対して適用されます。さらに、オランダ、オーストリア、スウェーデン、ベルギーなどの国々は早くから規制を進め、オランダでは2016年までにマイクロビーズの流通・製造・販売が禁止されました。
フランス
フランスでは、2018年1月にマイクロビーズを含む洗い流し化粧品の製造と市場投入が禁止され、現在ではマイクロビーズを含む製品は流通していません。
イギリス
イギリスも同様に、2018年1月にマイクロビーズを含む製品の製造が禁止され、同年7月からは販売も禁止されました。衛生用品も規制対象に含まれています。
カナダ
カナダでは、2018年7月までにマイクロビーズを含むトイレタリー製品の製造・輸入・販売が禁止され、2019年7月からは自然健康製品も規制対象となっています。
韓国
韓国では、2017年にマイクロビーズを含む化粧品の製造と流通が禁止され、翌年には販売も禁止されました。2021年には、洗剤類へのマイクロビーズ使用も禁止されました。
台湾
台湾では、2018年にマイクロビーズを含む化粧品と洗浄剤の製造・輸入が禁止され、2020年には販売も禁止されました。
中国
中国では、2020年からマイクロビーズを含む家庭用化学品の生産・販売が禁止され、2022年末までに化粧品の製造・販売も禁止されました。
日本におけるマイクロビーズ対策の現状
多くの国で洗い流す化粧品へのマイクロビーズ配合を禁止している一方で、日本では化粧品にマイクロビーズを配合することに対する法律や規制は存在せず、罰則もありません。
では、日本の対策は現在どうなっているのでしょうか。
環境省の調査結果
2020年に環境省が行った調査によると、洗い流しタイプのスクラブ製品10,583件中、マイクロプラスチックビーズを使用している製品は確認されませんでした。しかし、この調査は洗い流し製品に限定されており、ファンデーションなどの洗い流さない製品には依然としてマイクロビーズが使われている可能性があります。
また、マイクロビーズが含まれていなくても、ポリエチレンが他の用途で使用されている製品が194件確認されました。ポリエチレンもプラスチックの一種であり、マイクロビーズ同様に環境や生態系への悪影響が懸念されています。
自主規制の取り組み
日本ではマイクロビーズに関する法的な規制はありませんが、日本化粧品工業連合会が2016年3月に会員企業に対してマイクロビーズの使用の自主規制を呼びかけ、大手メーカーは製品からマイクロビーズの使用を取りやめました。
政府の方針と施策
2019年5月に日本政府は「プラスチック資源循環戦略」を発表し、「2020年までに洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロビーズの削減を徹底する」という方針を発表。これを受けて、環境省は洗い流しのスクラブ製品の販売企業に対してマイクロプラスチックビーズの使用状況を確認しました。
マイクロビーズに対して対策を行っている日本企業
ここからは、マイクロビーズに対して対策を行っている日本企業をご紹介します。
花王株式会社
花王は2016年時点で既にマイクロビーズを代替の素材へ切り替えています。現在花王が扱っているすべての洗顔料、全身洗浄料、歯磨き粉などはマイクロビーズを含んでいません。
また、花王の傘下にあるカネボウ化粧品も代替素材に切り替えています。
花王では「私たちのプラスチック包装容器宣言」として以下の取り組みを推進しています。
花王のプラスチックに対する具体的な取り組みについてはこちら▼
株式会社コーセー
マイクロビーズを環境負荷の低い植物性原料などに置き換えており、2018年1月以降はマイクロプラスチックビーズを含む洗浄料の国内外への出荷を一切行っていません。
また、海に流れ出るのはマイクロビーズだけではありません。コーセーでは、万が一河川に排出されても自然界の微生物によって分解されやすい生分解性のアミノ酸系原料を使用しています。「雪肌精」「インフィニティ」「ソフティモ」など、ほとんどのブランドで採用しています。
また、プラスチックの削減に向けて、植物由来のプラスチックや容器を紙に切り替えるなどして使用量を削減していくとしています。
コーセーの容器・包装における取り組みについて詳しくはこちら▼
株式会社マンダム
GATSBYやBifestaなどの商品を扱っている企業です。マンダムではマイクロビーズに関して、2017年度に代替原料化を完了しています。
そして今後はプラスチック問題への対応として以下のように取り組むと発表しています。
マンダムのプラスチックへの取り組みについて詳しく知りたい方はこちら▼
株式会社ファンケル
ファンケルもマイクロビーズへの対策を行っていますが、2023年7月時点では、ファンケル・アテニアというグループ会社の洗い流し化粧品に「マイクロプラスチックビーズを使用していません」と記載されており、一部の商品にとどまっています。
プラスチック全体に対する取り組みとしては、容器の軽量化やプラスチックから紙へ素材を変えることなどにより、プラスチック使用量削減に力を入れています。
以下、ファンケルが掲げている目標です。
ファンケルのプラスチックへの取り組みについて詳しく知りたい方はこちら▼
最後に
マイクロプラスチックについて、基本的な知識から各国の対策の現状と日本の企業の取り組みについてみてきましたが、いかがでしたでしょうか。
日本では海外のように国による規制がなくても、企業の多くが使用を取りやめるなどの取り組みが進んでいます。
生分解性の高い化粧品用マイクロプラスチックビーズが開発されており、味の素株式会社は独自のアミノ酸技術を生かし、生分解性の高い化粧品用マイクロプラスチックビーズ代替品の開発に成功したと発表しています。
このように、国内での調達が可能になることで、より多くのブランドがマイクロビーズの使用削減に取り組むようになるのではないでしょうか。
化粧品や洗剤などの目に見えない部分に配合されてきたマイクロビーズ。知らず知らずのうちに使用し、環境だけでなく自身の身体にも良くない選択をしてきてしまった人も多いかもしれません。
私たち消費者も、マイクロビーズはもちろん、環境や生態に悪影響を与える物質についての知識を積極的に取り入れ、対象となる製品を選択しないといった行動を取ることが、結果的に、国や企業の対応をより加速させていくことにつながると言えます。
まずは自分の使っている身近なアイテムを見直すことから始めてみませんか。
参照:
株式会社マンダム
マンダムレポート 2020
Kao 花王株式会社
FANCL ファンケル
株式会社コーセー 企業情報サイト
平成28年度国内外におけるマイクロビーズの流通実態等に係る調査業務報告書
味の素㈱、生分解性の高い化粧品用マイクロプラスチックビーズ※1代替品の開発に成功