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COP28 総括

COP28総括

主要産油国で開催された今年のCOP28の最大の焦点は、「化石燃料の段階的廃止」に合意できるかどうかでした。最終的には、「公正で秩序ある衡平な方法で、エネルギーシステムにおける化石燃料から脱却する(transitioning away from fossil fuels in energy systems, in a just, orderly and equitable manner)」ことが合意され、12月13日にCOP28は閉幕しました。「化石燃料の段階的廃止」という明確な文言を合意文章に入れることはできませんでしたが、歴史上初めてCOPにおいて化石燃料からの転換に合意できたことは、大きな成果と言えるでしょう。

COP28が閉幕

COP28総括
COP28 ブルーゾーン 1.5℃実現の重要性を訴える抗議活動

COP28のクロージングスピーチで、COP28の議長であった Dr.Sultan Al Jaber氏は、「世界は新しい道を見つける必要があった。私たちは北極星に従い、その道を見つけたのだ(The world needed to find a new way. By following our North Star, we have found that path)」と述べました。世界は化石燃料時代から脱化石燃料時代へと進みます。今人類が目指している北極星は、2050年までにネット・ゼロを実現することです。公正で秩序ある衡平な方法によって脱化石燃料を実現し、エネルギーシステムの転換を目指します。またCOP28の多くの交渉やパネルディスカッション、イベントで、科学的根拠に基づいた短期目標の重要性が強調されました。

COP28 交渉経緯

最終合意に至るまで、議長から合意文書草案が2回出されました。最初の文書案には「化石燃料の段階的廃止」という明確な表現が入っていました。しかし、この表現に反対をする交渉団からの意見で著しく弱められた表現に変更されました。例えば、OPEC(石油輸出国機構)がOPEC加盟国に対して、「化石燃料に対する圧力が不可逆的な結果をもたらす転換点に達する可能性がある」と緊急に連絡し、「化石燃料を対象とするいかなる文章を拒否するように求める」ことを要請したと、英・ガーディアン紙は伝えています。COP28会期中の12月6日に、クウェートの石油担当重役でOPEC事務局長のHaitham al-Ghais氏が署名した書簡がサウジアラビア、イラン、イラク、ナイジェリアを含むOPEC加盟13ヶ国に送られたそうです。

英・ガーディアン紙はOPECに対して書簡が本物であるかどうかの確認のためにコメントを求めましたが、OPECは回答を拒否したと伝えられました。OPEC加盟国は、世界の石油埋蔵量の80%を所有し、過去10年間に世界の石油の約40%を生産しています。ほとんどのOPEC加盟国にとって、石油生産関連事業は国の主要産業です。「化石燃料の段階的廃止」が決まった場合、その国の経済基盤に大きな影響を与えます。この反対の動きに対し、欧州連合をはじめ、小島嶼国連合や一部のラテンアメリカ諸国連合が大きく反発しました。結果、2050年までに化石燃料から転換していくことで最終合意となりました。

ロス&ダメージ(損失と損害)基金の運用への合意

昨年COP27でロス&ダメージ基金の設立が合意されました。COP28では、ロス&ダメージ基金の運用への合意が開幕直後に発表され、COP28の会場に歓声と拍手が響きました。ロス&ダメージ基金は、気候変動の影響を大きく受ける経済基盤や社会インフラが脆弱な途上国が対象です。今回の合意に基づいて具体的な基金の運用ルールが決められます。最初の4年間は暫定的に世界銀行が基金を運営することも発表されました。基金に対する資金の拠出は義務化されておらず、任意での拠出を促しています。議長国のUAEの1億ドルやドイツの 1万ドル、英国の5,100万ドル、米国の1,750万ドル、日本の1,000万ドルなど、COP28初日に複数の先進国が拠出を表明しました。

初めて実施されたグローバルストックテイク

パリ協定に基づいて各国が定めたGHG排出削減目標(NDC)に対して、5年ごとに世界全体の進捗状況を評価する仕組みのグローバル・ストックテイクが初めて実施されました。グローバル・ストックテイク成果文章・UAEコンセンサスには、1.5℃目標達成のための緊急的な行動の必要性、2025年までの排出量のピークアプト、全てのセクターを対象としたGHG排出削減、2030年までに再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍、持続可能なライフスタイルへの移行等の重要性が言及され、化石燃料からの脱却を加速することが盛り込まれました。また、1.5度実現に向けた科学的根拠に基づき、2035年までに2019年比で世界全体GHG排出量を60%削減する必要性に関しても触れられました。

パリ協定6条2項、6条4項、6条8項の議論

炭素市場のルールメイキングであるパリ協定6条に関する議論は、大きな進展はありませんでした。パリ協定第6条(市場メカニズム)の2項(協力的アプローチ)及び京都議定書時代のクリーン開発メカニズム(CDM)の跡を継ぐ4項(国連管理メカニズム)については、国連への報告等に関する詳細事項について見解の一致に至らず、引き続き議論されることとなりました。 第6条8項(非市場アプローチ)については、各国の取組を登録するウェブ・プラットフォームの運用や今後の作業計画について決定されました。一方で、民間イニシアティブで、カーボンクレジットの売り手側のルールメイキングを行っている、The Integrity Council for the Voluntary Carbon Market(ICVCM)、そしてカーボンクレジットの買い手側のルールメイキングを行っているVoluntary Carbon Market Integrity Initiative(VCMI)は、COP28でも積極的な働きかけを行い、”High Integrity(高い十全性)”のカーボンクレジット創出及び需要喚起の重要性を訴えました。

Jurisdictional REDD+ Technical Assistance Partnership(JTAP)発足

国際環境NGOの5団体(Conservation International, Climate Law and Policy, Enveironemntal Defense Fund, Wildlif Conservation Society, Winrock International)が、COP28の場で政府や地方自治体主導の森林保全対策(REDD+)を技術支援するパートナーシップ「Jurisdictional REDD+ Technical Assistance Partnership(JTAP)」発足を発表しました。炭素市場で、不明確なCO2排出量のベースライン設定などで非難を浴びているREDD+案件の信頼性を取り戻し、熱帯雨林諸国が大規模な森林保全を実施するために必要な資金のアクセスを確保することを目指します。

「公正な移行」の実現に向けて

化石燃料依存の経済システムから脱化石燃料を実現し、持続可能なエネルギーシステムへの急速な転換を行う際、関係する産業分野に従事する労働者や、産業が立地する地域等に甚大な影響を及ぼす可能性があります。誰一人取り残されない形でシステム転換を実現するために重要な概念が「公正な移行(Just Transition)」です。「公正な移行」に関する作業計画(JTWP)を策定することはCOP27で決定されましたが、作業計画の策定を2026年まで継続し、作業計画の効果や効率性の評価等を行うことが決まりました。

持続的な農業を支援「エミレーツ宣言」

COP28の議長国・UAEは、COP開幕前から世界の食料システム転換に関するメッセージを強く発信していました。各国の首脳級が集まり、気候変動対策と農業・食料システム強化の両立を図る「エミレーツ宣言」が12月1日に採択されました。干ばつや洪水などの気象災害によって、食料の安定的な生産と供給システムが脅かされています。気候変動の影響を受けやすい農業者の支援などの施策への取り組みに対し、134の国・地域が採択に応じました。またCOP28では、土壌を修復し、自然環境を回復する農業として、「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」への移行の重要性が繰り返し訴えられ、持続可能な食料安全保証や技術革新への資金や技術支援を行う必要性が再認識されました。

「エミレーツ宣言」によって設定される行動目標では、農業や食品セクターの対策にGHG削減計画を盛り込むだけでなく、食品ロス、生態系の損失と劣化の防止と削減、資金供給、農作物生産者の所得増加などが掲げられます。

COP29の開催地と日程が決定

COP28総括

2024年に開催されるCOP29は東欧州で開催される予定でしたが、ロシアが開催地に異議を唱え、開催場所が再検討されました。COP28会期中に、COP29はアゼルバイジャンで2024年11月11日〜22日に開催されることが決定しました。実際にCOPに参加することで、世界各国がどのような視点や温度感で「気候変動」に関する議論を行っているのか感じ取ることができます。新しいことを成し遂げるには、使命感や原体験を持つことは重要です。サステナビリティ推進を行っている企業の執行役員や担当者は、COPに参加することで、新たな視点やネットワークを構築できる可能性があります。COP29への参加を検討してみてはいかがでしょうか。

気候変動に関する国際的な意思決定のメカニズムとプロセス、どのような関係者がいるかを現場で理解するために、私は初めてCOPに参加しました。政府関係者ゾーンであるブルーゾーンには、国家セクターの関係者だけでなく、非国家セクターのNPOやNGO、民間イニシアティブなどが各国のパビリオンや各々のブースで積極的に活動を行っており、大きなパワーを感じました。COPの会場は多様性に溢れていました。

脱炭素社会の実現に向けて、日本の省庁や民間企業、NPO・NGOが行っている取り組みは積極的で素晴らしいものが多くあります。しかし、日本全体の主要な課題として、以下が挙げられます。

  • 縦社会の構造が強く、官民・市民の横串を指すエコシステムの機能が不十分なこと。
  • 意思決定や対応スピードが遅いテーマ(例えばカーボンプライシング導入など)があり、個々の自主的な行動を促すだけの仕組みが多いこと。
  • 高度経済成長期を支えた産業セクターが主軸の国家戦略になっていること。

日本の脱炭素社会実現に向けた意思決定や行動は、一部の企業や団体が関わっているだけで、もっと多様なステークホルダーが関わる必要があります。多様性の充実こそが、成功のための一番の鍵ではないでしょうか。未来に向けた多様なロードマップを描き、日本全体の脱炭素社会実現に向けた行動をギアアップさせる原動力は、「人」です。日本は多様性の力をさらに掘り起こすことで、本格的なトランジションに着手できるのではないかと思います。

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丸末彩加

丸末 彩加(まるすえ あやか)。幼少期をアメリカで過ごし、日本と海外どちらの視点も入れながら、楽しく社会問題を解決したいと思っています。趣味は旅行と音楽と食べることです。linkedinでも情報発信しています!

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