オランダのアニマルウェルフェア|卵から紐解く取り組みを紹介
日本は、国民一人当たりの鶏卵の年間消費量が世界で3番目に多い国です。目玉焼きや卵焼き、だし巻き卵など、さまざまな料理で使用する鶏卵ですが、鶏卵を産んでいる鶏はどのような場所で飼育されているのか想像したことはありますか?
本記事は、農業大国であるオランダのスーパーマーケットで目にしたアニマルウェルフェアに対する評価の可視化を行っている「The Better Life Label」について紹介します。
卵も!? アニマルウェルフェアに対する意識の高い欧州
アニマルウェルフェアは、日本語で動物福祉と訳します。アニマルウェルフェアは、家畜利用を否定するアニマルライツ(動物の権利)や「かわいそう」という人間の感情に基づく動物愛護とも異なります。
アニマルウェルフェアの基本原則である「5つの自由」は、1960年にイギリスで確立されました。90年代には、欧州連合(EU)を中心にアニマルウェルフェアの基準が法的に定められました。
- 空腹と渇きからの自由(良好な影響の提供)
- 不快からの自由(良好な環境の提供)
- 痛み・損傷・疾病からの自由(良好な健康の提供)
- 恐怖と苦悩からの自由(精神的苦悩を与えない経験の提供)
- 正常行動発現の自由(適切な行動の提供)
EUでは、2012年に養鶏農家に対して採卵鶏のバタリーケージの使用が禁止されました。バタリーケージとは、ワイヤー製の金網の中に鶏を入れ、金網を連ねて飼育する方法です。日本は、国民一人当たりの鶏卵の年間消費量が世界で3番目に多く、国民一人当たり年間約330個の鶏卵を消費していると言われます。日本国内では、鶏卵の生産のために175,917,000羽の採卵鶏(データ:農林水産省 100羽以下の経営施設は除く)が飼養されていますが、そのうちの9割以上がバタリーケージで飼育されています。
オランダのスーパーで見かける「The Better Life Label」
アムステルダムのスーパーマーケットに並んでいる商品は、第三者機関で認証されているものが多くあります。例えば、良く見かける認証は、ヴィーガン認証やフェアトレード認証、オーガニック認証などです。中でも、興味深い認証が「The Better Life Label」です。同認証は、アニマルウェルフェアにどの程度配慮しているかを表すもので、鶏卵コーナーには、写真のような基準が明確に示されています。
「The Better Life Label」は、鶏卵だけでなくハムなどの製品パッケージにもついていることが確認できます。
消費者は、農家から直接商品を購入しないため、商品がどの程度アニマルウェルフェアに配慮しているかについて話を聞くことは困難です。しかし、「The Better Life Label」は、アニマルウェルフェアにどの程度配慮しているのかを星の数で分かりやすく示しています。
「The Better Life Label」の基準
オランダは、農畜産物輸出額がアメリカに次いで世界2位の農業大国です。近年は、環境に対する意識の高まりから国民の「肉離れ」が進んでいますが、以前は国民の95%がお肉を消費していました。一部で肉食文化は見直されつつありますが、肉製品には一定の需要があります。肉製品に対しては新たな動きもあります。それがアニマルウェルフェアに関することです。オランダ国内で飼育されている家畜うち、アニマルウェルフェアに配慮して飼育された家畜頭数が、全体の4億5千万のうち1%しかなかったため、この現状を改善する手段として「The Better Life Label」が導入されました。
「The Better Life Label」の基準は、動物の健康と福祉に関するEFSA科学パネルの科学的データに基づいて作成されています。さらに、動物福祉の基準を定め、満たしている商品にのみ与えられるイギリスのRSPCA Assured認証やフランスのLabel Rougeといった既存のスキームにも基づいています。
オランダは、養鶏農家に対して採卵鶏のバタリーケージの使用を禁止しています。そのため、「The Better Life Label」は、一平方メートルあたりに何頭飼育しているか。どのような飼育環境かといった基準に沿って評価し、星の数を表示しています。
本記事は、鶏卵に焦点を当てていますが、「The Better Life Label」は、牛や豚、ウサギといった家畜に対する認証の評価基準も設けています。
最後に
日本は、欧州と比べ、アニマルウェルフェアに対する取り組みが遅れていると言われます。しかし、日本にも、指針をもとにした「JGAP認証」「有機JAS認証」「持続可能性に配慮した鶏卵・鶏肉JAS認証」といった認証制度があります。また、2019年には、世界動物保健機関の指針に基づき、農林水産省が畜産生産者向けにアニマルウェルフェア改善の実践項目をまとめた指針「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」を公表しています。但し、この「指針」は推奨項目であり、法的強制力はありません。
オランダのスーパーマーケットでは、当たり前のように販売されている平飼い卵ですが、日本では9割近くがバタリーケージで飼育されています。一般的に、平飼い卵とケージ飼いの卵は、栄養面で大きな違いはないと言われています。しかし、ストレスの少ない環境で育った平飼い卵の味について調べてみると、黄身の色や張り、甘みが強いといった特徴があるそうです。平飼い卵を見つけた際は、是非試して下さい。