サステナビリティ推進の鍵|歴史を学び、未来への一歩を踏み出そう!
もし、あなたが企業のサステナビリティ推進の担当者になったら何から始めますか?市場環境の変化を正しく理解し、企業のサステナビリティ取り組みの経緯や背景を知ろうとするのではないでしょうか。
2015年以前の世界の流れ
1960年代は、大量生産・大量消費の時代でした。企業は大量生産・大量消費のビジネスモデル構築が求められました。しかし、60〜70年代に入り、公害などの環境問題が発生します。これによって環境へ配慮することが、市場から求められるようになりました。その後、90年代に向かって株主資本主義が拡大します。利益を出すことが求められるようになりました。その結果、世界全体のGDPは加速して増大します。
2000年に入ると、企業の不祥事が多く発生します。ここで、組織を管理し、健全な経営を目指すためのガバナンスが注目されます。また、企業のグローバル化も進んだことで、世界で起こっている社会問題や環境問題がより複雑化します。そのため、複雑化した情報をしっかりと可視化していこうという動きが出ます。2010年にISO26000が誕生し、日本でも多くの企業がガイドラインを参考にCSR報告書の作成を始めます。
2015年にビッグイベントがありました。フランスのパリで第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催。「パリ協定」(Paris Agreement)が採択され、2016年に発効しました。 京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みが動き始めます。地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度未満に抑え、かつ1.5度に抑える努力を追求することが求められました。このパリ協定を境に、ESG投資が加速したことで世界はCSRからサステナビリティ経営へと大きくシフトしていきます。
日本において、これまでのCSRは、法令遵守や企業の不祥事防止、寄付や植林活動などの社会貢献、ISO26000に沿った広い意味でのコンプライアンス対応などでした。しかし、サステナビリティ経営で求められることは、環境面や社会面の外部不経済を企業経営に内部化することです。あくまでも手段だった日本版CSRから、環境・社会・経済の観点で世界を持続可能なものにしていく、という目標へと変化しました。
これまでも企業や組織は、環境や社会へのネガティブなインパクトを減らすために取り組んできました。しかし、これからは社会に対してポジティブなインパクトを出す攻めのサステナビリティが求められており、どのような姿勢で取り組むのか注目されています。
2015年以降の世界の流れ
2015年はパリ協定だけでなく、国連持続可能な開発サミットにて、2030年に向けた持続可能な開発のためのアジェンダが採択されました。ポストMDGs(ミレニアム開発目標)として、SDGs(持続可能な開発目標)という新たな枠組みが制定されました。SDGsは地球の限界を意味するプラネタリーバウンダリーの中で達成する必要があります。
そして、2021年には、イギリスのグラスゴーでCOP26が開催されました。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロを目指すこと、また1.5度目標が公式文章に明記されました。さらに、各国のリーダーや有志連合は、石炭火力発電の新設を行わないことや、先進国は2030年までに、発展途上国は2040年までに発電所を廃止するなどといった声明を発表しています。気候変動だけでなく、森林破壊に関しても2030年までに森林破壊を終わらせ、回復に向かわせようという声明が発表されました。
今後は、民間企業や自治体の役割がより重要になります。ESG投資の広がりもあり、多くの企業で脱炭素経営に向けた取り組みが広がっています。情報開示のための枠組みやイニシアチブであるTCFDやSBT、RE100など、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。
TCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures)は、投資家などの適切な投資判断を促すため、企業の気候変動への取り組みや影響に関する情報を開示する枠組みです。
次にSBT(Science Based Targets)は、気温上昇を2度未満に抑えるのに、企業が設定した中長期の温室効果ガスの排出削減目標が科学的根拠に基づいているかを認定する国際的なイニシアチブです。
そしてRE100は、企業の事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指した国際的なイニシアチブです。
日本の脱炭素の流れ
日本は、2020年に当時の菅総理大臣が所信表明で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすると宣言しました。同じ年の3月には、機関投資家に対し求める行動原則である日本版スチュワードシップ・コードが改定されました。日本の機関投資家もサステナビリティに関する課題について考慮することが求められています。
企業側に求められる行動原則も変化しました。2021年には東証のコーポレートガバナンス・コードが改定され、サステナビリティ(ESGの要素を含む)に関する課題への取り組みが求められるようになりました。また、2022年4月からは東証が再編され、特にプライム市場ではTCFDに基づいた情報開示が求められています。
サステナビリティの推進
ここ数年でサステナビリティの取り組みに関する情報を発信する企業が増えたり、SDGsのバッジを付けている方が増えました。一方で、サステナビリティに関するセミナーなどに参加すると、推進担当者になったけれどよく分からないという方にもお会いします。
企業でサステナビリティを推進する上でまず重要なのが、トップダウンでコミットしてもらうことです。また、推進担当者には新人ではなくある程度業務内容を把握している入社5年目、またはそれ以上の方が適していると言われています。
業務を進める際、多くの人は「どうやって進めるのか」というhow toから始めてしまい、資料やアンケートの作成に力を入れてしまいがちです。しかし、まずは概念やこれまでの経緯を理解することが重要です。推進担当者がしっかり理解した上で、それらを社内教育で周知していきます。その上で、ステークホルダーとの対話を通じてマテリアリティ(重要課題)を特定していきます。
マテリアリティには、投資家の視点である「財務的マテリアリティ」とステークホルダー視点の「環境・社会的マテリアリティ」の2つがあります。これらは時間の経過と共に変化する性質があります。例えば、新型コロナウイルス。 新型コロナウィルス感染拡大前は、環境や社会に関する「環境・社会的マテリアリティ」の重要度が高かったです。しかし、新型コロナウィルスが世界的に拡大し、世界経済が停滞したことで「財務的マテリアリティ」の重要性も改めて認識されました。環境、社会、財務、全て重要です。
サステナビリティ推進担当者は、時代の流れをしっかりと汲み取りながらサステナビリティ戦略の対応をする必要があります。そして、社内の理解浸透を進め、企業として具体的な取り組みを行うことが求められます。サステナビリティの取り組みを始め、その取り組みを軌道に乗せるには、早くても3年はかかると言われています。推進担当者は片手間ではなく、本業として取り組むことが望ましいでしょう。
最後に
日本のメディアは、SDGsやサステナビリティという言葉を頻繁に使うようになりました。しかし、世界全体をみると、もっと早く動き出しているのです。
なぜサステナビリティやカーボンニュートラルは、グローバルなメガトレンドになっているのでしょうか?これまでの歴史や流れを知り、全体像をを把握することが重要です。