日本の相対的貧困をSDGsの視点から分析|各国の取り組みも紹介
SDGsの目標1である「貧困をなくそう」
この中で述べられる貧困状態にある人々には、極度に貧しい生活を強いられている「絶対的貧困」層と、その国や地域の水準と比較して大多数より貧しい状況にある「相対的貧困」層が存在します。
この記事では、特に日本においても大きな社会課題である「相対的貧困」に焦点を絞り、現状を知るとともにその原因を考えてみましょう。さらには、解決へ向けての日本や各国の取り組み事例についてもご紹介します。
相対的貧困は日本でも大きな社会課題
SDGs1において世界の貧困が問題になっていると聞いても、絶対的貧困が問題となる地域は南アジアやアフリカ南部に集中し、日本国内では一見遠い国の出来事にみえてしまうかもしれません。しかし、日本をはじめとする先進国が自国内で憂慮しなければならないのは、むしろ相対的貧困のほうです。
相対的貧困の定義
相対的貧困のラインは、時代・社会・地域などによって具体的には異なりますが、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人数の平方根で割ったもの)の中央値の50%または60%を貧困ラインと設定しています。
日本の場合、2021年の貧困ラインは127万円(1人世帯)です。この金額に世帯人数の平方根をかけると世帯人数ごとの貧困ラインが求められます。2人世帯だと約180万円、3人世帯だと約220万円、4人世帯だと254万円となり、この基準を下回ると、相対的貧困ということになります。
日本の相対的貧困の現状
日本における貧困率の推移を見てみましょう。1985年から2012年までの相対的貧困率は緩やかに上昇し2012年がピークの16.1%に。それ以降はやや低下しているものの、15%前後と2006年以前と同じような水準をたどっています。
世界に目を向けてみると、相対的貧困率が最も高いのはコスタリカ(20.3%)で、ブルガリア(17.6%)、イスラエル(17.3%)、ルーマニア(17.0%)、ラトビア(16.9%)、メキシコ(16.6%)と続き、7番目が日本となります。日本の相対的貧困率は15.7%で、G7(主要7カ国)の中でワースト1です。先進国で最も貧困率が高い国ともいえる不名誉な結果となっています。
相対的貧困率の推移
さらに、相対的貧困率の推移を見ていきます。
相対的貧困率の推移が緩やかに上がっているのは、日本の高齢化が関係していると言えます。65歳以上の年金暮らしの世帯が増えたことにより、相対的貧困率を押し上げているのです。一方、30歳未満の貧困率は下がっており、これによって貧困率が大きく上昇することがなかったと言えます。
子どもの貧困率
子どもの貧困率が全体的に高いのは、ひとり親世帯の貧困率が高いからだと言われています。
子どもの貧困率が改善しているのは「大人が二人以上の世帯」によるもので、ひとり親世帯の子どもの貧困率は、子ども全体の貧困率ほど改善していません。
「ひとり親世帯」いわゆるシングルマザーやシングルファーザーの世帯においては、親はもちろんのこと、子どもたちの貧困につながるということが大きな問題です。
子どもの貧困率は2012年に大きく上昇し16.1%となりましたが、2021年には11.5%まで低下し1985年の水準に戻っています。しかし、世帯構造別で言えば、ひとり親世帯の貧困率は2021年で44.5%となっており、現状9人に1人の子どもが貧困状態にあるのです。これは、先進国の中でも頭一つ抜けた状態といえます。
ひとり親世帯が増えている背景
日本では2002年に過去最高の離婚件数となりました。それ以降離婚件数は下がってきているものの、1997年以前と比べると多くなっています。これにより、ひとり親世帯が増え、特に親権の問題から母子家庭が多くなってきています。
母子家庭では子育てとの両立が難しいなどの理由から、母親の正社員になる割合が父子家庭より低く、非正規雇用で働かざるを得ないケースが多くなります。そうなると給与が少なかったり待遇が悪かったりするため、貧困状態に陥ってしまうと考えられています。
また、病気や怪我などをすると、非正規雇用の場合は収入がなくなるケースが多くあります。ひとり親の場合は収入源が自分しかいないため、大変苦しい状況に陥ってしまいます。
ひとり親世帯の多くを占めるシングルマザーたちが子どもがいるために正職に就けなかったり、適切な養育費を確保できないなどの要因によって貧困状態に陥ってしまうのです。
それから、近年の物価上昇は平均的な収入のある世帯よりも、困窮世帯に大きなダメージを与えています。弱い立場の世帯の子どもほど、生活は苦しいと推察できます。
日本の相対的貧困問題を解決するためには、こうしたひとり親世帯への支援策に目を向けることが急務といえるでしょう。
子どもの貧困は社会問題につながる
貧困は、子どもの体や心の成長を著しく妨げる可能性があります。
貧困に陥ると、家庭の収入が少ないため3食しっかりとれなくなり、時には学校の給食しか満足に食べられないという家庭も出てきます。また、ひとり親や共働きの場合、子どもは家で1人で過ごさなければならず、食事も孤食となることが多くなります。これは、子どもの体だけでなく心の成長にも大きく影響します。
必要な栄養を取れず、成長期に体が上手く成長できないといった問題だけでなく、親と一緒に食事をしないことにより、精神的な成長ができないまま未成熟な大人になってしまう可能性もあります。
それから、金銭的に塾や習い事に通うことができないため、学力や経験に差が生じ、大人になって就職や生涯収入の面でハンディキャップを背負うことにもつながりかねません。
そして、このような子どもの貧困は、社会全体の損失にもつながる可能性があるのです。貧困者になった場合、納税ができないなどの問題で国が被る社会的損失は42.9兆円になると算出されています。子どもの貧困は、現在だけでなく将来的にも重大な問題であるといえます。
参照:内閣府公式サイト
相対的貧困に取り組む各国の事例
相対的貧困率が高いということは、国内の格差が大きい=格差社会であるということができます。こうした格差社会が大きい国は先進国35カ国の中では、アメリカ、トルコ、チリなどが挙げられますが、日本も7番目に高い水準となっており、どの国でも子どもの貧困が深刻化しているのです。ちなみに相対的貧困率が低い国、つまり国民の格差が少ない国はアイスランド、デンマーク、チェコなどが挙げられています。
では、諸外国はそれらについてどのような取り組みを行っているのでしょうか。ここでは、次の3カ国の取り組みについて簡単にご紹介します。
アメリカ
短期的な日々の生活に必要な所得の維持を目的とした「所得保障」プログラムが展開され、社会保険、増額控除、資産調査を含む公的扶助などを行っています。しかし、これら貧困者(低所得者)を支援しようという策は必ずしも十分な成果を挙げているとはいい難く、現在でも子どもの貧困率は改善していません。経済、雇用、人種、移民問題などさまざまな社会問題へのアプローチを持った抜本的な改革が求められています。
参照:内閣府【米国(第3)貧困実態下にある子供とその家族に対する具体的な支援】
スウェーデン
ひとり親世帯の子ども、特に0~6歳児の子どもがいる世帯においての貧困が顕著に見られ、次いで移民の親を持つ子ども、仕事のない世界の子どもに多く見られます。スウェーデンでは最低賃金レベルが高く、比較的パートタイム労働者が少ないとはいわれていますが、さらに出生から16歳または学業が終了するまでの「子ども補助金」の支給、子どものいる家庭の所得に応じた「住居補助金」の支給など、手厚い社会保障を整備。さらに大学までの授業料は無料で、補助金または貸付金による就学援助もあり、修学期間中の生活支援も行われるなど、子どもの貧困に対しては手厚い支援がなされていますが、子どもの社会的経済的背景と学業成績との関連性があることも指摘されています。
参照:内閣府【スウェーデン 第1 スウェーデンにおける子どもの貧困対策の概要】
イギリス
SDGs採択に先立ち、ブレア元首相が1999年に「2020年までに子どもの貧困を撲滅する」と宣言したイギリスは、その後政府が多くの政策を打ち出し、毎年その実績を公表しています。日本よりも広く貧困層を捉えている貧困率を算出しているため、その数値は高く見えますが、それでも子どもの貧困率は1997年から2010年までに26%から18%に、ひとり親世帯の子どもの貧困率に限ってみれば、49%から22%へと約5割も低下しています。その取り組みはの例は次の通り。
- 貧困の児童数に応じて学校に出される補助金「自動特別補助」
- 子どもが18歳になると引き出せる資産型の経済支援「自動信託基金」
- 子供のいる低所得世帯や親が数弄している低所得世帯への現金給付「タックスクレジット」
イギリスの取り組みの優れた点は、これらの経済支援で就労意欲を失わせない仕掛けや、制度の複雑さを排除して確実に支援を届ける仕組みづくりを統合した点です。
参照:公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン【チャンス・フォー・チルドレンのブログ/「子どもの貧困」対策先進国での取り組みとは?~イギリス編~】
SDGs1「貧困をなくそう」に向けた日本政府の支援策
相対的貧困に対する諸外国の取り組みに対して、日本政府や非営利団体が行っている取り組みを見ていきましょう。
日本政府の主な4つの取り組み
日本政府が行っている取り組みは大きく分けて次の4つの支援策があります。
教育支援
児童養護施設や生活保護世帯の子どもたちへの学習支援、給付型奨学金制度の整備。文部科学省管轄。
生活支援
健康で文化的な最低限度の生活を保証し自立を助長する生活保護制度や、生活困窮書自立支援制度。厚生労働省管轄。
保護者の就労支援
希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識の習得を助ける公的制度「ハロートレーニング」や、母子家庭等就業・自立支援センター事業。厚生労働省管轄。
経済的支援
児童扶養手当の支給、養育費の相談ができる養育費相談支援センターの設立。厚生労働省管轄。
こうした支援策によりひとり親家庭の親の経済的自立を助け、それに伴って子どもたちの貧困率を下げることを目的とした数々の取り組みがなされているのです。
非営利団体の取り組み例
子ども食堂
安い値段で子どもの成長に必要な食事を提供してくれる「子ども食堂」という場所が、ボランティア団体により広がってきています。子ども食堂は貧困に苦しむ子どもだけでなく、その親も利用できます。
また、同じような境遇にある他の子どもや家庭も集まるため、コミュニティが形成され、声を掛け合ったりお互いに相談したりできる場所にもなっています。
放課後教室などの教育支援
塾や習い事に通えない子どもを対象に、ボランティア講師が放課後教室などを開く教育支援も行われています。こども食堂と連携して行われることもあり、全国でこのような活動が広がってきています。
貧困のために学校以外で学ぶ機会がない子どもたちへの心強いサポートになっていると言えるでしょう。
まとめ
SDGs1「貧困をなくそう」の中でも、先進国諸国で問題になっている相対的貧困について、その現状と諸外国や日本の取り組みについて解説してまいりました。
目標1「貧困をなくそう」以外にも、相対的貧困と関係する目標があります。例えば目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標16「平和と公正をすべての人に」などです。貧困をなくし、平等・公正な社会を目指すことは、世界、そして日本が、取り組むべき大きな課題と言えます。
特に日本においてはひとり親家庭の子どもたちのうち、半数以上が相対的貧困状態にあるというのは、決して目を背けることのできない現状です。日本政府としてもさまざまな取り組みを行っていますが、国や自治体の取り組みだけでは取りこぼされる人たちが確実に出てしまいます。そうした層に目を向けた取り組みを行うなどは、一般企業にしかできないことでもありますので、そこに新たなビジネスチャンスの芽は隠れているかもしれません。