代替タンパク質の未来を切り開く|ESG情報開示ガイドラインの重要性
機関投資家の畜産業・養殖業イニシアチブFAIRRと、代替タンパク質を推進する国際非営利団体「Good Food Institute」(以下、GFI)が、代替肉や水産物、乳製品などを生産・販売する企業が気候変動や生物多様性、栄養といったESGに関する情報を開示するガイドラインを開発しました。代替タンパク質に関する事業を行っている生産者や小売業者は、このガイドラインを使用することで自社のインパクトをより正確に評価することが可能になります。
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代替タンパク質が注目される背景
代替タンパク質が注目される背景には、3つの理由があります。
まず1つ目が、タンパク質不足です。タンパク質は、私たち人間にとって重要だと言われている三大栄養素の一つです。動物性のタンパク質であれば肉や魚、牛乳、チーズ、卵。 植物性のものであれば、お豆や豆腐、納豆などを思い浮かべる方も多いと思います。2022年現在、地球の人口は約80億人です。しかし、国連の調査によると2030年には約85億人に、2050年には約100億人になると予測されています。この人口増加と新興国の経済発展や生活水準の向上により、食生活が向上することで、タンパク質の需要と供給のバランスが崩れる「タンパク質危機」が起こり、世界的な問題になると予測されています。
次に、環境問題です。気候変動の主な原因である温室効果ガスですが、世界全体で排出される割合のうち24%と2番目に多くの割合を占めているのが農業畜産業です。その主な原因は、牛のゲップから排出されるメタンガスです。他にも、放牧や農作物を作るために行われる森林伐採などが問題となっています。
3つ目の理由は、家畜に対する抗生物質の過剰投与です。世界で使用されている抗生物質のうち、66%は主に豚や鳥などの家畜に投与されています。WHOは、抗生物質を過剰に投与することは耐性ウイルスの出現や、人への感染の可能性を高めると警鐘を鳴らしています。
そこで、これらの問題の解決や緩和につながると注目されているのが、家畜由来のタンパク質に代わる代替タンパク質です。代替タンパク質に対する投資は、2021年までの5年間で91%の平均成長率を記録しています。2040年までの売上高は、最大1兆1000億ドル(144兆円)となり、食肉市場の6割を占めるようになると予想されています。
代替タンパク業者向けのガイドライン
代替タンパクが注目され、投資が増えている一方で、代替たんぱくの製造・販売を手がける企業に対する非財務情報を評価・開示するための基準やガイドラインはありませんでした。
FAIRRとGFIが無料で公開するガイドラインは、ユニリーバやダノン、WWFなど50以上の企業や投資家、NGO、ESG・LCAの専門家の方々の知見をもとに、共同で開発されています。このガイドラインには、「専門企業向け代替たんぱくESG報告フレームワーク」と「総合企業向け代替たんぱくESG報告フレームワーク」の2種類があり、情報公開を行う企業の負担を減らすため、SASBやCDP、Bコープ認証といったフレームワークとも一定相関性を持たせる設計がされています。
「専門企業向けのフレームワーク」は、肉や乳製品、乳タンパク、ゼラチンなどの代替タンパクを主に扱うメーカーや原料の調達を行うサプライヤー向けに設計されています。フレームワークには、調達や認証、消費者エンゲージメント、土壌の健全性、プラスチック廃棄物、水の消費量と栄養といったESGに関する項目が含まれています。
一方の「総合企業向けのフレームワーク」では、代替タンパク質の製品ポートフォリオを有する食品会社や小売、製造、また動物性タンパク質も扱う製造業者向けに設計されています。
このフレームワークは、既存のフレームワークをもとにすでに報告・情報開示しているデータを補完する目的で作られています。つまり、ロビー活動や水資源の管理、資源循環などの代替タンパク事業に関するESG情報の開示について、より詳しい開示ができるガイドラインであると言えます。また、意思決定者が動物性タンパク事業と代替タンパク事業を比較できるよう、企業が気候変動や生物多様性、社会、ガバナンスに関連する目標を達成し、事業転換に向けた支援を行う役割も果たします。
最後に
時代の流れによって、新たに注目が集まる代替タンパク質業界に特化したESGフレームワークは、今後代替タンパク質の市場が成長する過程でより重要性が高まります。
企業はフレームワークを活用することで、パフォーマンスをより詳細に把握し、長期的インパクトを評価するのに役立ちます。また情報を公開することで、事業の透明性やポジティブインパクトを伝えることができるため、投資を受けやすくなったり消費者から選ばれやすくなるといったメリットがあります。