ISO26000から始めるサステナビリティ経営|中核主題を解説

世界全体で、気候変動を含めた地球環境問題への意識が高まり、多くの企業がESGによる情報開示を進めています。お金を儲けていればよかった時代から、グローバル化が進む中で環境問題や人権問題などが発生し「企業の社会的責任」が求められるようになりました。
ISO26000をご存知でしょうか?組織が、グローバル基準で社会的責任活動および事業経営を推進する上での課題が分かりやすくまとまっています。ISO26000はガイダンスであり、認証を伴うものではありません。民間企業だけでなく、どのような組織にも対応できる内容となっています。ISO26000は7つの章に分けられていますが、本記事では、第4章の社会的責任の原則と6章の7つの中核主題についてそれぞれ詳しく見ていきます。
ISO26000とは
スイス・ジュネーブに本部を置く、ISO(国際標準化機構)*が「地球社会の持続可能な発展」を目指して、企業や組織の行動を促進するために策定したガイダンス文書がISO26000です。
(※)ISO(国際標準化機構):電気・電子技術分野を除く全産業分野における国際規格を策定する民間の非政府組織
この規格は、2005年から5年間、政府、産業界、労働者団体、消費者団体、NGOなどの多様なステークホルダーによる作業部会で議論され、2010年11月に正式に発行されました。
ISO26000では、社会的責任の範囲を定義し、組織が取り組むべき課題を特定し優先順位を決定するために、7つの中核主題に焦点を当てることが推奨されています。それらは、組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、およびコミュニティ参画と開発です。このガイダンスを基に、持続可能で社会的責任を果たす組織運営が期待されています。
ISO26000の全体像

第4章と6章では、組織が社会的責任を果たすための具体的な実践内容として「7つの原則」と「7つの中核主題」を示しています。
7つの原則は「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」で、7つの中核主題を実践するために踏まえるべき原則です。実践課題として挙げられた7つの中核主題が「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティーへの参画及びコミュニティーの発展」で、各主題の中に全体で36の具体的な課題が設けられています。
4章「社会的責任の原則」
社会的責任の原則として、以下の7つの行動原則が記載されています。
説明責任
事業活動を行う上で環境や社会に与える影響に対して、説明責任を負い、責任の取れる状態にあること。故意でなく、また予想していなかったマイナスの結果を招いてしまった場合は、再発防止に関する説明責任を行うべきである。
透明性
組織情報はもちろん、社会的責任に対する評価基準、事業活動によってステークホルダーや環境、社会、経済が受ける、または受けうる影響について開示する情報は透明であること。
倫理的な行動
組織の目的や活動に合った行動規範を作成し、導入すること。また、それは国際行動規範と生合成が取れていること。これらがきちんと機能するような体制作り、違反があった場合に、報告できる仕組み(内部通報制度)を構築すること。業界によっては、動物倫理への配慮も忘れてはならない。
ステークホルダーの利害の尊重
誰が組織にとってステークホルダーであるかを特定する。ステークホルダーには大きく内部(経営者、従業員など)と外部(株主、メディア、消費者など)に分けることができる。さらに、将来ステークホルダーになりうる人々に対する配慮も忘れないこと。彼らの利害や法的権利を認識し、事業活動によって影響を受ける場合は、彼らの見解を考慮すること。
法の支配の尊重
法律は守って当然かつ義務であり、管轄地域の中で執行されていない場合も遵守する必要がある。よって全ての法的義務を把握することはもちろん、変更などがないか定期的に確認すること。
国際行動規範の尊重
国際行動規範とは、普遍的に認められている国際慣習法のこと。定期的に確認することはもちろん、知らない間に加担しないよう注意をすること。
人権の尊重
組織は国際人権章典に規定されている人権を尊重すること。保護されていない場合は、国際行動規範の尊重の原則を守ること。
6章「7つの中核主題」
7つの中核主題には、組織が取り組むべき課題がそれぞれ36記載されており、ステークホルダーの声を元に選択して実践していくことが求められます。さらに、300以上の期待される行動が具体的に記載されています。

組織統治
組織統治はそれ以外の課題に取り組む上で最も重要です。組織統治を進める上で期待されるものとしては、社会的責任に対するコミットメントが期待されています。また、意思決定のプロセスやシステムを構築すること、そして決定や活動に関する説明責任も望まれています。
人権
人権の項目には5つの原則が記載されています。
- 人権は、全ての人に属する固有のもの
- 人権は、破棄することも剥奪することもできない絶対的なもの
- 人権は、全ての人に適用される普遍的なもの
- 人権は、無視することの出来ない不可分なもの
- 人権は、相互依存的なもの
これらを満たすために、企業はまず人権デューデリジェンスを行うことが大切です。人権方針を策定し、状況を把握、追跡や検証というサイクルを回していくことが求められます。
組織が特に注意すべき点としては、サプライチェーンの上流への人権配慮です。「把握していなかった」「知らなかった」というのは通用しません。また、加担というリスクもあるため注意が必要です。これには3つのパターンがあります。
- 直接的加担:意図的な人権侵害の支援
- 受益的加担:他社の人権侵害からの利益獲得
- 暗黙的加担:他社の人権侵害への暗黙
労働慣行
労働は商品ではなく人権として位置付けられており、尊重する必要があります。労働組合ができていることや、労働における安全衛生や職場での人材育成や訓練などが課題として挙げられており、それらに対する解決が求められます。
環境
環境の項目には4つの課題が記載されています。
- 汚染の予防
- 持続可能な資源の利用
- 気候変動の緩和及び気候変動への適応
- 環境保護、生物多様性及び自然生息地の回復
これらの各課題に対してどのような取り組みを行うのか。エネルギー効率や有害化学物質の使用と処理について、最近では生物多様性に対する評価と保護についても取り組むことが求められています。
公正な事業慣行
組織が他の組織と関わる際に倫理的に正しく行動することが求められています。汚職防止はもちろん、政治献金やロビー活動に対する透明性も求められます。
消費者課題
消費者は弱者であり、消費者の権利として十分な利益や正しい情報を伝えなければなりません。
コミュニティーの参画及び発展
コミュニティーとは、組織の所在地のある、または組織が影響を及ぼす地域のことを指します。このコミュニティーが発展していけるよう、インフラ整備などの社会的投資はもちろん、健康への配慮や雇用の創出など組織も貢献していくことが求められています。
ISO26000に取り組んでいる企業
ここからは、ISO26000に取り組んでいる3つの日本企業を紹介します。
ローム株式会社

ISO26000をベースに取り組んでいる企業の例として、半導体・電子部品の製造をおこなっている、京都の会社 ローム株式会社(以下、ローム)をご紹介します。ロームは「コーポレートガバナンス」「コンプライアンス」「人権」「情報セキュリティ」を事業基盤の4つの柱とし、情報を全てホームページに公開しています。
サステナビリティのページには、まず初めにトップコミットメントがあり、次に「環境」「人材」「調達」それぞれの項目に関する考え方や方針、実際に行っている取り組みなどが詳しく紹介されています。ISO26000をベースに行動指針の策定や遵守している国際原則や規範も記載されているので、今後取り組みたい企業様は是非参考にしてみてください。
アステラス製薬

アステラス製薬は、研究開発型のグローバル製薬企業として、医薬品の開発・販売を中心に事業を展開しています。主に、がん領域や免疫領域、泌尿器科など、患者さんのQOL(生活の質)向上を目指した革新的な医薬品の提供を重視しています。また、医薬品を軸とした「Rx+」と呼ばれる新たな事業モデルにも取り組んでおり、医療と最先端技術を融合させたサービスの開発も行っています。
アステラス製薬は、ISO26000に基づいたサステナビリティ活動にも積極的に取り組んでいます。具体的には、持続可能な医療・創薬環境の実現を目指し、環境保護や労働者の権利尊重などの分野で活動を展開。また、環境面では生物多様性保護、エネルギー使用の削減、資源の循環利用なども進めており、気候変動への対策も講じています。
株式会社ペンシル

株式会社ペンシルは、研究開発型のウェブコンサルティング会社として、デジタルマーケティング戦略の支援を中心に活動しています。ペンシルは、顧客企業のウェブサイトの分析や改善を行い、売上向上やマーケティング効果の最大化を図っています。また、最新のIT技術やデータ分析を駆使して、企業がインターネット上で成功するためのソリューションを提供しています。
ISO26000のガイダンスに基づいたサステナビリティ活動にも積極的です。社会的責任を果たすために、環境保護、人権尊重、ダイバーシティ推進、持続可能な経営の実現に注力しています。ペンシルは、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を掲げており、環境保護や社会的責任に配慮した企業活動を進めています。また、従業員の健康的な働き方を推進し、ダイバーシティを尊重した経営方針を採用しています。
最後に
これまでCSR(サステナビリティ)は、慈善的なことだと考えられてきましたが、現在は企業活動が環境や社会に対してどのような影響があるのかを透明性を持って説明することが求められています。そして、それらの非財務情報を元に評価される時代に変化しています。