オランダの交通事情|温室効果ガス排出削減に向けた取り組みとは
自転車大国オランダの街中には、自転車専用車両が整備されており、歩行者とは別に自転車専用の信号機が設置されています。しかし、オランダの主要都市には、自転車以外にも自動車やバス、路面電車、鉄道といったさまざまな交通手段があります。本記事では、アムステルダムとロッテルダムというオランダの2大都市で目にした、温室効果ガスの排出削減に向けた公共交通機関の取り組みを解説します。
2030年からガソリン車の乗り入れを全面禁止
オランダのアムステルダム市は、2020年以降、ディーゼル車の市内走行を段階的に制限し、2030年以降はガソリン車の市内乗り入れを全面的に禁止する計画を公表しています。2030年以降、市内での走行が認められる自動車は、二酸化炭素を排出しない電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)のみです。この政策は、ディーゼル車から排出される窒素酸化物や粒子状物質、二酸化炭素による大気汚染の抑制にも繋がります。
但し、同政策を実現するためには、市内に電気自動車を充電するための充電器スタンドを数多く設置するなど、インフラ整備も同時に行う必要があります。
都市部で見かける電気自動車
2023年2月現在、市内中心部でガソリン車をよく目にします。市内を走行しているガソリン車は、EURO6というEUが施行した排ガス規制に適合している車種のみです。走行の制限が行われている「ローエミッションゾーン」から中心部へのルートをGoogleマップで検索すると、注意書きと通行できる条件を案内するウェブページが表示されます。
アムステルダムやロッテルダムでは、電気自動車のシェアリングサービスも行われています。現地の住民に話を聞くと、自動車は所有していないが、必要な場合は電気自動車をレンタルしているそうです。オランダには「Mywheels」「Sixt Share」といった電気自動車のみを扱うシェアリングサービスが展開されており、電気自動車のシェアリングが住民の間でも浸透しているのだと感じました。
電気自動車は、返却時に従来の自動車と同様、充電を行って返却する必要があります。「Mywheels」は、利用者がストレスなく電気自動車を利用できるよう、充電器スタンドを探すことのできる専用のアプリも開発しています。このアプリを使えば、現在地から近い充電器スタンドを見つけることができます。
頻繁に自動車を必要とする住民は、シェアリングサービスを利用するのではなく、自動車を所有します。アムステルダム市内の住宅街を散策すると、Biròと呼ばれる小型の電気自動車を見かけます。充電スタンドと電気自動車、どちらが先かは不明ですが、住宅地周辺に充電器スタンドが整備されることで、住民は電気自動車を選択しやすくなります。
自転車社会に向けたインフラ整備も
オランダは、国の総人口よりも自転車の台数の方が多く、自転車を中心としたインフラが整備されています。アムステルダムとロッテルダム、どちらの都市も自動車、歩行者、そして自転車専用の車両が整備されています。そして、自転車を停める駐輪場も至る所にあります。駐輪場は路上だけでなく、地下や使用していない建物を利用した駐輪場などがあります。2023年1月には、アムステルダム中央駅の目の前に11,000台を収容できる巨大な地下駐輪場が完成しました。駐輪場は、アムステルダム中央駅に直結しており、シェア自転車を駐輪する場所も完備されています。
アムステルダムの運河を行く船も電気に変わる
アムステルダムの中心部を横断するように張り巡らされている運河では、リチウムイオン電池を搭載したボートが航行しています。アムステルダム市は、2013年に船舶に関する政策文書を採択しました。同政策では、運河を航行するすべての商業船舶が、2025年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする必要があると定めています。運河沿いにあるショップの従業員は、船のエンジン音が静かになるので嬉しいと話していました。
ロッテルダム市内を走るバスの電力源は全て電気
オランダ政府は、2016年に公共交通事業者と共同で、2030年までに全ての公共バスを温室効果ガスを排出しないエミッションフリーな車両に置き換えることを発表しています。
オランダ第2の都市ロッテルダムを走行する公共バスの電力源は、全て電気です。2019年、同市は市内を走行する公共バスの一部を電動車両に置き換えましたが、現在は全てが電動車両です。ロッテルダム中央駅のそばには、バスの最終地点があり、電動車両が充電されている様子を見ることができます。
最後に
私は、オランダといえば、資源を循環させるサーキュラーエコノミーを推進し、風力発電といった再生可能エネルギーで電力を賄っている「グリーンな国」というイメージを持っていました。しかし、Statistaが公開している2019年のデータによると、EU内で6番目に多くの温室効果ガスを排出しています。そして、同国の交通・物流産業は、建設産業、エネルギー産業に次いでオランダ国内で3番目に多くの温室効果ガスを排出しています。
オランダは、国土の4分の1が海抜0メートル以下のため、地球温暖化によって海面が上昇すると多くの場所が水没するリスクに晒されています。オランダは、国が中心となって、自転車の普及に向けたインフラの整備や電動車両の導入など温室効果ガス削減に向けて、積極的に取り組んでいる印象を受けました。2023年の2月時点、アムステルダムやロッテルダム市内では、ディーゼル車が走っていましたが、これから電気自動車や電動バスが普及する過程で、オランダの街並みがどのように変化していくのか楽しみです。