環境先進国オランダとドイツに滞在して気付いた日本との違い
2023年2月にオランダとドイツを視察した際、オランダとドイツ在住の日本人の方々にサステナビリティに本気で取り組んでいる欧州について話を聞きました。私が話をして感じたことは、経済的、時間的、心理的な余裕がないと、新しい価値観を許容しにくいのではという点です。日本のサステナビリティへの変革を妨げているものは、サステナビリティに対する意識の高さだけではないかもしれません。
トップダウンで進めるサステナビリティ
私が訪れたオランダとドイツは、一部の使い捨てプラスチックの市場流通を禁止しています。街中やレストランで使い捨てのプラスチックを見かけることはほとんどありませんでした。
キッチンカーに置かれているカトラリー類も全て紙製です。また、ケチャップも小袋ではなく、自分で必要な分だけ取れる仕組みです。
日本でも、環境や動物への配慮を促進する「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」、プラスチックの資源循環や削減を促す「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラスチック新法)」といった制度があります。しかし、いずれも強制力はなく、各団体や企業の任意で対応が行われています。日本は、他国と比較して、ルールを守る国民性があると言われています。意思決定の方法には、上層部が意思決定を下すトップダウン式と現場の意見を尊重するボトムアップ式があります。状況に応じて臨機応変に活用する必要がありますが、サステナビリティの分野においては、政府がトップダウン式で制度を整えることで、一気に取り組みが加速するのではないかと感じます。
国民性を考慮することも大切
オランダは、資源を循環させるサーキュラーエコノミーの取り組み先進国です。この政策が浸透し、国民に受け入れられた背景には、政府が国民を巻き込みながら進めたこともありますが、オランダ人の倹約好きな国民性ともマッチしていることも挙げられます。
一方ドイツも、毎週末街のどこかでフリーマーケットが開かれるほど、ものを最後まで使うことが根付いています。ドイツの冬は長いため、獲物を獲ることができません。よって、長い冬を乗り越えるためには、限られた資源の中で計画的に生活する必要がありました。ドイツ人がものを大切に使い、節約を美徳とする考え方の背景には、長い国の歴史があります。
日本も、江戸時代は鎖国をしていて資源が乏しかったため、資源が循環するシステムが自然と構築されていました。今の日本は、多くのもので溢れていますが、エネルギーや食料といった資源を海外から輸入しています。それにも関わらず、まだ食べることのできる食材を大量に廃棄する「食品ロス(フードロス)」問題を抱えています。
日本でサステナビリティを推進するためには、他国の制度や事例を真似るだけではなく、国民性に合わせた制度を整えることも重要です。ドイツ在住の日本人の方は「日本は、地震や津波など災害が多い国で、来たものに対して対処していく国民性。だから地球温暖化に対しても、あまりピンとこないのではないか」と話していました。地球温暖化の対策には、「緩和」と「適応」の2種類があります。「緩和」は、地球温暖化の原因である温室効果ガスの削減を目指します。一方「適応」とは、気温が上昇しても生態系や社会システムを調整することで影響を軽減することを目指します。
「緩和」と「適応」はどちらも重要ですが、「1.5度目標」の達成に向けて、2050年までにカーボンニュートラルを達成し、温室効果ガスの排出量を削減する「緩和」に関する施策は、世界全体にとって不可欠です。日本の緩和策は、省エネと再生エネルギー普及を中心とした施策になりますが、起きた出来事に対して対応するのではなく、温度上昇を食い止めるための施策を積極的に行ってほしいと願います。
性的マイノリティLGBTQ+に対して
日本は、G7の中で唯一、同性婚が認められていません。しかし、オランダは、世界で初めて同性婚を認めた国です。
オランダ – 中心部や住宅地で、Prideのレインボーフラッグが掲げられています。
オランダ – 最寄駅の歩道橋は同性愛を祝福するレインボーブリッジを表現しています。
オランダでは、多くの場所のお手洗いがジェンダーフリーになっています。そのため、誰もが自認している性別でお手洗いを使用することができます。私がオランダで訪れたレストランでの出来事です。お手洗いの扉を開けると、男性がいました。最初は、男性のお手洗いと間違えてしまったのかと一瞬驚きましたが、男性は、オムツ交換台を利用して赤ちゃんのオムツを替えていました。
一般的に、オムツ交換台は女性のお手洗いに設置されている場合が多いです。しかし、ジェンダーフリーにすることで、性別に関係なく赤ちゃんを連れている人が、オムツ交換台も使用することができます。
また、ドイツのテレビでチューイングガムのCMを見ました。2人の女性がドライブをしながらチューイングガムを噛み、息が爽やかになったところでキスをするシーンが映し出されます。最初は、日本の常識で想定していなかった展開に驚きました。日本でこのテレビCMを流せば、一瞬で炎上すると思いますが、ベルリンでは違和感なく馴染んでいると感じました。
日本人は、働き方を見直そう
サステナビリティを推進する上で重要な点は複数ありますが、最も重要と感じる点は、自分ごと化することです。「貧困」や「食料危機」「水不足」といった社会問題は、日本にいると身近に気づく機会が少なく、遠い国のことのように感じます。しかし、日本が抱えている「子どもの貧困」や「ヤングケアラー」といった問題に対してはどうでしょうか?同じ国で起こっている社会問題であっても、自分や家族、友人などの身近な人々が当事者でない場合、自分ごとのように考えることは難しいように思います。
SDGsが掲げる、誰一人取り残さず、持続可能な社会を実現するためには、辛い思いをしている人々のことを思いやり、行動することが求められます。その手段として、買い物時にエシカルな選択を選ぶことができる、といった「余裕」が必要です。
ベルリンは、自国だけでなくウクライナやカタールの人権問題に対しても声を上げます。また、自分が金銭的に余裕がある場合は、生態系や農家の健康に配慮することのできる「オーガニック」な食材やエコな洗剤を選んでいます。
ハンブルクでフェアトレードの商品を中心に販売しているショップの店員に話を聞きました。彼女は、普段買い物するときも、フェアトレードやオーガニックの商品を購入しているそうです。私は彼女に、どうしてエシカルな選択をするのか聞いてみました。彼女の答えはとてもシンプルです。「だって、同じように必要なものを購入するのであれば、環境や動物、人に優しい方が嬉しいでしょ?」と。そして「オーガニックは、環境にも身体にも優しいと聞いているし、自分にできることから始めていく。このショップも、必要と言われなけばレシートが発行されない機械を導入している。小さな取り組みだけど重要だ」と教えてくれました。
日本の社会全体でサステナビリティの取り組みを推進していくカギは何でしょうか? 私はサステナビリティと直接関係ないことではないかと感じます。今の日本は、経済的かつ心理的な余裕を失っています。新しい価値観を受け入れるためには、特に心の余裕は欠かせません。そのため、まず労働生産性を上げ、金銭的にも時間的にも余裕を持てる状況を作り出すことが重要ではないでしょうか。
また、ドイツのサービス業は、基本的に必要最低限のサービスしか提供していないと、ベルリン在住の日本人の方は話をしていました。つまり、過剰なサービスはしないということです。日本は、お客様が神様という考え方があるせいか、サービスが過剰になっている部分があるということです。
必要最低限のサービスのみ提供するドイツのやり方が、日本でも同じように受け入れられるとは限りません。私自身、お客様により喜んでもらいたいという気持ちから行われているプラスアルファのサービスは、日本の良さだと感じます。しかし、労働生産性を高めるためには、適切なサービス水準に調整することも重要だと気づきました。労働生産性が高まることで、他のために割く時間的な余裕がもたらされます。
最後に
オランダとドイツに滞在し、環境配慮やプラスチック、ゴミの分別、アニマルウェルフェア、生物多様性といった視点で街を散策すると、多くの発見がありました。また、現地に長期で住んでいるからこそ気づく点は多いと感じます。
今回紹介したオランダとドイツの取り組みからヒントを得ることはできますが、同じやり方が日本でも浸透するとは限りません。日本の長い歴史の中で確立された価値観や国民性を尊重する必要があります。しかし、変えていくべきところは変化を加えながら、社会全体でサステナビリティを推進できることを願います。