ブルーカーボンとは?脱炭素社会に向けた新たな炭素吸収源を探る
地球のエコシステムの価値や偉大さが改めて認識されています。環境や自然に関する科学的エビデンスの質が向上し量が増えたことで、感覚的ではなく科学的エビデンスに基づき取り組みの判断を行えるようになりました。気候変動も科学的エビデンスに基づき、議論されているテーマです。科学的なエビデンスを持って、二酸化炭素の吸収源としての効果が証明されつつある分野がブルーカンボンです。
ブルーカーボンとは
ブルーカーボンとは、海藻、植物プランクトンなどの海洋生物によって吸収される炭素(カーボン)のことを指します。海洋は、地球の面積の約7割を占めており、世界全体で排出される二酸化炭素のうち、30.5%を吸収しています。陸上では、森林などの植物による炭素の吸収が行われており、世界全体で排出される二酸化炭素の12.5%を占めています。これらは、グリーンカーボンと呼ばれています。吸収されなかった残りの57%は、全て大気に放出されてしまっているため地球の温暖化が加速しています。
ブルーカーボン生態系
二酸化炭素は水に溶けやすい性質があり、海洋全体の二酸化炭素量は大気中の50倍です。海の植物は、光合成の過程で二酸化炭素を吸収します。海における主な吸収源は、海草(アマモなど)や海藻の藻場湿地・干潟、マングローブ林などです。これらを総称して「ブルーカーボン生態系」と呼びます。
海草は砂泥などの海底に生息し、地中に張った根から栄養を吸収します。一方、海藻は岩礁などに体を固定し、葉っぱから栄養を摂取します。
日本で一番大きな二酸化炭素吸収源は、海草(アマモなど)や海藻の藻場と言われています。
注目される理由
日本のこれまでの温暖化対策は、森林、農地土壌炭素、都市緑化などのグリーンカーボン生態系がほとんどでした。しかし、菅元総理大臣が日本の2050年カーボンニュートラルを宣言したことで、新たな炭素吸収源を探す動きが活発になりました。
また、SDGs目標14番「海の豊かさを守ろう」のターゲット14.3 には「あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する」とあります。海水が酸性化してしまうと、炭素を吸収している海草(アマモなど)や海藻、サンゴ礁などが生存できなくなります。海洋の酸性化の進行によって、海洋全体の炭素吸収源が減少し、地球温暖化を加速する可能性があります。
可能性を秘めている瀬戸内海
日本の藻場は、多くの二酸化炭素を吸収している可能性が高く、日本のどの地域に多くの藻場が存在しているか、そしてそれぞれの藻場がどの程度の二酸化炭素を吸収しているかについて、研究が進められています。
水産庁が発表している「藻場・干潟の二酸化炭素吸収・固定のしくみ」によると、海草(アマモなど)や海藻は種類分けすることが出来ます。具体的には、アマモ、ガラモ、アラメ、コンブなどの種類があり、どの種類の藻場がどの地域にあるのか、2010年基準で調査結果を発表しています。
※アマモ(密)と(疎)は密度を表しています。
研究を行った専門家によると、面積が30ha以上ある密生したアマモ場は、炭素吸収量が多いことが判明したそうです。また、アマモ場の近くに二酸化炭素の吸収力が高い岩礁性藻場(葉の部分から吸収する海藻)があると、より多くの二酸化炭素が吸収されることが分かりました。アマモ場が30ha以上あり、近くに岩礁性藻場があるという条件が揃っている地域(ピンク色)は、瀬戸内海に多く分布していることも分かっています。
企業による環境貢献の可能性
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、2020年に制定され、ブルーカーボンについて「カーボンオフセットの検討を行う」と記載されています。
具体的に検討を進めている施策の1つが、「Jブルークレジット」制度の構築です。「Jブルークレジット」とは、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が発行するカーボンクレジットのことです。企業は、申請者(ブルーカーボン生態系の養殖現場の関係者)の二酸化炭素吸収量を買取ることで、排出する二酸化炭素を相殺させる仕組みです。具体事例として、セブン&アイ・ホールディングスは、2021年に横浜港が発行した「Jブルークレジット」を購入しました。同社は、横浜港における藻場づくりの取り組みを活性化し、さらなる二酸化炭素排出削減に貢献すると発表しています。
自治体による環境貢献の可能性
国土交通省は、ブルーカーボンを活用したまちづくり構想を推進しています。
藻類は100%自然由来のものだけでなく、昆布など人工的に育てることも可能です。横浜市はわかめの養殖を行い、このわかめの地産地消を行なっています。
最後に
新たにブルーカーボンの取り組みを始める際、気をつけるべき点があります。地域本来の生態系への影響です。環境デューデリジェンス(環境リスクや法的責任を評価するプロセスの実施)も重要となります。今後、グリーンカーボンプロジェクトのように、数多くのブルーカーボンプロジェクトが創出されることを期待します。
参照:
藻場・干潟の二酸化炭素 吸収・固定の仕組み 水産庁
農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究「脱炭素・環境対応プロジェクト」「ブルーカーボンの評価手法及び効率的藻場形成・拡大技術の開発」
ブルーカーボンとリソース 刑部真弘
報道発表資料:脱炭素社会の実現に向けたブルーカーボン・オフセット制度の試行について
セブン‐イレブンはアマモ場づくりを推進しています 『Jブルークレジット・カーボンオフセット』に参画