スウェーデンの持続可能な開発目標達成へ向けた取り組みと成功要因を解説
スウェーデンは北ヨーロッパに位置し、スカンジナビア半島にある国の一つです。
日本の1.2倍ほどの面積に、約1,050万人が暮らしており、日本に住む私たちからするとやや小さな国のように思えるかもしれません。
しかし、スウェーデンは世界193か国におけるSDGs目標達成度ランキングで常に上位をキープし、2024年はフィンランドに続き2位となりました。
今回は、SDGs目標に大きく貢献しているスウェーデンの取り組み事例を紹介するとともに、なぜそこまで達成度が高いのかについて解説します。
参照:Here are your key facts about Sweden, as an introduction
スウェーデンのSDGsへのコミットメント
スウェーデン政府が2017年に発表した2030年アジェンダには、特に以下の分野に力を入れることが示されています。
- 社会的に有益で循環型のバイオベースの経済
- 企業の社会的責任
- 持続可能で健康的なフードチェーン
- 知識とイノベーション
加えて、持続可能なエネルギーの確立(SDGs7)、気候変動の解決に向けた取り組み(SDGs13)持続可能な海洋資源の目標達成(SDGs14)、持続可能な生産と消費のプロセスへの移行(SDGs12)を特定の課題に設定しています。
かねてから環境問題への意識が高いスウェーデンは、国土の約6割を森林が占めています。
2019年、スウェーデンの環境保護庁によって行われた調査では、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(GHG)の排出が、生物の多様性や生息環境を脅かしている点が明らかになりました。
こうした課題を抱えながらも、景観にもつながる生態系の回復を強化し、人間だけでなく地球上に住むすべての生き物が安心して暮らせる環境づくりを目指しています。
参照:Sweden country profile – SDGs and the environment
具体的な取り組み事例
ここからは、スウェーデンが行っている取り組みについて、分野ごとに分けてご紹介します。
環境保護
スウェーデンは1967年、世界に先駆けて環境保護法が成立した国であり、1972年には国連で初めて国際環境カンファレンスを開催しています。
森や湖といった自然豊かな国土を持ち、森林産業も発達している背景から、スウェーデンでは環境保護に関する数多くの取り組みを行ってきました。
再生可能エネルギーの導入
2022年時点のスウェーデンでは、国内に供給される電気のうち、およそ60%が再生可能エネルギーによる電力で賄われています。
以下は、IEAによるスウェーデン国内でのエネルギーミックス(※)を示した図です。
現時点ではまだ石油や石炭といった、気候変動を引き起こす地球温暖化の原因となる温室効果ガス(GHG)の排出を伴う発電方法も残されています。それでもスウェーデンは、2045年までに再生可能エネルギー100%を目指すことを宣言をしています。
中でも太陽光発電や風力発電といった、自然のエネルギーを利用した発電の割合は年々増えており、目標達成へ向けて着実に計画を実践していることが伺えます。
※エネルギーミックスとは、さまざまな発電方法の構成のこと。供給の安定性や環境面などを配慮し、発電に必要な材料の不足や災害など、万が一の事態に備えて複数の電力供給源を確保するために行われる。
参照:Lowering emissions is key to saving the climate. Find out how Sweden does it.
森林保護と再生プロジェクト
北欧諸国同様、スウェーデンでは誰もが自然を楽しめる「自然享受権(allemansrätten)」が保証され、国民にとって森林はとても身近な場所のひとつです。こうした権利を国民が得ていることからも分かるように、スウェーデンでは自然への敬意を持ち、大切に守ろうという意識が育まれてきました。
スウェーデンで現在施行されている林業法では、0.5ヘクタール以上の伐採を行う場合、スウェーデン森林局に報告をする必要があります。
さらに森林を伐採した業者は、3年以内に再植林を行うことが義務付けられています。その際、ただ植えればよいのではなく、土地に適した種類を選定し、周囲の環境に影響を及ぼさないよう適切な方法で再植林しなければなりません。
ほかにも、林業法の中では自然保護区を含む環境に配慮した伐採・管理を義務付けるなど、法律によってさまざまなルールを厳しく定め、利益や権力を優先し環境を破壊することがないよう配慮しています。
政府が主体となり、森林の保護や再植林を義務付けることで、林業が盛んなスウェーデンは森林資源を減少させることなく、持続可能な林業を実現しています。
参照:
Who has four seasons, loves the outdoors and talks about the weather? The Swedes!
The Forestry Act
スウェーデンの林業――持続的、高収益な産業としての林業――
社会的平等
世界で初めて「報道の自由」を保証する法律が成立したのはスウェーデンです。2023年の報道の自由度ランキングでは、ほかの北欧諸国に続き180国中4位でした。
この法律をはじめ、政府の文書や表現の自由を保障する法律には、人権を保護する旨が記載されています。性別や民族・宗教といったカテゴリーによってマイノリティが差別されることは許されず、誰もが平等に生きる権利を持っています。
参照:Free speech, free press and overall openness and transparency are key to Swedish society.
男女平等推進
1980年、スウェーデンでは職場における男女差別が禁止されるようになり、2009年には差別禁止法によって、男女間の平等を積極的に推進するほか、ハラスメントへの対策を雇用主に講じるなどの事項が盛り込まれました。
また職場における育児休暇への取り組みも、早くから行われてきました。1974年には、男女を問わず親のうち1人が6カ月仕事を休めるようになり、もう片方の親はその半数の休暇を取得できるようになりました。
それでも母親の育児休暇取得率が依然として高いままだったため、1994年には父親が1カ月の育児休暇を取得できる「父親月間」が導入されました。この制度は、父親が休暇を取らない場合、両親ともに有給の日数が減らされてしまうシステムで、政府による積極的な男女平等の姿勢が伺えます。
2016年には、父親による育休の日数が90日に延長され、差別禁止法では育休を取得する社員への差別や不当な待遇も禁止されています。
さらに政治の分野でも、男女平等の推進が見られます。2022年、国政選挙によって選ばれた議員のうち、男性は188人、女性は161人と、ほぼ同数になりました。
現在の首相のもとで働く官僚23人のうち11人が女性で、政界においても男女平等がほぼ実現していることが分かります。
参照:Equal power and influence for women and men – that’s what Sweden is aiming for.
移民・難民支援プログラム
2023年、スウェーデンに入国・居住した移民の数は94,514人で、現在スウェーデンにおける移民の割合は20%程度といわれています。
スウェーデンの移民局は滞在資格の条件を度々変更しており、年を経るごとに移民への対応が厳しくなっているのは事実です。
ほかの欧州と同様、移民・難民に対する課題を抱えるスウェーデンでは、移民を対象に無償で語学学校(SFI)を提供しています。
さまざまな文化的背景を持つ人々に、スウェーデンの言語や習慣を知ってもらい、適切な方法で労働し税金を納めてもらうためです。
対象となるのは、16歳以上の国民番号を所有する人です。国民番号は、就労や婚姻・人道的な理由による保護など、合法的に滞在している人に与えられます。
SFIはスウェーデン全国にあり、希望する学校を選んで入学します。クラスでは教材を利用してスウェーデンの言葉や文化を学び、スウェーデン社会で自律して生活できることを目指しています。
ツーリズムの取り組み
スウェーデンは、オーストラリアに続き、世界で2番目に国を挙げてエコツーリズムに乗り出しました。
2002年、スウェーデンの非営利団体The Swedish Nature & Ecotourism Association (Naturturismföretagen)によって開始された「Nature’s Best(ネイチャーズ・ベスト)」と呼ばれる認証ラベルを持つ企業は、高品質かつエシカルな宿泊施設やツアーなどのサービスを提供しています。
スウェーデンならではの犬ぞり体験やムースの群れの見学、森林へのハイキングといった自然のアクティビティを環境に配慮しながら行っており、国内外で注目を集めています。
スウェーデンで宿泊施設やアクティビティを予約する際は、Nature’s Bestの認証ラベルがあるかどうかを確認するのがポイントです。
クリーンテック産業の振興
クリーンテック(クリーンテクノロジー)とは、資源環境問題やエネルギーの課題を解決するために利用される技術・サービスのことです。
具体的には、自然資源を使った再生可能エネルギーや、再生できない資源をできるだけ使用せず、品質や性能を維持した製品・サービスを指します。
スウェーデンは、世界で初めてペットボトルや缶のリサイクルシステムを導入した国であり、1984年からアルミ缶、1994年からはペットボトルのリサイクルがスタートしました。
ペットボトルや缶の飲料を購入する際は、少額のデポジットが含まれた金額を支払います。空になった容器は、近くのスーパーマーケットなどにある機械を通して回収され、返却されたデポジットは次回の買い物に利用するか、チャリティー団体へ寄付できます。
現在、民間企業のReturpackによって運営され、市民にとって身近で手軽にリサイクルができるシステムの導入によって、スウェーデンでは毎年84%もの空き容器をリサイクルできています。
参照:
Electric buses and buzzing bees – Sweden is on the way to climate neutrality.
Sweden is aiming for zero waste. This means a commitment to change our everyday lives.
持続可能な都市開発
環境問題への意識の高さと、街での住みやすさのバランスを取りながら、持続可能な都市を目指すべく、スウェーデンではいち早く温室効果ガス(GHG)を排出しない電動車両を公共交通機関に導入しています。
例えば、スウェーデン第二の都市・ヨーテボリでは、2015年から電気バスが走行しています。これによって二酸化炭素の排出量はおよそ10%減少し、二酸化窒素では半分の削減を達成しました。
今後、スウェーデンのほかの都市でも導入が検討され、再生可能エネルギーを利用した電動バスの走行が全国に広まっていきそうです。
また建築の分野からも、持続可能な町づくりの取り組みが行われています。
南の都市・マルメでは、古い病院を建て替えて作られる集合住宅Sege Parkの建設が進んでいます。この住宅では、住民同士がモノやサービスをシェアすることで、資源の利用を抑えつつ快適な暮らしを実践できるように計画されています。
木造の駐車場のほか、住民の自転車を修理できるスペース付きの駐輪場、共有スペースから自動車や自転車を借りられる区画も建設される予定です。
参照:Lowering emissions is key to saving the climate. Find out how Sweden does it.
成功要因
ここまで、スウェーデンにおけるSDGsへの取り組みを見てきました。読者の皆さんの中には「どうして成功しているの?」と不思議に思う方もいるかもしれません。
経済・社会・環境の側面でいくつもの野心的な目標を掲げ、着実に成功へと導くスウェーデン。その成功要因は何でしょうか。
政府のリーダーシップ
取り上げた取り組み事例を見てみると、政府が主導となっているプロジェクトが複数見受けられます。
ひとつの課題に対して目標を設定し、達成に向けた具体的指針を掲げて、法律を制定して社会の仕組みを大きく変えたり、時に民間企業を巻き込んで連携したりと、柔軟に対応しながら課題の解決へ歩みを進めているのです。
市民の意識
先ほどお伝えしたように、SDGsへの取り組みは、政府主導のプロジェクトが中心となっています。法律や規制、指針によって社会のシステムが大きく変動することもあり得る訳ですが、それでも政府への大きな不満の声が上がらないのは、市民の政治への意識が大きく関わっていると考えられます。
かねてより政治参加への意識が高いスウェーデン人にとって、政治家は国民の代表です。自分たちが投票で選んだ政治家たちへの信頼が厚く、ひとつひとつの政策が国民の利益になることを理解しているため、法律の変更などによって生じる多少の不便にも、柔軟に対応しようとする傾向にあります。
教育制度
こうした政治・社会への参加意識が高い市民が育つ背景には、スウェーデンの教育制度が挙げられます。
1歳から5歳まで通う保育園の頃から、既存のジェンダー観に囚われない教育や、個々の性格・興味を重視するカリキュラムを推進しています。
大学などの高等教育機関では、学びに対して生徒の意見を求める「クリティカル・シンキング」が採用されているので、スウェーデン人の多くは常に物事を多角的に捉え、社会問題に対しても何が問題なのか、その問題を解決するためにはどんな方法が適切か、といった問題解決能力も備えているのです。
このような教育制度の中で育ってきたスウェーデン人だからこそ、ジェンダーや環境、経済といった幅広い社会問題に対しての意識が高く、お互いに連携し合って課題解決に取り組めるのではないでしょうか。
参照:
Education is key in Sweden. It is tax-financed, and compulsory from the age of 6.
Studying in Sweden comes with critical thinking, freedom and responsibility.
チャレンジと課題
SDGsに対する多くの取り組みがうまくいっているように見えるスウェーデンですが、チャレンジと課題も抱えています。
より平等な社会を目指して
例えば、男女平等への取り組みが評価されていますが、まだ男女間の賃金差がなくなったわけではなく、社会における男女の活躍も完全に平等とはいえません。
また、政治面では男女ともに大きな活躍が見られますが、ビジネスの面ににおいては女性のリーダーが多いというわけではありません。ストックホルム証券取引所で上場している企業のうち、女性の会長と社長は10%台、管理職の割合は36%とまだ低く、ジェンダー平等を目指してより女性の社会進出が求められます。
参照:Equal power and influence for women and men – that’s what Sweden is aiming for.
真にクリーンなエネルギーの推進
現在、2045年までに100%再生可能エネルギーによる発電を目指して取り組んでいるスウェーデンですが、現状では原子力発電やバイオマス発電といった、本当にクリーンなエネルギーかどうか議論がなされている発電方法が含まれています。
今後、どのように再生可能エネルギーへの舵を切るのか、注目が集まります。
未来へのビジョン
2030年がSDGs目標の期限とされる中、スウェーデンは多くの目標において大きく前進するだけでなく、さらに未来を据えた野心的な目標を掲げています。
とりわけジェンダー平等や環境問題への意識は、SDGsの採択以前から高まっており、世界に先駆けた取り組みも多く見られます。
スウェーデンはこれまでの取り組みの成果を手本として世界に示しつつ、更なる課題解決に向けてさらに加速していくのではないでしょうか。
最後に
今回は北欧スウェーデンのSDGsの取り組みについて、さまざまな角度から事例をご紹介しました。
政府や企業といった大きな組織から市民まで、あらゆる人々が連携しながら社会の課題解決へ取り組むシステムが構築され、SDGsへ大きく貢献してきています。今後もスウェーデンの取り組みには目が離せません。