水ストレスとは?水不足問題やその現状・原因について知ろう
ESGにおける非財務情報を開示する中で、担当者の方は「水ストレス」という言葉を耳にすることが増えたのではないでしょうか?「水」というのは、生命を維持する上で欠かせないものであり、SDGsの6番目の目標である「安全な水とトイレを世界中に」はSDGsウェディングケーキモデルの「生物圏」に、該当しています。
この記事では、多くのESGの国際規格の中でも触れられている「水」について、世界で起きている水問題についてお伝えしていきます。
SDGsウェディングケーキについてはこちらをご覧ください。
水ストレスとは?
水ストレスとは、水不足によって日常生活に不便を感じる状態のことを指します。
以下のグラフ水ストレスの程度を数値で表しており、人口一人当たりの年間使用可能水量は1,700㎥が最低水準です。これはお料理や飲み水だけでなく農業や工業、エネルギーなど、全てにおいて使用できる水量を表しており、一人の人間が最低限の生活をする上で必要な水の量となっています。
この最低限の年間使用水量を下回る場合は「水ストレス下にある」状態、1,000㎥を下回る場合は「水不足」の状態、500㎥を下回る場合は「絶対的な水不足」の状態を表すとされています。
「絶対的な水不足」の地域は、家庭や農業、工業などで十分に「水が使用できない人々が80%以上を上回っている状態」で、深刻な状況であることを示しています。
中東、アフリカ北部、南アジアなどの国々は、特に水ストレスが高い国、つまり水資源が乏しいことが見て取れます。インドでは、いくつかの淡水湖が干上がってしまい、抗議活動や暴動が起きるという事態を招いてしまっています。
世界の水不足問題と今後のリスク
2000年以降、世界中で安全に管理された飲み水を利用できる人々の割合は増加しています。2000年には61%だったのが、2017年には71%に達しました。
また、改善された飲料水源を利用できる人の割合も1990年の76%から2015年には90%まで増加しました。これにより、水に関する問題はある程度解決に向けて前進していると言えます。
しかし、未だに深刻な問題が残っています。2017年時点で、22億人が安全に管理された飲み水を得られず、そのうち1億4,000万人は未処理の地表水を利用しています。また、7億8,500万人が改善されていない水源を使用しており、特にサハラ以南のアフリカ、東アジア、東南アジア、南アジアで深刻な状況が続いています。
水不足は今後深刻化する
水不足は、今後さらに深刻化すると予測されています。現在、世界人口の40%以上、つまり36億人が水不足に直面しており、この数字は増加の一途をたどっています。
2050年までに、世界人口97億人の約半数が水不足にさらされる可能性があります。さらに、4人に1人が慢性的な水不足に直面し、飲み水だけでなく、世界の穀物生産や経済にも大きな影響を与えるでしょう。
特に、気候変動や人口増加、農業・産業における水需要の増加が水問題の主な原因とされています。砂漠化の進行により、約100カ国の10億人の生計が脅かされる可能性も指摘されています。
水不足が起こる原因
では、なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか?
原因は大きく分けて「人口の増加」「地球温暖化・気候変動」「水紛争問題」の3つがあります。それぞれ見ていきましょう。
人口の増加
2019年の時点で世界には77億人が住んでいるわけですが、2100年に向けて世界の人口はさらに増加していくと予想されています。人口が増加すれば普段の生活に必要になる水の量が増え、それだけの人口の食糧を生産するためにも水が必要になるでしょう。現在アメリカでは地下水が干上がってしまう事態が起きているなど、農業や工業で必要な水の需要も増えると予想されます。
地球温暖化・気候変動
地球温暖化の影響により、大雨による水害、降水量の不足による干ばつ、そして砂漠化など、世界各地で水不足の問題が発生しています。このままでは、水不足という問題だけでなく、人間の住める場所が狭くなってしまうなどの問題も起きるかもしれません。
気候変動による水不足は、直接的または間接的に大きな影響を地球全体に及ぼすことになります。
水紛争問題
日本は海に囲まれており水資源を巡った隣国との争いはありませんが、世界では限られた水資源を巡って国家間の争いが起きている地域も存在しています。
特に陸続きで河川を境界とする国々では、水資源を巡る対立が生じてきました。戦闘に発展したわけではありませんが、国家間の摩擦が起こっています。
SDGsだけでなく、ESGの開示項目にも
6.1 | 2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ平等なアクセスを達成する。 |
6.2 | 2030年までに、すべての人々の、適切かつ平等な下水施設・衛生施設へのアクセスを達成し、野外での排泄をなくす。女性及び女子、ならびに脆弱な立場にある人々のニーズに特に注意を向ける。 |
6.3 | 2030年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物質や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加させることにより、水質を改善する。 |
6.4 | 2030年までに、全セクターにおいて水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。 |
6.5 | 2030年までに、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施する。 |
6.6 | 2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復を行う。 |
6.a | 2030年までに、集水、海水淡水化、水の効率的利用、排水処理、リサイクル・再利用技術など、開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大する。 |
6.b | 水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する。 |
SDGs6番目の目標の169のターゲットを見てみると、全ての人が安全かつ十分な水の量を利用でき、お手洗いにアクセスできる世の中を目指しているというわけではありません。水の汚染を減らし、水質を改善し、生態系の回復や保全が重要な目標として掲げられています。
また、CDPやGRIにもウォーターという質問書がありますし、FTSE russellの全ての企業に対して聞かれる質問項目でも「水ストレス」の高い地域で従業員やその地域に対してサポート活動をしているか、などの質問が含まれています。
現在日本は水ストレスの高い地域に含まれていませんが、先ほども記述した通り、巡り巡って地球全体に影響があるのが水問題であり、企業はこれから事業活動を行う際は水ストレス、水資源に関しても考慮するのが当たり前の時代になっていくでしょう。
最後に
いかがでしたでしょうか?
日本に住んでいると水不足である実感が湧きにくいのではないかと思いますが、世界では多くの人が直面している課題であり、私たちも見て見ぬふりのできない問題です。
直接水に関する事業を行っていなくても、どこで節水ができるのか、使用した水はどこからきているのか、水資源のある地域や社会への影響を考慮しながら、事業を通じて持続可能な社会に向けて行動していきたいと思いました。
参照:
Population Growth – Our World in Data
水資源:水資源問題の原因 – 国土交通省
The United Nations World Water Development Report 2021VALUING WATER