培養チーズとは?米国企業が挑む新たな食品革命について紹介
牛を飼育して得た牛乳から作る従来のチーズよりも、地球や環境への負荷が少ないという理由から、世界では培養チーズが注目を集めています。
培養チーズを含む乳製品は、豊富な栄養を含む食品です。乳製品には、人間に必要とされる3大栄養素である、たんぱく質と脂質、炭水化物、そしてミネラルやビタミンがバランスよく含まれています。乳製品の中でもチーズは、牛乳の10倍の栄養価があるといわれています。
現在、地球の人口は増え続けていますが、地球資源の総量には変わりありません。2030年には、たんぱく質の需要に供給が追いつかなくなる「たんぱく質危機」が起こると予測されています。そこで注目されているのが、培養肉や培養チーズなどのフードテックを活用した食料です。
培養テクノロジーを使うことで、従来の方法で必要だった広大な土地や水資源、飼料、肥料などを大幅に削減することができます。環境への配慮はもちろん、今後の世界の需要と供給のバランスを取るための具体的な方法として、大きな期待が寄せられています。
培養チーズとは?
培養チーズは、搾りたての生乳を発酵、熟成させて作る従来のチーズとは異なり、乳たんぱく質を培養することで作られるチーズを指します。注目される背景には、大きく4つの理由があります。それらは、牛の飼育が与える地球環境への負荷軽減、食料の安定的供給、倫理的な問題の大きく3つに分かれています。
- 牛の飼育に必要な地球資源やエネルギーを節約できる
- 牛の飼育過程で放出されるメタンガスの削減に寄与する
- 人口増加による動物性たんぱく質不足を回避できる可能性がある
- と畜(食肉や皮革用に家畜を殺すこと)される牛を減らすことができる
培養チーズの生産に取り組む米国企業
この分野での研究開発が盛んな米国で、フードテックの最前線を担う2社についてご紹介します。
CHANGE FOODS
Change Foodsは、2019年にDavid Bucca氏によってオーストラリアで創設された培養チーズメーカーです。現在は拠点を移し、米国カリフォルニア州で活動しています。微生物発酵を活用し、乳たんぱく質を生産しています。
まずは、たんぱく質を生成する微生物に、牛と全く同じDNA配列をコピーさせます。次に、微生物と必要な栄養素をビールの醸造でも使用される発酵タンクに入れます。そうすることで、牛がいなくても全く同じ乳たんぱく質が生成されます。最後は、ろ過することで、スーパーマーケットでも目にするホエープロテインと同じ乳たんぱく質の出来上がりです。これは、チーズだけでなく、ヨーグルトやアイスクリームなど、幅広い乳製品に応用することが可能です。
ホームページでは、培養チーズの生産が従来の方法に比べて、どの程度環境負荷が少ないかをトップページで公開しています。
従来の方法と比較すると、水は10分の1、土地は100分の1、エネルギーは5分の1、飼料は25分の1で培養チーズができるそうです。
Perfect Day
Perfect Dayは、2014年にカリフォルニア州バークレーでRyan Pandya氏とPerumal Gandhi氏によって創設された会社です。同社は世界で初めて牛を頼らずに乳たんぱく質を開発しました。
2019年には、食品添加物としてアメリカ食品医薬品局で安全性が確認され、乳たんぱく質の使用が認められます。同社は、老舗アイスクリーム企業Graeter’s Ice Creamと協力し、ヴィーガンアイスクリームブランドを立ち上げました。
ヴィーガンなどのアニマルフリーの乳製品を待ち望んでいたユーザーから支持を受け、ハーゲンダッツやベン&ジェリーズなどと同様の価格帯で販売される人気を誇ります。
また、同社はアイスクリームだけではなく、さまざまな企業とのパートナーシップにより、チーズやヨーグルト、ケーキミックスなど多くの商品を販売しています。
Perfect Dayもホームページで情報を開示しています。乳たんぱく質の生産において、従来の方法と比較し、温室効果ガスの排出量を最大97%削減。水(ブルーウォーター)の消費量は最大99%削減。非再生可能エネルギーの使用も最大60%削減することに成功しました。
※水資源は、ブルー、グリーン、グレーの3つに分けることができます。ブルーウォーターとは、地表または地下水のことを指し、最も希少性の高い水となっています。
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まとめ
培養テクノロジーは、環境負荷を減らすだけではなく、栄養価の高い食料として飢餓や貧困の解決に寄与することからも注目されています。
これまで食料の生産は、土地や水資源、そして牛を育てるための飼料など、多くの資源やエネルギーを消費してきました。それだけでなく、牛から発生するメタンガスは地球環境に負荷をかけてきました。このような問題の解決につながる培養テクノロジーは、これから少しずつ浸透していくことでしょう。従来のチーズと培養チーズとがともにスーパーに並ぶ日は、そう遠くないかもしれません。