サーキュラーエコノミー実現に向けて|ドバイ万博の先進事例を紹介
世の中に無駄なものなんて一つもない。ドバイ万博にて、サーキュラーエコノミー先進国であるオランダやスペイン、ドイツなどの欧州パビリオンへ実際に足を運んで、私はそう感じました。本来であれば、リサイクルもされず廃棄されてしまう工事現場の廃材や食品ロスを、より長く使うための仕組みが紹介されていました。日本でもこのような取り組みがもっと広まってほしいという願いを込めて、取り組み事例をご紹介します。
サーキュラーエコノミーとは
これまでは資源を一度使えばそのまま廃棄するリニアエコノミー(直線型経済)でしたが、サーキュラーエコノミーは、一度使用した原材料や製品の価値をできる限り長く保ちながら循環させることを目指す循環型経済と呼ばれるものです。このサーキュラーエコノミーにはエレンマッカーサー財団が定義した以下の3つの原則があります。
- 廃棄物や汚染を生み出さない設計(デザイン)を行う
- 製品や原材料を使い続ける
- 自然のシステムを再生する
ドバイ万博でも、建築素材、エネルギーの循環、食料システムなどこれらの原則に沿ったさまざまな取り組みが行われていました。
サーキュラーエコノミー実現に向けた建築素材
まずは、オランダパビリオンの建物に焦点を当ててご紹介します。
多くのパビリオンが光や音、見た目の派手さや綺麗な素材でアピールしている中、オランダパビリオンは錆びて茶色くなってしまった工事現場の素材をそのまま使用しており、正直に申し上げると、とても質素だなという印象を受けました。
しかしオランダパビリオンは万博が終了した後のことまで考えて設計されており、リサイクルや再利用できるもの、自然に還る素材からできているもののみを使用しています。オランダパビリオンと書かれたオレンジ色のテントも生分解性で土に還る素材から作られています。
さらにドイツパビリオンでは、再利用されたプラスチックやガラスの建築素材、自然へ還ることのできる素材で作られた建築素材などが紹介されていました。
建物を立てる時点から廃棄物が出ない工夫や、本来廃棄されてしまうものを再利用するなど、深く考えられていることを感じました。
砂漠のど真ん中で作られるハーブとキノコ
オランダパビリオンの中にはコーン型のビオトープが設置されており、コーンの外側には日光が必要なハーブや野菜で覆われており、内側には薄暗さと湿度を好むキノコが栽培されていました。さらに、私たちが排出する二酸化炭素も植物にとっては必要であり、私たちが排出するものが循環される仕組みが作られていたことが印象に残っています。
また、コーンの中はキノコの栽培を行っているだけでなく、私たち来館者を楽しませるため、最後は天井から水が落ちてくるパフォーマンスが行われていました。この水によってコーン内部の湿度を高めて、キノコ栽培に適した環境を作り出しています。
ドイツパビリオンでは、持続可能な食糧システムの一例が紹介されていました。例えば、トマトを育てる際に付いてしまう虫を確保し、養殖魚の餌に加工します。そして魚を消費したあとに残った水はトマトを育てるための水にすることで、新たな資源を活用しなくて済む事例が紹介されており、無駄を出すことなく全てが循環しているモデルが紹介されていました。
デザイン性だけでなく機能性にも工夫
万博会場では多くのパビリオンが太陽光発電を行っていましたが、オランダパビリオンでは今までのソーラーパネルのイメージを変えるものが使用されていました。マージャン・ヴァン・オーベル・スタジオというオランダのデザイン事務所が提案したもので、青色のラインとピンク色の柄に光が当たることで発電します。パネルを通じて館内に光が差し込むと、時間帯によってはステンドグラスのようになるそうです。
これらの太陽光パネルは万博終了後は分解されて他の場所で活用され、役目が終わって万が一適切に処理されなくても、環境に配慮された素材や染料を使用しているので有害物質の危険性は従来のものより低くなっています。
またスペインパビリオンでは、Andreu Worldというブランドによって作成された椅子が紹介されていました。この椅子は、背もたれ、肘置きなどに細かく分解することができるので、壊れた部分のみを取り替えることで長く使用することが可能になります。
さらにその椅子は持続可能な森林から採れた木材を使用しており、それらは土に還ることができる素材です。また、クッション部分に使用されている布もリサイクルされたものが使用されています。
最後に
ドイツやスペインではサーキュラーエコノミーに対するアイディアや取り組み事例が紹介されていました。オランダパビリオンでは、建物全体で無駄を一つも作り出さないシステムが構築されていました。私たちが排出する二酸化炭素さえも植物の光合成で使われ、改めて私たちは自然の一部であることを実感しました。このような仕組みが建物だけでなく、街、そして日本全体に広がるイメージをして下さい。何かワクワクしませんか?
また、実際に砂漠のど真ん中で太陽光エネルギーから発電して空気から水を生成し、食糧まで栽培しているのを見ると、日本の食料自給率の低さの問題も解決できるのではないかと希望を持つことができました。初期投資はかかると思いますが、建物一つ一つからエネルギー、水、食糧を生産することが可能になれば、輸送コストも減り、二酸化炭素の排出も抑えることが可能になります。
都市システム全体でサーキュラーエコノミーを実現していくためには、企業が商品を製造する段階から取り組んでいく必要があります。国内でも今回の万博の事例をヒントに、生産段階から廃棄段階のことまで配慮されたモノづくりが広がっていってほしいと思います。