ウールの提供元まで追跡可能に!ファッション業界はトレーサビリティに注力
ファッション業界は、原材料の調達から私たちの手元に届くまでのサプライチェーンが非常に長く、トレーサビリティを実現するのは難しいと考えられてきました。しかし、今では着ているウールをどの羊が提供してくれたのかまで遡ることができるブランドまで登場しています。過程が見えることで愛着が湧き、大切に着る人が増えれば、当たり前となった大量生産・大量消費・大量廃棄のライフスタイルに楔を打ち込むことができます。今回は、トレーサビリティに力を入れている海外のアパレルブランドを3社ご紹介します。
長いサプライチェーンをもつアパレル業界
近年、児童労働や劣悪な労働環境、製造段階での環境汚染やCO2排出量の多さなど、アパレル業界にまつわる多くの問題が明らかにされました。華やかなアパレル企業の裏側に隠された製造段階の事実についての報道や、関連する本が出版されたり映画が公開されたりと、消費者にもアパレル業界の闇の部分が広く知れ渡りました。とりわけファストファッションは矢面に立たされ、イメージは地に落ちたといっても過言ではありません。
日本でもファッションのトレーサビリティを開示することは急務ですが、簡単ではありません。ファッション業界は原料の生産者、素材を扱う商社、委託先の子会社や委託生産の縫製工場など多くの関係者がいます。またそれらが一国で完結することはほとんどなく、世界中のさまざまな国に渡っているためにそのすべてを追跡するのは不可能といわれてきました。
トレーサビリティに取り組むアパレルメーカー
日本ではあまり進んでいないファッションブランドのトレーサビリティですが、世界には原材料の生産から製糸・縫製・製造に至るまで、トレーサビリティの開示に取り組む企業が登場しています。今回は欧州のアパレルブランドを3社ご紹介します。
The Green Labels
オランダ、アムステルダムにショールームを構えるThe Green Labels(グリーンラベル)は、サステナブルなファッションブランドです。2018年3月にスタートし、女性向けの衣類からファッション小物、アクセサリー、コスメ、スニーカーなどを扱っています。
グリーンラベルは、ファッション業界の過剰消費により引き起こされている深刻な環境問題とファストファッションが引き起こしている人権問題を解決したいと考えています。価格の透明性を保つためにコストの比率を明らかにしています。
グラフをみると、製品の卸売価格・税・輸送費・梱包費・社員らへの給料・マーケティング予算など、製品価格に占めるすべての割合が明らかにされています。
グリーンラベルのファッションアイテムの製品それぞれには、独自の基準を満たしている場合にそのことを示すマークが付与されています。例えば、70%以上の有機原料、80%以上の天然繊維、倫理的な生産チェーンで生産されたことを示すもの、途上国の社会問題の解決やコミュニティのサポートに寄与している製品、動物による材料を使用していない製品を示すビーガンラベル、生産プロセスで化学物質が使用されていないことを示すラベルなど多岐に渡ります。
完全なトレーサビリティを表すラベルなど現在は一部にのみ与えられている表示もあり、課題も多くありますが、こうした一つひとつの地道な取り組みの積み重ねが、すべての項目を100%に近づけるための方策です。
ASKET
スウェーデンのストックホルムに店舗を構えるASKET(アスケット)は、100%のトレーサビリティを目指し、高品質な衣類を作ることで「より少ない」ことを追及するアパレルメーカーです。
アスケットは、高品質で耐久性があり流行に左右されない普遍的なデザインの製品を作ることで、長く着用でき、人が生涯に必要とする衣服を最低限、つまり「より少なく」できると考えています。そうすることで環境負荷を減らし、消費者はより良い衣服を身につけられる、win-winの関係です。
また、アスケットの製品の90%以上はトレーサビリティが保証されており、コットンセーターやメリノセーター、ウールコート、カシミアセーターなどの多くの製品は100%追跡可能な原料と工程を経て生産されています。そのほかの製品も100%のトレーサビリティを目指して取り組みがすすめられ、ホームページで完全に公開されています。
また、衣類のリサイクルも推奨しています。すべてのアスケット製品は「リバイバルプログラム」に従ってアスケットに送付すると、その衣類に応じた代金を受けとることができます。それらの製品は洗浄、修理を経て転売されたり、リサイクルされて再び別の衣類へと生まれ変わったりします。
Sheep Inc.
ロンドンを拠点とするSheep Inc(シープ社)は、環境汚染とトレーサビリティに高い意識を持つファッションブランドです。シープ社のニット製品は服のタグからすべての情報が追跡可能で、どの羊からとられたウールなのかまでわかります。
シープ社は最も環境への影響が少なく、かつより良い品質のウールを求め、ニュージーランドの南東地域の農場にたどり着きました。その地域特有の気候により、羊は厳しい冬と暑い夏を経て温度調節に非常に優れた最高品質のウールを生産できます。また、シープ社が原料を調達しているそれらの農場は、ZQ認定を受けています。ZQ認定は動物に快適な環境を整え、ストレスフリーに配慮した農場のみ受けることができ、認定されているのは世界でも1%未満です。
羊の自由や権利を保障し、ストレスを与えずに飼育し、健康にまで配慮した取り組みは消費者にとっても完全な透明性を確保した次世代のトレーサビリティといえます。
まとめ
今回ご紹介したトレーサビリティに対する各社の取り組みは、これから取り組んでいく企業にとって何かヒントになるのではないでしょうか?
トレーサビリティが可能になることで、私たち消費者も人権侵害が起こっていないことがわかり、安心してファッションを楽しむことができます。また、例えばLUSHでは商品を作った人や箱に詰めた人が誰かわかるように似顔絵とあだ名が書かれたシールが貼られています。そうすることで、自分がこの商品を作ったという責任や自覚を持つことができるという効果もあるように感じます。
今回ご紹介した以外にも、多くのアパレルブランドがトレーサビリティに取り組んでいます。これらのニーズは今後も高まり、国内のアパレルブランドでもトレーサビリティが当たり前になっていくでしょう。
参照:
Sheep Inc. – Masters of Merino Wool Knitwear
ASKET | Zero Compromise Garments – Essentials Made To Last
The Green Labels