オランダ・アムステルダムの運河に浮かぶサステナブルな水上住宅 Schoonschip
「水の都」と呼ばれる首都アムステルダムには、運河に浮かぶ水上住宅があります。水上住宅と聞くと、船の形をしたボートハウスを思い浮かべるかもしれません。しかし、今回紹介する「Schoonschip」は、一戸建てのような家が運河に浮いており、一見陸上に建っている普通の住宅のように見えます。
オランダで身近な水上生活
オランダは、干拓地を増やしつつ国土を広げ、たくさんの運河が張り巡らされた水の国です。私が滞在した首都のアムステルダムは、中央駅を中心に運河が張り巡らされており、水を近くに感じることのできる街です。アムステルダムの運河地区は、芸術品のような美しさであることとオランダ黄金時代におけるアムステルダムの経済的、政治的、文化的な繁栄を表現しているとして、2010年に世界遺産に登録されています。
アムステルダムの運河には、ハウスボートという居住用のボートが停泊しています。ハウスボートは、1652年には既に停泊していたことがアムステルダム市議会の記録から分かっています。そして、第二次世界大戦後は、住宅不足を解消するためにハウスボートの重要性がより高まりました。そして2023年現在、オランダは、移民の増加により住宅不足が深刻化しています。そのため、ハウスボートは、住宅不足解消のために大きな役割を果たしています。2023年3月現在、アムステルダムには2,500隻ほどのハウスボートが停泊しています。
水上住宅Schoonschipとは
1997年頃より、ハウスボートではなく、家屋の形をした水上住宅「フローティングハウス」がアムステルダム東部にあるアイブルグ(Ijburg)地区に登場します。同地区は、住宅不足を解消するために開発が進められ、多くの水上住宅が設置されました。しかし現在は、オランダが直面している海面上昇による運河の水位上昇による浸水被害や高潮といった問題の解決方法としても注目されています。
2019年には、映像プロデューサーのマルヤン・デ・ブロック氏と建築事務所Space & Matterが中心となり、Schoonschipという新たな水上住宅地が誕生しました。Schoonschipは、オランダ語で「クリーンな船」という意味です。ウェブページには、「ヨーロッパで最もサステナブルな水上住宅」というSchoonschipが環境に配慮された魅力的な住宅地であることを訴えるメッセージが書かれています。Schoonschipの住宅の屋根には太陽光パネルが設置され、自家消費型太陽光発電システムが整っています。また、雨水を有効活用するためのシステムの導入など、水資源の利用を最小限に抑え、環境に配慮した生活を送るためのインフラも整備されています。
Schoonschipで行われるサステナブルな取り組み
①100%再生可能エネルギー
それぞれの家屋には太陽光パネルが設置されており、自家発電・自家消費の仕組みによって、必要な電気を賄っています。Schoonschipでは、発電するだけでなく、電力の消費量の低減にも取り組んでいます。例えば、家屋内の全ての照明にはLEDが使用されています。また、利用していない家電には、自動でエネルギーの消費が抑えられるシステムが導入されています。
また、発電した電気を隣近所で融通し合うことも可能です。全ての家屋の電気系統は、スマートグリッドに接続されており、電気の融通はブロックチェーン技術を用いた「Jouliette」という地域の仮想通貨を介して行われます。この仮想通貨は、アムステルダム市内のカフェなどでも導入されているため、自宅で発電したエネルギーを近所にシェアし、獲得したJoulietteで支払ってコーヒーを飲むこともできます。
②雨水の有効利用
オランダは雨が多く、トイレの洗浄水や植物の灌漑用水に雨水を利用しています。また、シャワーには、水を浄化し再循環するシステムが導入されています。そのため、従来のシャワーで使用する水の量と比較して90%削減することが可能です。水道水は、各住民が市営水道か完全自給自足の浄水システムかを選択することができます。
③養分の有効利用
排水や生ゴミ、排泄物は100%回収され、桟橋に設置されたシステムによって処理が行われます。処理システムから抽出された養分は、コンポストで堆肥化され、畑の肥料として利用されます。
④野菜や果物の生産
Schoonschipにある屋上庭園や温室にて、住民は自分達で野菜や果物を育てることができます。そこで、年間約30kgの野菜や果物を栽培することができるため、住民たちは必要な分を収穫することが可能です。
⑤シェアやリユースの促進
Schoonschipのコミュニティ組織は、電気自動車を6台、eバイクを4台所有しています。住民は、コミュニティ組織のカーシェアリングサービスを利用することができます。
Schoonschipのウェブページでは、Schoonschipが完成するまでの道のりや住宅エリア内で活用されているテクノロジーの実装の過程で学んだノウハウなどが公開されており、誰でも閲覧可能です。
最後に
オランダは、国土の4分の1が海抜より低い国です。オランダ在住者の方曰く、地球温暖化の影響による海面上昇に対する国民の危機意識は、他国よりも高いそうです。
しかし、海面上昇はオランダだけの問題でしょうか?日本の気象庁は、2020年の日本沿岸の平均海面水位は、30年前よりも8.7センチ上昇したと発表しました。また、環境保護と平和を実現するため、社会システムの変革をめざすNGO団体グリーンピースが発表した海面上昇と高潮のシミュレーションによると、現在の対策のまま2030年を迎えれば、日本全土で600万人もの住民が浸水や冠水の影響を受ける可能性があるそうです。
海面上昇による被害を抑えるため、日本も温室効果ガスの排出削減を積極的に行い、気候変動の緩和に取り組むことが重要です。また、オランダのように海面上昇が起こることを想定して、適応策を講じていくことも大切でしょう。
参照:
Schoonschip — Space&Matter
Schoonschip – Amsterdam