世界のサステナブルツーリズムトレンド2025年版
気候変動や生物多様性の危機を背景に、旅行者や観光業界全体が、環境負荷を最小限に抑えながら地域社会と自然環境にプラスの影響をもたらす旅行形態を求め始めています。
そのため、カーボンニュートラル旅行の拡大、地域文化を尊重した観光体験、デジタル技術を活用したスマートツーリズムなど、多様なアプローチが注目を集めています。
本記事では、2025年の世界のサステナブルツーリズムのトレンドをearth sustainability 編集部が分析し、分かりやすくまとめました。
これから、持続可能な観光がどのように進化し、旅行者と地球にどのような未来をもたらすのかを、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
当編集部が考える2025年の世界のサステナブルツーリズムにおけるトレンド
2025年の世界のサステナブルツーリズムにおけるトレンドは、気候変動対策、地域経済の強化、そしてテクノロジーの進化を反映したものになると予測されています。
以下に主なトレンドを挙げます。
- カーボンニュートラル旅行の拡大
- 地域主導の観光
- 自然とつながる観光
- デジタルとスマートツーリズム
- 気候変動への適応型ツーリズム
- 観光客の倫理観の高まり
- 循環型経済の観光への適用
- 健康とウェルビーイング重視
カーボンニュートラル旅行の拡大
交通機関の利用や宿泊時におけるカーボンフットプリントの可視化が進む中、そのデータを活用した取り組みが増えています。修学旅行や企業の研修旅行では、旅行会社がカーボンオフセットプログラムを提案し、その需要が拡大しています。
個人旅行でも環境配慮の選択肢が広がり、レンタカーには電気自動車(EV)が加わり、初めてEVを運転する旅行者も増えるでしょう。
また、低炭素な移動手段として特に欧州で鉄道旅行が再び注目を集めています。ヨーロッパでは新しい鉄道路線やサービスが次々と登場し、オリエント急行の復活や、全欧鉄道を1枚のチケットで利用可能にする予約システムの導入が検討されています。
さらに、世界一周の豪華列車旅行の再開など、鉄道を組み込んだ旅行スタイルは今後も拡大が見込まれます。
一方で、宿泊分野でも低エネルギーの施設が注目を集めており、ビジネス出張をはじめ、ゼロエミッションホテルの新規建設が増加することが予想されます。これらの動きは、環境負荷を抑えた持続可能な観光の実現に向けた重要なステップとなるでしょう。
参考事例
JTBCO2ゼロ旅行: 地域脱炭素の実現と地域活性化に!「CO₂ゼロ旅行®」
日本旅行: カーボンゼロ
地域主導の観光
元の文化や自然を尊重し、観光を通じて地域経済を活性化させる取り組みが注目を集めています。例えば、伝統的な食材を活かしたグルメツアーや、地元職人による工芸品づくりを学ぶワークショップが増加し、旅行者が地域の人々と直接交流できる機会が広がっています。これらの観光は、単なる観光地巡りにとどまらず、地元経済に直接利益をもたらします。
また、先住民文化を尊重した観光もさらに注目されています。先住民ガイドが案内する自然散策ツアーや、伝統舞踊や料理を体験するプログラムは、旅行者に深い学びを提供するとともに、先住民コミュニティの経済的支援にもつながります。こうした取り組みは、文化の継承と保護を促進する役割も果たします。
さらに、地域密着型の観光認証の普及により、持続可能な観光地として国際基準を満たす地域が増加しています。GSTC認証を取得した観光地は、環境配慮と地域貢献を両立する観光モデルを示し、旅行者から信頼される選択肢として支持を得るでしょう。
このような取り組みにより、地域主導型観光は持続可能性を高め、旅行者と地元双方に価値を提供する形で発展していくと考えられます。
参考事例
観光庁: 第2のふるさとプロジェクト
阿寒湖: アイヌコタン
自然とつながる観光
都市化やデジタル社会の進展により、自然から離れがちな現代人が自然とのつながりを求める旅行が増えています。森林浴や瞑想を取り入れたリトリート、星空観察、自然の音を楽しむプログラムなど、自然をテーマにした癒しの旅行が人気を集めるでしょう。また、自然環境について学ぶエコツアーも需要が高まっています。
さらに、野生動物保護を目的とした観光も注目されています。保護区やサンクチュアリを訪れ、観光収益を直接自然保護活動に役立てるツアーは、旅行者が環境保護に貢献できる貴重な体験として評価されています。
一方で、地域環境の修復に積極的に関わる「リジェネラティブツーリズム(再生型観光)」も広がっています。海岸清掃や植樹、マングローブの再生など、環境改善活動を含む旅行は、持続可能性を超え、観光地の未来を支える新たなモデルとして支持されています。
これらの「目的意識の高い旅」は、単なる休暇を超え、訪れる土地にポジティブな影響を与えることを重視します。例えば、ビーチの清掃や野生動物保護への参加などがその例です。ユーロニュースは、こうした旅の目的地としてフィリピンやエクアドルを挙げています。このような旅行は、旅行者自身の体験価値を高めると同時に、観光地の持続可能な発展に貢献するものとして注目されています。
デジタルとスマートツーリズム
デジタル技術とスマートツーリズムの進化により、観光業界は大きな変革を迎え、地域主導型観光にも新たな可能性が広がっています。AIとビッグデータを活用する観光地では、旅行者の嗜好や過去の行動履歴に基づき、個々のニーズに最適化されたエコツアーや体験プログラムが提案されるようになります。
例えば、自然保護活動に関心のある旅行者には、植樹活動や野生動物保護ツアーが優先的に案内されるなど、カスタマイズされた体験が可能です。
また、「スマートデスティネーション」としてIoTを活用する観光地では、訪問者数をリアルタイムで管理し、エネルギーや水資源の効率的な利用を実現します。混雑を避けるルートの提案や、再生可能エネルギーを利用した施設の案内など、環境負荷を抑えつつ観光の質を向上させる取り組みが進んでいます。
さらに、バーチャルツーリズムの需要も拡大中です。最新のVR技術により、旅行者は実際に移動せずとも地元の文化や自然遺産を体験できるようになり、特に遠隔地や保護が必要な自然環境では、エコフレンドリーな選択肢として注目されています。これらの技術は、地域の魅力を世界に発信しながら、環境保護を両立した観光を実現します。
また、旅行計画におけるAIツールの利用も定着しつつあります。たとえば、ChatGPTを活用して旅程を作成するケースが増え、特に初めての旅行先を計画する際には便利なツールとして支持されています。これらのデジタル技術は、旅行者にとって快適で効率的な旅の体験を提供し、観光業界に新たな価値をもたらします。
気候変動への適応型ツーリズム
気候リスクに対応した観光地開発では、海面上昇や極端な気象条件に備えた安全なインフラや設備の整備が求められます。例えば、自然災害に強い構造を持つ宿泊施設や、再生可能エネルギーを活用した施設が導入されるでしょう。
また、環境教育をテーマにした観光も重要な要素です。地域ガイドによる気候変動やその影響に関する解説ツアー、循環型ライフスタイルを体験できるワークショップの拡充により、旅行者が観光を通じて学びを深められる仕組みが強化されます。例えば、再生可能エネルギーを活用する農村や、エコロジカルリゾートでの滞在型プログラムが人気を集めると予想されます。
さらに、「クールケーション(Coolcation)」と呼ばれる涼しい場所を訪れる観光も流行する可能性があります。気候変動による猛暑が頻発する中で、山岳地帯や森林、高地の涼しい観光地はエネルギー消費を抑えるエコツーリズムの一環として支持を得るでしょう。
これらの取り組みを通じて、地域主導の観光は気候変動への適応と持続可能な未来の実現を目指す新たなモデルとして発展していくことが期待されます。
観光客の倫理観の高まり
観光客の倫理観が高まる中、地域主導の観光が注目を集めています。観光地や宿泊施設は、持続可能性への取り組みを明確に示し、環境認証やサステナブル認証を取得することで透明性を高めています。このような姿勢は、旅行者からの信頼を得るうえで重要なポイントとなっています。
さらに、動物福祉や地元住民の権利を尊重する「倫理的旅行」が主流となりつつあります。例えば、動物を利用した観光の見直しや、地域の伝統文化を尊重した体験型プログラムが増加しています。これらの取り組みは、旅行者と地域社会をつなぐ特別な体験を提供し、相互の絆を深める役割を果たします。
また、「ポジティブインパクト旅行」も注目されています。この旅行スタイルは、訪問地への負担を減らすだけでなく、環境保全や社会改善への積極的な貢献を目指すものです。たとえば、旅行者が地域の清掃活動や植樹プロジェクトに参加するエコツアーや、宿泊費の一部が地元の教育や医療に寄付される仕組みが人気を集めています。
循環型経済の観光への適用
循環型経済の考え方を観光業界に適用した地域主導の観光が注目を集め、持続可能で環境に優しい旅行スタイルが広がるでしょう。その一環として「ゼロウェイスト観光」が進展し、廃棄物を出さない観光地が増えると予想されます。
例えば、地元のホテルやレストランでは、使い捨てプラスチックの使用を廃止し、リサイクル可能な容器や食器を採用。観光地全体でリサイクルステーションを設置し、旅行者が廃棄物削減に参加できる仕組みが整備されます。地元で生産された食品や製品を優先的に活用することで、輸送コストや包装材を削減し、地域経済も活性化します。
ほかにも、シェアリングエコノミーを活用した観光がさらに普及します。旅行者はホームシェアリングを通じて地域住民と交流しながら宿泊し、地元ならではの文化や生活を体験できるでしょう。
また、地域の資源を共有する取り組みとして、地元コミュニティが所有する電動自転車や車両を活用した移動手段が広がることも期待されます。これらの取り組みは、観光の環境負荷を最小限に抑えつつ、地域の経済基盤を強化する持続可能な観光モデルを形成します。循環型経済の導入により、観光業界は旅行者と地域社会の双方にとってより魅力的で持続可能な未来を築いていくでしょう。
健康とウェルビーイング重視
健康とウェルビーイングを重視した地域主導の観光がさらなる注目を集めると予想されます。特に「ヘルスツーリズム」が人気を集め、自然環境や地域資源を活用したスパ施設や、マインドフルネスに特化した旅行が増えるでしょう。地元産のオーガニック素材を使用したトリートメントや、森林や湖畔など静かな環境で行うヨガ・瞑想プログラムが好評を得ると考えられます。
また、個々のニーズに合わせた「パーソナルウェルネスリトリート」も拡大します。例えば、ストレス軽減、睡眠改善、体力増強など特定の目標に特化したプランが提供され、旅行者は地域の自然と調和した形で心身を癒す体験が可能です。これらは、自然環境を大切にする地域主導型の持続可能な観光とも連携が期待されます。
さらに、「サウナ文化」の再発見が観光トレンドの一部となる可能性があります。地元の素材や伝統を取り入れたサウナ施設が注目を集め、寒冷地では天然水を使ったコールドバスとの組み合わせが旅行者にリフレッシュを提供します。地元コミュニティが運営するサウナ施設では、文化的体験も付加され、地域独自の魅力を打ち出す要素となるでしょう。
これらの観光は、自然との調和や地域文化の尊重を通じて、旅行者に持続可能な癒しと再生の体験を提供する新たなスタイルとして支持されると期待されます。
最後に
2025年のサステナブルツーリズムのトレンドは、気候変動や社会的課題に対応しつつ、持続可能で個人や地域にポジティブな影響をもたらす方向へと進化しています。
カーボンニュートラル旅行や循環型経済の導入、地域文化や自然とのつながりを重視した観光が主流となり、旅行者の倫理観やウェルビーイングへの関心も高まっています。
これらのトレンドは、観光業界が環境と社会に調和しながら成長する新たなモデルを示しており、旅行者と地域の双方にとってより豊かな未来を築く鍵となるでしょう。