オランダ・アムステルダムのTaste Before You Waste|フードロス削減を目指す
オランダのアムステルダムでは、オールドイーストといわれるエリアにあるJavastraat通りで回収された廃棄食材を活用した食事会が、毎週水曜日に開催されています。この食事会は、フードロス削減を目指す非営利団体Taste Before You Wasteが行っており、2012年に活動を開始して以来、現在も行われています。
実際に彼らの活動にボランティアとして参加した感想や活動を紹介します。ちなみに、私は洗浄後のお皿を拭く担当としてボランティアをしました。
Taste Before You Wasteの活動について
Taste Before You Waste(以下、TBYW)は、2012年にLuana Carretto氏によって創設されました。TBYWの主な活動は、本記事でも紹介するローカルで回収した廃棄食材を使った食事会「Wasteless Wednesday Dinners」の開催や食事会で使いきれなかった食材を無料で提供する「Food Cycle Market」、フードロスに関するイベントやワークショップの開催などです。TBYWは、見た目や大きさの問題で一般的には廃棄されてしまう食材が、実は美味しく食べれること、価値があるということを伝えています。
TBYWの運営曰く、野菜やフルーツが順調にスーパーマーケットで売れると、廃棄する食材がないため、不足してしまう時があるそうです。しかし、毎週水曜日に食事会を開催することが決まっており、また楽しみにしてくれている人がいるため、不足分は新たに購入することもあるそうです。TBYWは、ボランティアによって運営されており、運営費は寄付によって賄われています。
会場の出入口には、「より美味しい食事を提供するために寄付をお願いします!」と書かれた募金箱が設置されています。
多種多様な人々が集まる地域に根ざしたコミュニティ
TBYWは、人種や年齢の垣根を超えて地域に住む住民や大学生といった人々を巻き込みながら、環境や社会に配慮した持続可能な食料システムの構築を目指しています。
ボランティア参加者は、地元の高校生、大学生、昼間は仕事している社会人や私のような旅行者までさまざまです。当日一緒にボランティアを行った高校生に何故ボランティアを行っているのか尋ねました。すると、学校側から参加するよう促されたのだと教えてくれました。また、社会人の参加者は、普段の仕事では接点のない人々と交流することで気分転換できてストレス発散になるからだと話していました。
食事会の参加者は平均して40-50人ですが、多い時は80人以上に達し、毎週決まって参加する人もいるそうです。また、会場を見渡すと、学校帰りの学生グループや家族連れ、恋人や友達同士(犬を連れてくる方まで…!)など、誰もが気軽に立ち寄れる場所になっています。
さらに、国籍もオランダだけでなく、ドイツ、フランス、イラン、中国、インド、インドネシアとダイバーシティに富んでいます。カウンターに来た女性が話し始める前に「オランダ語と英語どっち?」と聞いている姿もとても印象的でした。
押し付けがましくないことがカギ
食事会は、食事の提供だけでなく、ミュージシャンによる音楽ライブも開催されます。食事会という名目ですが、ライブが始まるタイミングで会場を訪れる参加者も何人かおり、音楽を楽しみに集まっている人々も一定数いるようです。
TBYWの提供している食事が、廃棄食材を活用していることをどれほどの人が知っているかを把握することはできません。しかし、食事会は10年以上に渡って継続して開催されています。また、運営費は参加者による寄付で賄われていることから、地域の住民たちから活動が受け入れられていることが分かります。そして、多くの住民や活動に興味を持った人々が食事会に参加することで廃棄食材が救われています。食事会で使いきれなかった食材は、参加者やボランティアにも配られており、私も帰り際に余ったマンゴーと冷凍食材を頂きました。
さらに、会場やSNSで情報発信されているコンテンツは、フードロスという社会課題ではなく、食事と音楽ライブを楽しもうというメッセージが前面に押し出されています。そして、宗教や思想に関係なく食べることのできるヴィーガン料理を提供するといった工夫で、誰もが参加しやすい雰囲気づくりに繋がっていると感じます。
最初は、フードロスなどの社会問題について知らない参加者も、TBYWの食事会に参加することで、小売店の売り場で目にする機会がほとんどない傷んだ野菜やフルーツを目にし、味は美味しいのに廃棄されてしまう食材があることを知ることができます。
フードロスは日本でも身近な課題である
農林水産省によると、日本全体で廃棄される食材の量は、世界で3番目に多いそうです。皆さんも、食べられなくなった野菜・果物や賞味期限の切れた食品を捨てたことがあるのではないでしょうか。
フードロス削減に向けた動きは、日本国内でも加速しています。例えば、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、レストランで廃棄される食材と消費者を繋ぐ、TABETEやKuradashiなどです。TBYWのようなローカルコミュニティを巻き込んだ動きも見られます。例えば、地域の子ども食堂やフードバンクへの呼び掛けなどです。
ライフスタイルや国民性の違いはありますが、TBYWのように毎週定期的に食事会を開催し、年代や国籍を問わないコミュニティの形成は、「孤立」といった社会課題の解決にも繋がっています。「フードロス」と「社会的孤立」は、どちらも日本が共通して抱えている社会問題です。日本は、オランダほど人種や国籍が多様ではありません。だからこそ、地域内にある子ども食堂や高齢者施設、ゴミ拾いのボランティアといった団体が、共同でスーパーマーケットを巡って廃棄食材を集め、廃棄物ゼロの食事会を開催すると、地域内の交流がより深まるのではないかと感じました。これまで交わることのなかった団体や人同士が交流し、集まることで、プラスの影響が地域全体に波及するのではないでしょうか。
最後に
ボランティア活動を通じて私が感じたことは、サステナビリティというテーマは、やらなければならないといった義務や強制ではなく、「美味しい」や「楽しい」といったポジティブな要素が必要不可欠だということです。そこに加えて、TBYWのようなコミュニティを形成するためには、継続することが何より重要です。
本記事で紹介したTBYWの取り組みは、「フードロス」や「孤立」といった社会問題をポジティブに解決していくためのヒントになるように感じます。