北欧のエシカルなライフスタイル|シンプルで豊かな生活を実現する秘訣
近年よく聞かれるようになった「エシカル(Ethical)」とは、英語で「倫理的な」という意味を表す言葉です。
現代では、特に人や地球・社会に配慮した行動や考え方を主な軸として、個人または企業・団体がライフスタイル上での実践を通し、気候変動や人権といった問題の解決を図ることを指すようになってきました。
2015年には、地球の地表温度の上昇を、産業革命以前と比較して1.5度までに抑えることを目指すパリ協定が締結され、すべての国が更に野心的な削減目標の設定・行動を促されています。
さまざまな国や地域で、気候変動に向けた実践がなされる中、ノルウェー・デンマーク・スウェーデン・フィンランドを含む北欧エリアは、とりわけ野心的な目標を掲げつつ、達成に向けて着々と取り組んでいることから、世界でも持続可能な社会づくりへの取り組みに注目が集まっています。
今回は、北欧諸国のエシカルライフスタイルについて、歴史的な背景や実例を挙げながら紹介します。
エシカルライフスタイルの背景
まず、北欧でエシカルなライフスタイルが実現されている背景に迫ります。
北欧諸国の環境意識と社会的責任の高さ
北欧といえば、豊かな自然と冬の厳しい気候が思い浮かびますが、歴史を振り返るとその厳しい冬を乗り越えるための困難が垣間見られます。このことから、北欧に住む人々の間では、常に自然へ畏敬の念を示し、共生しようという認識が根付いていることが分かります。
イギリスの企業・Diversified Business Communications UKがスウェーデン市民に対して行った、食とサスティナビリティに関する調査では、消費者の72%は「サステナブルな商品やサービスが購入の際の判断に影響する」と回答。62%が「選択肢があればサステナブルな方を購入する」としており、環境問題への意識も高いことが伺えます。
こうした市民の意識は国の方針や取り組みにも影響しています。林業や漁業・農業といった視点から、生態系を壊さず持続可能な暮らしを営めるよう、国を挙げたルール制定・基盤づくりが進んできました。
参照:
Natural Beauty & Health Show | Kistamässan, Sweden
「労働者の権利」を行使してきた歴史も
また、労働の面においても、北欧各国で1920年代ごろから労働組合の運動が盛んになり、ストライキなどを通じて年金や育休制度などが整備されてきました。このような歴史的背景から、早い段階で労働環境の整備が進み、現在でも多くの労働者が労働組合に加盟するなど、自分たちの暮らしを豊かにするための「労働者の権利」を強く持っています。
厳しい気候のせいで自国では産出できない資材があったり、国民の数が多くないゆえに人材が限られたりと困難も多い中、業種や立場を超えて連携し、心身と社会的な健康を保ちながら、働きやすい環境を整えています。
以上のような状況から、北欧諸国では国民ひとりひとりに環境や人権・社会への意識が根付き、エシカルなライフスタイルの確立に貢献したのではないかと考えられます。
参照:
Labour movement in the Nordic countries
Workers’ rights and conditions | Move to Gothenburg
エシカルライフスタイルの歴史的背景
では具体的に、どのような歴史からエシカルなライフスタイルが生まれたのかを見ていきましょう。
オイルショックが導いた、再生可能エネルギー戦略
1970年代、中東戦争の勃発により一次オイルショックが発生し、世界中の原油に頼る国と地域はエネルギー供給の面で大きな打撃を受けました。
この出来事から教訓を得て、特に北欧3か国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)では、他国に依存しないエネルギー源の確保を目指し、原子力発電を含む別電力の導入の検討がはじまりました。
この環境下でもデンマークは、10年もの国民間の議論の末、1983年には原子力発電に依存しない結論を出しました。以降、島国である地形条件を活かした風力発電の導入に力を入れ、2023年時点では53%を超える自給率を誇っています。
北欧のほかの国々でも、水力や地熱力といった自然由来の再生可能エネルギーを推進し、自国で生産できるエネルギー源によって持続可能な形でインフラの基盤を整える方向を目指しています。
参照:
北欧のエネルギー社会と日本のエネルギーシナリオ – ステファンのデンマーク便り
Wind energy in Denmark – statistics & facts | Statista
気候変動の解決を求める市民たち
世界全体で喫緊の課題である気候変動は、工業革命以降、急速に進んでしまいました。
環境問題について、本格的な議論が世界規模で始まったのは1980年代に入ってからですが、北欧諸国では、1970年代ごろから世界に先駆けて、環境保持のための規制やリサイクルシステムの確立といったさまざまな側面で、環境問題の解決に向けた取り組みを積極的に行ってきました。
こうした背景には、市民の環境問題への意識の高さから、気候変動の問題解決に向けた具体的な指針と早急な行動を国や企業に求めていることが挙げられます。
有名な例としては、気候変動に関する問題の解決を求め、毎週金曜日に学校をストライキする活動を一人で始めたスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏です。彼女は15歳の時に、気候変動の解決を求め、学校を休んで国会議事堂の前に座り込む「School Strike for Climate(気候変動のための学校ストライキ)」を始めました。この活動は日が経つにつれて多くの若者に知られるようになり、グレタさんの活動に賛同・応援する人が増え、ストライキの規模は徐々に大きくなっていきました。
グレタさんが16歳になった2019年には、ニューヨークで行われた国連機構サミットで演説を行いました。スピーチの中で、気候変動の根本的な解決に向けた行動をしない大人たちに対して言い放った「How dare are you(よくもそんなことが出来るものだ)」という有名なフレーズが、彼女の気候変動への問題意識の高さと、解決がなかなか進まないことへの焦り・怒りをよく表しています。
このように、北欧のエシカルなライフスタイルの背景には、かねてから問題となっている環境問題に対し、個人だけでなく国や自治体・企業といった大きな組織を巻き込むことで、課題解決を促進させてきたのです。
参照:
1-6 いつから地球温暖化が問題とされるようになったのか | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
Greta Thunberg: Who is the climate activist and what has she achieved?
北欧のエシカルライフスタイルの具体例
ここからは、北欧諸国で実践されているエシカルなライフスタイルの具体例を見ていきましょう。
サステナブルなファッションと消費行動
近年、さまざまな国や地域で「サステナブル」を謳ったファッションブランドがトレンドとなり、北欧諸国でも多くのブランドがサステナビリティに力を入れています。新しいブランドはもちろん、以前から存在するブランドの中にも、素材の選び方や生産体制・梱包などあらゆる面に配慮しながら、質の良い商品づくりを続けているブランドも多くあります。
例えば、ノルウェーの「Norwegian Rain(ノルウェジャン・レイン)」は2010年に創業したレインウェアブランドですが、素材にはリサイクルされたプラスチックを採用し、大量生産を行わないビジネスを構築しています。
こうした商品は、価格は「お手頃」とは言いがたいものの、エシカルやサステナブルを意識する消費者は、環境や社会に配慮された形で作られた、質のよいプロダクトを提供するNorwegian Rainのようなブランドから商品を購入する傾向にあります。
地元食材の利用とオーガニックフードの普及
北欧といえば「エコやサスティナビリティへの意識が高い」というイメージを持つ人も多いかもしれません。それは食の面でも同じことが言えます。
1987年から国全体でオーガニック農業を推進してきたデンマークをはじめ、北欧では野菜や果実だけでなく、特に多く消費されるチーズやバターなどの乳製品、持続可能な形での畜産業・水産業にも力を入れています。
スウェーデンの大手スーパー・ICAでも、この数年でオーガニックの食料品の販売の割合が増えており、2022年には魚介類がオーガニック食品全体の売り上げの約20%を占めています。またオーガニック農法を行う土地面積の割合は、EUの平均が10.4%(2022年)であるのに対し、デンマークは11.43%、フィンランドは14.95%、スウェーデンは19.87%と大きく、それぞれの気候条件に適したオーガニックな農産物を推進している国の姿勢が伺えます。
冷涼な気候のため、ジャガイモや人参のような根菜類をはじめ、リンゴやベリー類といった果物もあります。また植物だけでなく、オーガニックで育てた穀物を使用した家畜業も盛んです。
参照:
The Danish organic label
Organic food market in Scandinavia – statistics & facts | Statista
FiBL Statistics – Area data
エコフレンドリーな住まいとエネルギー利用
エネルギーの電源構成は、その国や地域において温室効果ガスの排出量から、気候変動を引き起こす地球温暖化への影響を大きく左右します。
先ほどご紹介したように、北欧諸国では再生可能エネルギーを中心としたエネルギー自給率が高い傾向にあります。デンマークの風力をはじめ、スウェーデンのバイオ燃料、ノルウェーの水力といった、化石燃料に頼らず自然資源で賄える方法を導入しています。
一般的な家庭の多くでは、一か所で熱源をつくり、建物全体を温めるセントラルヒーティングというシステムが設置されています。セントラルヒーティングとは、各部屋に設置されたパイプに、温めた水を流して一定の室温を保つというもの。北欧の都市部におけるほとんどの家庭では、エアコンやストーブを持たず、セントラルヒーティングによる暖かさだけで寒い冬の間も快適な生活を送れます。
参照:
Norway – Countries & Regions – IEA
北欧のエシカルライフスタイルの最新トレンド
北欧諸国のエシカルなライフスタイルに迫ってきましたが、今どんな傾向がトレンドとなっているのでしょうか。
流行のエシカルブランドやプロジェクト
北欧では、100以上のブランドがエシカルなものづくりに励んでいます。
例えば、デンマークを拠点とする下着ブランド・Organic Basisは、環境や倫理面で厳しいチェックを通過した素材にのみ与えられる認証ラベル「GOT認証」を取得したオーガニックコットンを主力商品としています。そして、縫製や加工を行うパートナー工場の情報を公開し、ものづくりに従事する人々の労働環境にも気を配っています。多様な面でエシカルを徹底し、人にも環境にもやさしい商品を消費者へ提供しているのです。ほかにも、木材の繊維からつくられたテンセルや、リサイクルナイロンを再利用した繊維のように、環境に配慮したものづくりを徹底しています。
またフィンランドで家族経営を行うファッションブランド・Ivana Helsinkiは、100%ヴィーガンのアパレルアイテムを展開しています。ひとつの素材を無駄なく使い切るため、コレクションの中で同じ柄のアイテムを複数展開するほか、梱包にプラスチックを使用しないなど、環境面への配慮が伺えます。そして、同社のユニークな取り組みとして、衣服のレンタルサービスが挙げられます。Ivana Helsinkiのオフィスは、現在販売しているコレクションだけでなく、過去のコレクションなども含めてレンタルサービスを行っています。冠婚葬祭やメディアの撮影といった、同じ服を着る機会の少ない場において、衣服が無駄になることを防ぐこの取り組みは、今後より普及してほしいサービスのひとつです。
人気のエシカルイベントやコミュニティ活動
ファッション以外の分野でも、北欧ではエシカルなライフスタイルに貢献できる数多くのイベントやコミュニティ活動が行われています。
ノルウェー発・グリーンな音楽フェス
ノルウェー・オスロで毎年行われている音楽フェスティバル・Øyafestivalenは、「世界で最もグリーンな音楽フェスティバル」と評されています。
会場となる公園は都市部にあるため、観客の98%が交通機関や自転車を利用してアクセスしているほか、アーティストや関係者たちの移動手段にも、排気ガスを出さないゼロエミッション車両が使われています。
電力源は、市から提供された発電網を利用、公園が丘の中腹にあるおかげで観客席を新たに設置する必要がない点もポイントで、丘の高低差を上手に利用し、観客が観やすいと感じる場所から持参の折り畳み椅子やブランケットなどに座って、自由にパフォーマンスを楽しむことができます。
会場内で提供される食品の多くは植物性で、ほとんどがオーガニックの材料で作られています。また、ゴミ箱やコンポストがいたるところに設置されており、細かく分類してリサイクルできるように工夫されています。
こうした細やかな配慮と主催側のたゆまぬ努力によって、何年たっても変わらず音楽フェスティバルを続けられるよう、エシカルな取り組みが行われています。
参照:
Organizers of World’s Greenest Music Festival Explain How It’s Done
「古いものを大切にする」精神
日本の「もったいない」精神は、北欧にも存在しています。今でこそ、多様な選択肢の登場によって欲しいものが何でも手に入る時代にはなりましたが、北欧諸国には「古いものを大切に使い続ける・循環させる」という認識が社会にも広く浸透しているのです。
スウェーデンではLopppis、ノルウェーではLoppeと呼ばれる、フリーマーケットのような存在が、まさにそれを象徴しているといえるでしょう。公園や広場などで行われるフリーマーケットのほか、小学校が開催するLoppeでは、生徒や教師の家庭から集められた衣服や皿などを求め、毎度多くの人々が買い物に訪れています。
古いものを循環させ、また次の人が使う。とてもシンプルなことですが、北欧の人々にとっては当たり前かつ、エシカルなライフスタイルの根本を形作る要素のひとつなのかもしれません。
エシカルライフスタイルを実践するための方法
北欧のエシカルなライフスタイルには、見習うべきポイントが詰まっています。
ここでは、私たちが日常生活の中で取り入れやすいポイントをいくつか挙げてみました。
日常生活での具体的な実践方法
私たちの普段の生活において、以下のような実践方法が挙げられます。
本当に必要なものかどうかを見極め、最低限の量だけを購入する
まず、欲しいものが頭に浮かんだり、目の前に現れたりしたときに、衝動で買い物をするのではなく、一度立ち止まって「本当に必要か」を考えてみて下さい。
せっかく購入しても使う機会がなく、結局捨てる羽目に、なんてこともあるかもしれません。しかしすべての資源は地球から賄っているものであり、製造や加工に充てられたエネルギーも含めて、せっかくの商品が無駄になってしまいます。
そうなる前に、食べ物でも日用品でも、まずは「これ、いるかな?」と一度考えてから購入する習慣を身に着けましょう。
「サポートしたい」という気持ちでお金を支払う
さまざまな選択肢を常に求められる買い物は、エシカルなライフスタイルに向かうために行動できる習慣のひとつです。
いつも何気なく購入している商品が、どこで・どのように作られているのかに目を向け、その商品を購入することで、環境や人権・社会にどれだけのインパクトを与え得るのかを考えてみてください。
その上で、もし「この企業の活動に賛同できる」「サポートしたい」と思えるなら、ぜひ対価を支払ってサポートの気持ちを表しましょう。
そうでない場合、ほかの選択肢を視野に入れてみるのはいかがでしょうか。スーパーでいつも買っている商品のメーカーを変えてみる、エシカルやサステナブルといったキーワードで検索し、ヒットしたブランドを試してみる、など、方法はたくさんあります。
中古品を検討する
ひとつのものを長く使うという意味で、必ずしも新しいアイテムでなくても良い場合は、積極的に中古品から探してみるのもよいでしょう。
近年はリサイクルショップやヴィンテージを扱うお店だけでなく、アプリなどでも簡単に中古品を探せるようになりました。
新たな資源を無駄にすることがない上に、多くの場合は新品よりも安く手に入ります。また時には、ほとんど使われていない新品同様の状態で売られている場合もあります。
中古品を賢く使って、地球にもお財布にもやさしい生活を取り入れてみましょう。
簡単に取り入れられるエシカルな習慣
特に買い物をする際は、エシカルな選択肢がたくさん広がっています。できるだけエシカルな商品・サービスを選び、暮らしを通して環境や社会へ大きなインパクトを残さないために、できることを考えてみましょう。
ラベルの有無をチェック
例えばオーガニック農法を使用した作物および、オーガニックの食材を原料とした食品であることを示すオーガニック認証や、森林の伐採や加工の段階で、環境や社会に配慮していることを示すFSC認証など、さまざまな種類の認証ラベルが存在します。
こうしたラベル認証を取得している商品はエシカルである、と消費者にとって分かりやすい判断材料になります。買い物をする際は、普段何気なく選んでいるアイテムのパッケージやタグをよく観察してみましょう。
原料や企業の情報をチェック
特に食品の場合、パッケージ裏に表記された原材料をチェックすると、エシカル度合いや食品の安全性をある程度判断しやすくなります。
原材料の種類や産地のほか、オーガニックかどうかや、原料が国産かそうでないかを判断するのに役立ちます。また製造会社の情報やアレルギーの有無も記載されているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
最後に
北欧諸国では、環境や人権といった世界でも喫緊の課題に対する意識が多くの人々の間で共有され、解決に向けて市民が立ち上げた企業やコミュニティが、エシカルなライフスタイルに重要な役割を果たしています。そうした選択肢が豊富にあるからこそ、北欧の人々は自然とエシカルなライフスタイルに傾いているのかもしれません。
私たちも、日々の暮らしの中で「エシカル」を少し意識してみましょう。習慣をひとつ変えるだけで、ぐっとエシカルなライフスタイルに近づけるはずです。