オランダ・サステナブルファッションのミュージアム「Fashion For Good」
皆さんは、普段身にまとっている衣類の製造場所や素材について考えたことはありますか?ファッション産業による環境破壊や人権侵害といった問題への関心が高まっており、新たな資源を必要としないリサイクル素材を使うことやテクノロジーによるサプライチェーンの透明性向上に取り組むサステナブルファッションが注目されています。
ファッション産業の過去と現在、そして未来へ
オランダのアムステルダムにあるFashin For Goodは、サステナブルファッションについて考える体験型ミュージアムです。身近な衣類を通じて、ファッション産業が直面している課題とその解決方法について知ることができます。館内は、地下1階の「過去」から1階の「現在」そして2階の「未来」と3つのフロアに分かれています。
地下1階の「過去」のフロアでは、年表を通じてファッション産業のこれまでの主な出来事が示されています。例えば、1830年代、フランスでは実用的なミシンが登場し、大量生産が可能になりました。また、1992年にはアニマルウェルフェアに対する市民運動が起こり、2013年にはファッション産業の過酷な現状を世界に知らしめた事件として知られる「ラナプラザの悲劇」が起こりました。「ラナプラザの悲劇」は、バングラデシュの商業ビルが崩壊し、約4,000人の死者や負傷者を生んだ事故です。商業ビルには、安い人件費を目当てに世界各地のファッションブランドの縫製工場が所狭しと詰め込まれており、安全管理が行われていない劣悪な労働環境のもと、不平等な労働を強いられていたことが露呈しました。
また、同フロアでは、一枚のTシャツが出来上がるまでの工程も展示されています。ファッション産業のトレーサビリティを可能にすることが難しい背景には、サプライチェーンが長く、複雑であることが挙げられます。具体的には、「コットンの栽培」「布の製造」「布の染色」「布のカット・裁縫」「輸送」「販売(リテール)」そして最後は、私たちの手元に届き「使う・消費する」という工程があります。
次に「現在」を表す1階のフロアでは、「良いファッション」の定義について学びます。「The Five Goods」として次の通りに定義されています。
- 素材:安全で健康的な素材であること。リユースやリサイクルが可能なデザインであること。
- 経済:成長し、資源が循環し、みんながハッピーな経済の形であること。
- エネルギー:再生可能でクリーンなエネルギーを使っていること。
- 水:製造過程で水を汚染せず、すべての人が安全に水を使えること。
- 生活:労働者に公平な賃金を支払い、安全な労働環境を提供していること。
同フロアでは、さまざまなテーマが入れ替わりで展示されています。私が訪れた日は、「Knowing Cotton Otherwise」というコットンに焦点が当てられた展示が行われていました。
最後は「未来」を表す2階へ進みます。このフロアでは、過去のフロアで触れられていた課題の解決に向けた取り組みが紹介されています。環境に優しい新たな素材やサプライチェーンの透明性向上に向けて取り組むアディダスやEONといったブランドや企業の事例が展示されています。
解決まで提示することの重要性
過去のフロアでは、Tシャツを一枚製造するには、2,700リットルもの水が必要という事実が伝えられます。この水の量は、人間一人が飲む水の3年分に相当します。みなさんは、この事実を聞いてどう感じるでしょうか?ファッション産業の問題に関心がある人もない人も、恐らく衝撃を受けるでしょう。
一方、未来のフロアでは、コットンをリサイクルすることで生まれた新たな素材やパッケージのアイディアが展示されています。さらに、完成した衣類の製造者を明確にするためのトレーサビリティ向上に向けた取り組みや、洗濯することで流れ出てしまうマイクロプラスチックの流出を防ぐ方法なども伝えられています。
Plantcare社の商品が展示されています。誰でも簡単に洗濯機に取り付けることが可能で、衣類から流れ出るマイクロプラスチックを90%削減することができるそうです。
産業を問わず、私たちはサステナビリティに取り組むことに対して「本当に今の習慣やライフスタイルを変えることは可能なのだろうか?」という気持ちになることもあります。しかし、Fashin For Goodでは、大量生産・大量消費というビジネスモデルで多くの問題を引き起こしているファッション産業が、現在の生産体制やサステナブル素材への代替といった変化に向けて動き出していることが示されています。私たちが未来に対してきちんと希望が持てるよう解決策まで提示することは、消費者に訴えかける上で重要なコミュニケーション方法です。
自分ごと化することでアクションに繋がる
過去のフロアでは「発生した問題や課題」について、未来のフロアでは「解決方法」について知ることのできるFashin For Goodですが、館内ではファッション産業の問題をより身近に感じるための工夫が凝らされています。
Fashin For Goodを訪れると、来館者は最初にリストバンドを渡されます。館内の至る所には、アクションプランが書かれたスポットがあり、「行動に移すことができる」と思うアクションに対してリストバンドをかざすとデータが蓄積されます。蓄積された個人データは、最後に自分専用のアクションプランとしてメールで届くようになっています。
館内に設置されていたアクションプランには、一部ですが以下のようなものがありました。
- 購入時に素材を確認してみましょう。可能であれば100%同じ素材からできている衣類の方がリサイクルしやすいです。
- 4月24日はファッション革命を起こす日です。お気に入りのブランドと一緒に#whomademyclothes というハッシュタグでSNSに投稿しましょう。
- 近所にファッションデザイナーはいませんか?地域のものを購入することは、コミュニティのサポートにも繋がります。
- 不必要なゴミを出さないために、買い物へ出かける際はマイバッグを持参しましょう。
- お気に入りのブランドは、サプライチェーンに対してどのような取り組みを行っていますか?メールまたはツイートして聞いてみましょう。
- 昔ながらの方法で衣類を作ってみましょう。近くに裁縫教室があるかもしれません。
- 洗濯は冷たい水で行いましょう。エネルギーの使用を半分に抑えることができます。
- 着なくなった衣類はリサイクルしましょう。リサイクルすることで衣類の寿命も伸びます。
- クリエイティブなアイディアで衣類を長く着ましょう。ジーンズに穴が空いたら、短パンにリメイクし、スウェットにシミや穴ができたらパッチや補修シールを貼ってみましょう。
- まだ着られる衣類をオンラインで販売してみましょう。手放す方法は、廃棄やリサイクル以外にもあります。
- 衣類の修理方法を学びましょう。衣類を買うのではなく、裁縫道具を購入してみませんか?
- 化石燃料由来の繊維から作られた衣類は、洗濯するたびに小さなマイクロプラスチックが海に流出します。マイクロプラスチックの流出を防ぐ洗濯ネットなどを使用しましょう。
- 乾燥機ではなく、太陽の光で乾かしましょう。アイロン作業も省くことができます。
- 洗濯機は、いっぱいになってから回しましょう。洗濯回数を抑えることで水や電力の消費を抑えることができます。
- コットン製品を購入する際は、オーガニックコットンを選びましょう。
- オーガニックコットンのGOTS認証やフェアトレード認証といった第三者認証を取得している衣類を購入しましょう。
- 服を購入する前に、ブランドの環境や社会に対する取り組みを事前に調べましょう。ブランドサイトからレポートにアクセスすることができます。
- もし新たに衣類が必要な場合は、購入ではなくまずはレンタルできないかを考えましょう。成長期の子どもや妊娠中の方には特におすすめです。
来館者は、リストバンドをかざす前に、本当に自分がアクションプランを実践できるのかを考えます。誰かに指示されたことではなく、自分で考えて決断したことだからこそ、実際の行動に移しやすくなっているように感じます。
2021年10月から2022年3月の半年間に渡って開催されたドバイ国際博覧会(ドバイ万博)では、Fashion For Goodと同様に「自分ごと化」するための工夫が行われていました。
さらに、巨大なスマートボールゲームも設置されており、それぞれのゴールには来館者が取り組むことのできる目標が記載されています。私のボールは「今後30日間衣類を買わない」という目標にゴールしました。カードの裏には、「忘れないようにお財布に入れといてね!」と書かれています。
最後に
Fashin For Goodは、1時間ほどでファッション産業について十分学ぶことのできるコンパクトなミュージアムです。しかし、来訪前と来訪後では、ファッションに対する考え方や衣類を購入する際の基準が変化しているでしょう。
ファッション産業が抱えている問題や課題を目の当たりにすると、自分自身も問題の解決に向けて何か実践したいという気持ちになります。私は、一消費者として作成したアクションプランを早速実行に移していきます。本記事を通じて、皆さんと一緒に行動を変えていきたいです。
参照:
Innovation platform – Fashion for Good