2100年まで生きる私と気候変動|コスモポリタンキャンパス2022
2100年の世界はどうなっているでしょうか?
月や火星の移住が実現。友人に会いに週末宇宙旅行へ。スマホがこの世から無くなっている。コンタクトレンズや眼鏡などのウェアラブルな機器によってスマホは代替されている。英語を勉強する必要がない。言語ではなく非言語で人間同士コミュニケーションが可能となった。人類が抱え続けている資源枯渇の問題は解決。核融合の実用化によって、ほぼ無限に使えるエネルギーを手に入れている。
大人にとって、2100年は遠い未来かもしれません。どのような世界観が実現しているか想像しにくいかもしれません。しかし、今の中学生は2100年まで生きる可能性が高く、彼らにとって2100年の世界は自分ごとなのです。
2100年、自分が地球に存在するのであれば、より美しく、安心して過ごせる環境をつくりたいと考えるでしょう。しかし、現実は厳しいと言えます。私たちが化石燃料に依存し続けた場合、2100年までに世界の平均気温は4.4℃上昇する可能性があると専門家は指摘しています。
コスモポリタンキャンパス 2022のテーマは「気候変動」
こどもの職業・社会体験施設「キッザニア」の企画・運営を行うKCJ GROUP 株式会社は、4Cスキル(Collaboration、Communication、Creativity、Critical Thinking)を育み、激変の時代を生き抜く力を身につけることを目的とした、中学生対象の対話型SDGs ワークショップ「コスモポリタンキャンパス」を毎年実施しています。少年期から青年期に移る多感な時期に、第一線で活躍する講師陣と対話し、多様な視点を持ってSDGsのゴールなどをジブンゴト化する第一歩として物事を考えてほしいという思いから参加者を中学生に絞っています。開催5年目となる今年は、「コスモポリタンキャンパス2022 気候変動のシナリオを変えよう!-Change Makers PJ-」と題してワークショップを開催。5日間開催されるワークショップ期間中、DAY3にワークショップを見学し、取材を行いました。
DAY3の講師陣は、大塚桃奈氏と前田雄大氏でした。大塚桃奈氏は、徳島県上勝町へ移住、「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」で働きながら、ごみを切り口に循環型社会の実現に向けて活動中。前田雄大氏は、脱炭素メディア「GXチャンネル」発行人兼統括編集長で、日本で最も脱炭素に熱いYouTuberです。両者とも信念を持って、積極的に世の中に情報発信を行なっているチェンジメーカーです。
自分にとって影響あるし、自分達の子どもにも影響がある。
コスモポリタン2022に参加している中学生数名にインタビューを実施。どの中学生も気候変動に対する興味は非常に高いことが伺えました。何故か。それは気候変動の情報を日常的に触れる機会が多いからです。2016年11月4日に発行されたパリ協定以降、日本のマスメディアで気候関連に関するテーマの報道が一気に増えました。ワークショップの参加者(中学生)は、小学校低学年の時から自らインターネットやモバイルに触れ、情報を検索し始めています。自分が気になるニュースは検索し、調べて、理解する。これを繰り返す。この時期、インターネット上で気候変動や温暖化は既にビッグキーワードであり、目に触れる機会が多かったはずです。
また、ある中学生に「気候変動とは何か?」と質問したところ「人間の活動による地球環境変化」だと教えてくれました。最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と強い調子で、従来より踏み込んで断定。人間の経済活動と気候変動の相関関係に関しては、さまざまな考え方があります。しかし国際社会では、科学的根拠をもって、1750年頃からの大気中の二酸化炭素など温室効果ガス濃度上昇は、化石燃料の大量消費などの人間活動が原因であると結論付けられました。
科学的根拠をベースとした地球環境の変化の主張を受け入れようとしない大人はまだまだ多いでしょう。一方で、一部ではありますが、日本の若い世代が先進的な考え方で物事を捉えられることは希望です。そして、気候変動や温暖化は、自分にとっても、2100年よりも先を生きる自分達の子どもにとっても、影響が大きいテーマだと語ってくれました。
ゴミをなくすことは、楽しくて、かっこいい!
循環型社会という言葉をよく耳にするようになりました。循環型社会とは、限りある資源を効率的に利用し、リサイクルなどで循環させながら、将来にわたって持続して使い続けていく社会のことです。私たちの大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会とは大きく異なります。循環型社会への転換は大きな構造転換を伴います。企業は大量生産・大量廃棄のビジネスモデルから脱却し、消費者は今の消費生活を自ら問い、環境負荷が低い行動様式へ変える必要があります。しかし、人間は変化を嫌います。今をキープしたいという本来人間に備わったメンタルブロックが変化を阻むことがあります。それでも変化し続けようとするためには、強い動機が必要なのです。
上勝町ゼロ・ウェイストセンターの大塚桃奈氏は、ファッションが好きで、高校時代はファッションを通じて社会に貢献したいと願っていたそうです。しかし、自分の好きなファッションが、無意識に誰かに外部不経済を生み、加害者になっている事実を知りました。服を大量に作るための原料・コットンを育てるために大量の農薬と水資源を使い、劣悪な環境で働く労働者が服を生産しています。最終製品からは読み取りずらいですが、ファッションのサプライチェーンで起こっていることを見過ごすことはできません。フットワーク軽く行動し、学校内外で仲間を見つけ、自分の言葉で声を上げ続けた大学時代に国内外でさまざまな活動に携わりました。大学卒業後は上勝町ゼロ・ウェイストセンターで働き、この仕事を通して関係性を可視化し、問いかけるデザインの大切さを訴えています。
循環型社会は、ただ単にゴミを減らさせば良いというものではありません。これまでのサプライチェーンのように広範囲の連鎖ではなく、見える範囲の関係性をより大切にする。これがゼロウェイストのシステムづくりには欠かせないのです。そして、見える範囲の関係性の中でシステムが上手く動き出すと、見える関係性の少し先を想像し、見えない部分に想いを馳せ、システムの稼働範囲を広げていくことが重要だと大塚桃奈氏は伝えています。見えない部分に想いを馳せることができるようになれば、消費の選択肢が変わる。これによって、サプライチェーンで発生している環境や社会的な外部不経済を一つ一つ解決できるかもしれません。
脱炭素って面白い!
日本の大企業にとって、脱炭素の取り組みは当たり前となりつつあります。大きな資本から取り組みが始まり、サプライチェーンを通じて、脱炭素への取り組みが本格的に中堅・中小企業へ拡がることが予想されます。日本で脱炭素の注目が一気に高まったきっかけを作った人物は、菅前総理大臣でしょう。2020年10月26日に行われた自身の所信表明演説において、日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。また、2021年4月の地球温暖化対策推進本部及び米国主催のサミットにおいて、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すことも表明。自社の事業と気候変動や温暖化を結び付けられていなかった産業セクターや業態も脱炭素に興味を持ち始め、脱炭素はサステナビリティの取り組みの一丁目一番地となりました。
日本でも近年、自然災害の激甚化が進み、気候変動に伴うリスクが顕在化しています。特に水害によるインフラや地域コミュニティへの被害が目立ちます。企業は、地球温暖化への対応を制約やコストとして捉えがちです。発想を転換し、欧米のように成長の機会と捉えることで、積極的に地球温暖化対策を行うことができます。脱炭素への取り組みは、産業構造や社会経済を根本的に変えるものです。しかし、このことに気づいていない企業の経営者が多いように感じます。
脱炭素の取り組みが先行しているエネルギー、発電セクター、モビリティセクターや一部の不動産・建設セクターで変化の兆しは見られます。繰り返しますが、日本のチャレンジは、脱炭素を成長の機会という視点で捉え、大胆な行動を起こせるかどうかです。淡々とコスト対応をする話ではありません。脱炭素は技術進歩をしながら大きく変わります。発想を変えれば、面白い世界が実現するかもしれません。元外務省 気候変動担当(含むG7、G20、パリ協定関連)であった前田雄大氏が見えている世界観。日本企業の経営者も同じ世界観を見られるようになったら、日本産業は脱炭素で新しいビジネス領域を創造し、世界の脱炭素化に大きく貢献できるかもしれません。
情報発信を大切に。
DAY3のワークショップの最後は、グループワークを実施しました。講義を通して考えた自分の伝えたいこと(どんな未来を伝えたいか)についてまず個人で考え、その後、全員の意見を集めて3つにグルーピング。意見を共有し合い、DAY4、5で取り組む気候変動に関する動画制作に向けて、発信したい内容をグループ内で話し合いました。各グループが、どんな動画を制作し発表するか楽しみです。
大塚桃奈氏は、情報発信の継続のコツを参加者に伝えました。
「自分の『好き』『楽しい』という想いは持続する。ポジティブな気持ちがないと活動は続かない。社会に合わせるのではなく、自分が好きなものを軸において、発信することが良い」
前田雄大氏は、情報発信の大切さを参加者に伝えました。
「面白いと思ったら自分ごとになりやすい。日本はまだまだ気候変動に対して意識が低い。自分ごとになっていない人が多い。面白いと感じたものはとことん突き詰めて、積極的に情報発信をしてほしい」
ワークショップを通じ、参加者は多様な意見やアイディアに触れています。一つの視点だけではなく、多角的な視点が存在することを学びました。固定化されている自分の視点は解放され、物事を考える方向や幅が広がる可能性があります。常識に囚われず、既存のルールに縛られずに考える人材が増えることで社会の構造転換は起こります。2100年、明るい未来を創造するために今できることは何か。私たち大人も、想いをしっかりと込めて、正しい情報発信をすることから気候変動のアクションを始める必要があるのではないでしょうか。