世界の水問題とSDGs目標6|安全な水とトイレの未来を探る
SDGs(持続可能な開発目標)の目標6に掲げられた「安全な水とトイレを世界中に」。これは「世界中の人が安心して水を利用できる未来」を目指した目標です。人間が生活する上でもっとも欠かすことのできない「水」ですが、十分な水が得られず苦しい思いをしたり、安全・安心なトイレを利用できない人々が地球上にはまだまだ大勢います。
今回は、SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」をはじめとして、世界の水問題に関わる現状と、それに取り組む必要性について解説します。
SDGs6「安全な水をトイレを世界中に」
蛇口をひねると安全な飲み水が出てくる水道。各家庭や企業だけでなく、学校や公園など公共施設にまで設置された清潔に整備されたトイレ。これらの安全・安心に使うことのできる衛生的な水環境は、日本では当たり前のように我々国民は享受することができます。
しかし、世界中にそうした国は数えるほどしかありません。2017年ユニセフが公表したデータによると、世界人口の約1/3(約22億人)が安全な飲み水を得ることができず、世界の約6割の人(約42億人)が安全で管理されたトイレを使うことができないというのが現状です。(参考:ユニセフデータ)
貧しい国では上下水道などのインフラは整っておらず、糞や尿、そして家庭や工場の排水が流れ込んだ川や湖の水などを、処理もせず飲み水として利用しているケースも少なくありません。しかも水は飲み水として利用する以外にも、普段の生活用水や事業用水など、直接体に取り入れる以外にも利用され、我々の生命活動と生活のためには欠かせないものです。
ところが現在は地球温暖化や人口の増加、経済発展による影響などで、一部地域の問題ではなく地球上のすべての人の1人あたりの水の量が減ることが予想されています。こうした問題を含めて、今後の世界経済を占う上でも水問題は外すことのできないピースとなっているのです。
SDGsの水問題に取り組む必要性
干ばつによる水不足などは、砂漠地帯など大陸特有のものに思え、水資源の豊富な日本では無縁なことのように思えるかもしれません。しかし、現在の世界情勢では水問題はいち地方だけの話ではなく、地球規模で考えなければならない問題なのです。ではなぜこのようなことが起こっているのか、そして今なぜ水問題に取り組む必要性があるのかを解説します。
気候変動と水の関係
実は水問題に関しては、直接的に関わりのあるSDGs6「安全な水とトイレを世界中に」だけでなく、SDGs13の「気候変動に具体的な対策を」も大きく関わってきます。というのも、地球温暖化などに端を発する異常気象といった気候変動により、水不足はさらに深刻さを増すからです。その主なポイントは次のとおり。
- 降雨のパターンが複雑に変化し、水資源確保が不安定になる
- 干ばつ地域の増加
- 洪水のリスクが高まる
- 海面上昇による被害が増加
こうした水不足の解決のためには、地球温暖化を阻止するアプローチが必須となっているのです。
戦争の要因が石油から水へ
どれだけ地球上の人口が増えたとしても、地球にある水の総量は変わりません。このまま地球の人口が増え続ければ、当然1人あたりに分け与えられる水の量は少なくなるのは自明の理です。現状でも、先のデータのように安全な飲み水を手に入れられない人たちは約22億人も存在し、そのうち水そのものを手に入れられず死亡する人たちも少なからずいます。
かつては石油を奪い合うことが戦争の火種となることもありましたが、今後は水源を争うことが戦争の火種となりうる可能性は決して少なくありません。現に世界の各地でそうした紛争は巻き起こっていますし、世界の水源地の利権を買収する経済戦争は、すでに絵空事ではない現実の問題として身近に迫っているのです。
海洋プラスチック問題
もう1つ、SDGsの目標14に掲げられた「海の豊かさを守ろう」も、水問題に真っ向から関連してくる項目です。ここで一番抑えておくべきポイントは「海洋プラスチック問題」で、特に周囲を海に囲まれた日本においては避けて通ることはできません。
海洋プラスチック問題とは
我々の生活のあらゆる場面で利用されるプラスチック製品。ビニールや発泡スチロールなども含むプラスチック製品の多くは、常に「使い捨て」にされており、きちんと処理されないまま環境に流出してしまうのです。この環境に流出したプラスチックの多くは、最終的に海に行き着き、その総量は1億5千万トンもあり、年間800万トン(重さにしてジェット機5万機分相当)以上が新たに流入していると言われています。
これら大量のプラスチックごみは海の生態系に重大な影響を与え、多くの生命を死に至らしめるのです。それだけでなく、風光明媚な自然で成り立つ観光産業にも直接的、間接的な被害を与え、甚大な経済的損失をもたらしています。また、流出したプラスチックごみが海水や紫外線の影響などで分解され、やがて小さなプラスチックの粒子となったものをマイクロプラスチックと呼びますが、これらはどれだけ細かくなっても自然分解することはなく、数百年間以上もの間自然界に残り続けるのです。
海洋プラスチックは人体に影響を及ぼす
マイクロプラスチックには製造の際に化学物質が添加されるなど、人体に有害な成分が含まれていることも多く、それらは魚や鳥などに誤って捕食されることにより生態系へ広げられます。その魚を口にした人の身体にどのような影響を及ぼすのか、その具体的な影響はいまだ明らかにされていませんが、本来自然界に存在しない物質が体内に蓄積されることを考えると、決して楽観視できないことは容易に想像がつくでしょう。
海洋プラスチック問題の今後の展望
現在日本でも実行されているレジ袋の有料化やマイバック持参の推奨などは、こうした海洋プラスチックごみを削減する策としては非常に有効です。しかし、世界経済フォーラムではこのような環境に負荷をかけた経済発展が続く限り、この問題はさらに拡大すると予想しています。
2050年にはプラスチックの生産量は約4倍となり、それに伴う海洋プラスチックの増加は歯止めが効かず、「海洋プラスチックゴミの量が海にいる魚を上回る」というあまりにショッキングな予測結果まで出ているのです。これを防ぐためには、我々の経済活動や生活の見直しが必須で、そうでなければ人類そのものの存亡にも関わってくる問題だと言えるでしょう。
まとめ
SDGsの目標6をはじめとする水に関わるいくつかの問題と、それに取り組む必要性について解説してまいりました。これら水問題の解決のためには、1つの目標だけを追いかけていても埒(らち)が明きません。例えば大きな問題である海洋プラスチック問題は、目標14「海の豊かさを守ろう」と密接に関わり合いがありますし、プラスチックの原料となる原油の使用は地球温暖化の主要な原因の1つで、目標13「気候変動に具体的な対策を」を切り離して考えることができないのです。
このように水問題の解決のためには、あらゆる方面からさまざまな施策を打つ必要がありますし、国家レベルでの対策も必要となります。しかし、もっとも身近な取り組みとしては、我々1人ひとりが常にこの問題を意識し、できる限り節水をするであったり、プラスチックごみを分別して再生に回す、などの取り組みを心がけることが大切です。そうした事に個人単位、企業単位で取り組むことがSDGs解決に向けた大きな一歩となります。