フードロス削減につながる未利用魚の活用|国内の取り組みを紹介
日本では、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品が、年間で570万トンにもなります。これは、一人あたり毎日お茶碗約1杯分(約124g)を捨てている計算になります。
現在、日本で起こっている食品ロスの原因は、大きく分けて2つあります。
1つは「家庭系食品ロス」と分類され、料理することで出る野菜の皮や使い切れなかったり食べ切れなかった食材など、家庭から出るものです。
もう1つが「事業系食品ロス」に分類されるもので、スーパーやコンビニなどの小売店で売れ残ったお弁当やお惣菜、そして製造の段階で廃棄されてしまう食材も含まれます。
家庭系食品ロスは289万トン、事業系食品ロスは357万トンにもなり、事業者だけでなく消費者も含め、全員で取り組む必要のある課題とされています。
家庭で出る食品ロスは、私たちが気をつけることで減らすことができます。しかし、事業系食品ロスは、野菜の栽培時や食品が製造される過程で発生し、消費者には見えないところで起こります。
これには、売れ残りの食品だけでなく、レストランでの食べ残しや規格外の野菜、そして漁獲されたものの市場に出回らず捨てられてしまう未利用魚なども含まれます。
本記事では、未利用魚についてその問題点や活用事例などを解説します。
未利用魚(みりようぎょ)とは?
未利用魚(みりようぎょ)とはサイズが小さい、不揃い、漁獲量が少ないなどの理由で流通せず、低い価格でしか評価されない魚のことを指します。
これらの多くは、養殖魚の餌や肥料として加工されることがあります。また、魚の油には健康や美容に良い成分が多く含まれており、サプリメントなどに使用されることもあります。
未利用魚が抱える問題
この未利用魚の水揚げ量は、全体の水揚げ量の30%〜40%を占めると言われています。
日本は食料自給率が低く、漁獲量も年々減少しています。その中で、水揚げ量の30%〜40%を占める未利用魚が活用されていないのは、非常にもったいないことです。
さらに、未利用魚が増えると、漁業従事者の収入が減少するという問題もあります。沖に出て漁をしても、その一部が廃棄されることで、収益が減少してしまいます。
しかし、未利用魚は多くの場合、食べられないわけではありません。
「サイズが小さい」「加工しにくい」「見た目が良くない」などの理由で価値が低く見られていますが、付加価値を与えることができれば「未利用魚」として扱われなくなります。
なぜ未利用魚が存在するのか?
美味しい魚であるにもかかわらず、未利用魚が発生する理由には、以下の10の要因が考えられます。
- 規格外による流通障害
魚市場では、効率的な流通を目的に規格(主に重量)が設定されていますが、この基準に合わない魚は、市場で取り扱われることがありません。 - 外観の悪さによる不人気
見た目が悪い、傷があるなどの理由で、市場でのセリや入札が行われず、結果として未利用魚となるケースが多く見られます。 - 船上での労働力不足
漁業者の減少が著しく、船上での処理が追いつかないことがしばしばです。さらに、処理にかかる時間や労力に見合う対価が得られないことも要因の一つです。 - 産地加工の限界
水産加工場の労働力不足や、鮮度が落ちやすい魚への対処が難しいことが、未利用魚を生み出す原因となっています。 - 漁獲方法の未普及
漁獲方法が広まっていないために、十分な量が確保できない魚も多く、その結果、未利用魚となります。 - 分散した水揚げによる量の不足
小規模な魚市場が多く、各市場で規格を満たす魚が十分に揃わないことが、未利用魚の発生につながっています。 - 知名度の低さが流通を阻害
日本独自の流通システムでは、知名度の低い魚が優先されず、これが未利用魚の一因となっています。 - 販売能力の限界による水揚げ調整
販路の確保が難しい市場では、水揚げ量を調整せざるを得ず、結果として未利用魚が発生します。 - 物流コストと原価割れの問題
物流費や出荷資材費が魚の価格を上回る場合、流通が阻害され、未利用魚が生じる原因となります。 - 調理方法の未普及
手間をかければ美味しく食べられる魚であっても、その調理法が普及していないことが、未利用魚の要因となっています。
未利用魚に価値を与えた事例
価値がないと思われていた未利用魚に、新たな価値を与えた事例として、3つの取り組みをご紹介します。
未利用魚をサブスクでお届け
株式会社ベンナーズの「フィシュル」というサブスク事業では、廃棄される未利用魚を加工し、サブスクリプションモデルで販売しています。
水揚げされた魚はすぐに鱗を取り、3枚におろされ、魚の種類に合わせて加工されます。脂の乗り具合に応じて味付けされ、使用する調味料も安心・安全な原料にこだわり、着色料や保存料は使用されていません。
未利用魚の地域による活用事例
日本各地では、未利用魚を有効に活用するためのさまざまな取り組みが進められています。
地域ごとに工夫を凝らし、未利用魚を特産品や給食に取り入れるなど、その活用法はさまざまです。ここからは未利用魚の地域による活用事例をご紹介します。
参照:未利用魚
静岡県
静岡県では、未利用魚の活用を進める取り組みとして、特に小型のサバを有効活用しています。
漁獲されたサバは通常、サイズが小さいために市場での価値が低くなりますが、地元のスーパーでは、水揚げ当日に販売することで鮮度の良さをアピールし、消費者から高評価を得ています。
この取り組みによって、小型サバの価格が安定し、漁業者の収入増加にもつながっています。
茨城県
茨城県波崎地区では、イワシやサバなど、小さな魚が未利用魚として扱われてきました。
しかし、地元の水産加工会社と漁業者が協力し、これらの魚を使った加工品を作り出しました。
この取り組みによって、サバやイワシの価値がぐんと上がり、地域に新たな仕事も生まれています。未利用魚をうまく活用することで、地域全体が活気づいています。
鹿児島県
鹿児島県ではブリやカンパチの養殖が盛んですが、その加工過程で出る中骨などの端材は、これまで廃棄物として捨てられたり、肥料原料として安く取引されていました。
そこで、鹿児島県漁連などが端材をうまく活用しようと考え、中落ち肉を再利用することにしたのです。そのために、株式会社Kが設立され、県内の加工場から端材をチルドで回収する仕組みが整えられました。
その結果、ハンバーグやそぼろ、つみれなどの商品ができ、コンビニ弁当や学校給食、病院食に使われています。
この取り組みのおかげで、鹿児島県の養殖ブリやカンパチの知名度が上がり、地域の経済にもプラスの影響を与えています。
長崎県五島列島
五島列島は、世界最大級の海流である黒潮が分岐する対馬海流の影響で、豊富な魚が生息する「魚の宝庫」として知られています。
伊勢海老やウニなどは全国に広く流通していますが、同時に未利用魚の問題にも直面していました。
この問題に対処するため、五島列島では未利用魚を活用した「フィッシュハム」が作られています。
未利用魚が給食に?
2023年2月、横浜市中央卸売市場魚食普及推進協議会、横浜市教育委員会、よこはま学校食育財団が連携し、市立小学校340校で未利用魚のサバを使った給食が提供されました。
この取り組みは、魚食の普及だけでなく、SDGsや漁業の現状を学ぶ機会にもなりました。
また、未利用魚や漁業の実態について、小学生でも理解できるよう簡単に説明された8分間の動画が公開されています。ぜひご覧ください。
最後に
「未利用魚」と聞くと、美味しくなくて、価値のない魚を思い浮かべるかもしれません。
しかし、実際にはサイズが基準に満たないだけのものや、手間がかかるという理由で流通していない魚も多く含まれます。この問題は魚に限らず、他の食材にも見られますが、普段の買い物だけでは気づきにくいものです。
フードロス削減のためにも、今回紹介した商品やサービスを利用し、美味しく食べてフードロス削減に貢献してみませんか?
参照:
株式会社ベンナーズ
水産省:数字で理解する水産業
株式会社ベンナーズ/未利用魚・天然魚ミールパックのフィシュル
横浜魚市場卸協同組合
経済局中央卸売市場本場経営支援課
消費者庁消費者政策課:食品ロス削減関係参考資料
Tポイント×マルエツ 五島の未利用魚を活用した新商品を開発!