ドイツの環境にやさしい商品|クライメートニュートラル認証ラベルとは
環境先進国ドイツのドラッグストアに置かれている商品の多くは、環境に対してどのように配慮しているのか。プラスチックをどれほど削減しているのか、といった情報が商品の裏面やラベルに表示されています。ドイツのドラッグストアで販売されているハンドクリームや歯磨き粉には、「Klimaneutral(クライメートニュートラル)」というラベルが貼られています。
クライメートニュートラルとは
クライメートニュートラルとは、日本語で気候中立と訳され、企業や組織が活動を通じて排出する温室効果ガスを実質ゼロにする取り組みを指します。原料調達や製造過程での温室効果ガスの排出をゼロにすることが難しい場合は、排出分を代替措置で相殺します。
カーボンニュートラルと似ていますが、カーボンニュートラルは二酸化炭素に焦点を当てているのに対し、クライメートニュートラルは、メタンや一酸化炭素窒素といった温室効果ガス全般を対象とします。
実はグリーンウォッシュも多い
ドイツのドラッグストアでは、商品の裏面に「クライメートニュートラル」や「カーボンニュートラル」と記載されたラベルが張られている商品を多く見つけることができます。しかし、環境に対する意識の高いドイツの消費者からは、これらの商品がグリーンウォッシュだとして批判や裁判が起こっています。
グリーンウォッシュとは、環境に優しいエコなイメージである「グリーン」と「取り繕う」や「上辺だけの」という意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語です。つまり、環境に配慮していると見せかけて、実はしていない商品やサービスのことを指します。
クライメートニュートラルを示すラベル「Klimaneutral」
ドイツで購入した歯磨き粉の裏面には、ClimatePartner社による「Klimaneutral」のラベルが表示されています。ClimatePartner社は、ドイツ・オーストリア・スイス地域で気候変動のコンサルタントを行う企業です。
同社は、これまで企業と商品のそれぞれを対象に「Klimaneutral(クライメートニュートラル)」と「carbon neutral(カーボンニュートラル)」のラベルを発行していました。しかし、ラベルに対する消費者からの批判が高まったことから、2023年4月からは「カーボンニュートラル」のラベルを段階的に廃止し、新たに「ClimatePartner certified」ラベルに置き換えることを発表しました。
新たなラベル「ClimatePartner certified」
企業が、ClimatePartner社による新たなラベルである「ClimatePartner certified」を使用したい場合は、まず自社の商品のカーボンフットプリントを計算します。企業は、数値をより精緻化していくために定期的にカーボンフットプリントの数値を見直す必要があります。また、自社の商品のうち、このラベルを表示する商品が一つしかない場合も、組織全体の二酸化炭素の削減目標を掲げ、目標達成に向けた取り組みが全社で実施されていることを証明しなければなりません。さらに、企業に対して、気候保護プロジェクトへの支援が推奨され、気候変動対策に貢献することが求められています。
具体的には、以下の5つのステップに分けられます。
- カーボンフットプリントを算定
ClimatePartner社は、二酸化炭素排出量を算定するソフトウェアを開発・運用しています。カーボンフットプリントの算定は、企業全体または商品を対象に行うことができます。企業が対象の場合は、企業全体のカーボンフットプリントであるscope1、2、3の排出量を算定します。商品が対象の場合は、製造と廃棄プロセスを含んだライフサイクル全体を考慮して商品ごとのカーボンフットプリントを算定します。 - 削減目標を策定する
二酸化炭素排出量の削減目標は、短期・中期・長期の目標に沿って、達成するためのロードマップを策定します。また、削減目標は、SBTiが開発したNet Zero Standardに準拠したものを策定します。 - 削減に向けて実行する
具体的なアクションとしては、再生可能エネルギーの導入やリサイクル素材の利用、出張の際に飛行機を使用しない方法などがあります。短期的に取り組めることから、業界全体に関わる長期的な取り組みなどさまざまです。 - 気候保護プロジェクトを支援する
気候保護プロジェクトは、大気中の温室効果ガスを削減・回避・除去するプロジェクトです。例えば、再生可能エネルギーの開発や普及、森林保護といったものがあります。全てのプロジェクトは、Verified Carbon Standard(VCS)やGold Standard(GS)などの国際規格に基いて認証されており、独立した第三者機関によって定期的にチェックされています。 - 透明性の確保と信頼性の向上
商品に表示されているQRコードを読み取る、またはウェブサイト上で商品のID番号を入力すると、企業が既に実施している削減策や長期目標などを確認することができます。
カーボンフットプリントの計算方法
上記の5つのステップの最初に行うカーボンフットプリントの計算は、ClimatePartner社が開発しているクラウドベースのソフトウェアツールで行われます。企業全体のカーボンフットプリントを計算する場合は、前述した通り、scop1、2、3が含まれます。つまり、scope3に該当する物流やチームの出張、従業員の通勤手段といった企業のサプライチェーン全体が対象となります。企業は、ClimatePartner社が開発したソフトウェアに事業の活動を入力することで、活動による二酸化炭素の排出量が計算されます。例えば、社用車で走った距離が二酸化炭素排出量に換算されるといった具合です。
商品のカーボンフットプリントを計算する場合も同様のソフトウェアを利用します。そして商品を構成する原材料の調達から、製造方法、輸送方法、使用方法、廃棄方法といったライフサイクル全体を考慮して計算を行います。ClimatePartner社は、ゆりかごから墓場まで全体を対象に分析を行います。企業は、商品のカーボンフットプリントを計算することで、二酸化炭素を減らすための選択を行うことが可能になります。例えば、商品の製造段階から二酸化炭素の排出量を減らすような設計を選択することや排出量の少ない原材料の調達などです。その結果、企業は商品のカーボンフットプリント削減に向けた具体的な削減目標を設定することが可能になります。
最後に
私は、初めてドイツのドラッグストアを訪れた際、環境に配慮されたラベルの多さに驚きました。企業は、消費者のニーズがない商品を生産することはできないため、ドイツ人の環境に対する意識の高さを感じることができます。
ドイツは、1970年代に「環境保護計画」を発表し、これまで環境先進国としてレベルの高い地球環境保護に関する政策を推進してきました。ドイツ人の環境に対する意識の高さは、環境問題に対して長く取り組んできた歴史によって醸成されているのではないかと思います。ただし、全てのドイツ人が、環境や人権に対して意識が高いわけではありません。ドイツ在住の方に話を伺うと、元々サステナブルな商品に関心はなかったけれど、従来品と同じ商品棚に置かれているから関心を持ったと話されていました。
日本でも、環境に対する関心が高まっています。環境に対する取り組みに対して、分かりやすいメッセージやラベルの表示は、消費者にとって分かりやすいです。よって、今後は日本でも増える可能性が考えられます。しかし、ドイツ国民のように、環境への配慮を訴求している商品やサービスがグリーンウォッシュでないか、といった視点も忘れてはいけないと感じます。なぜなら、私たち消費者が声を上げることで、ClimatePartner社のように企業は改善を行うからです。これは、結果的に気候変動の緩和に繋がっていくでしょう。