アサヒグループの人権デューデリジェンス|取り組み事例紹介
2021年はCOP26やIPCCの報告書などが話題となり、気候変動に対する意識が高まりました。
ESGに取り組む企業にとって、企業に対する大きなネガティブインパクトとなりうるテーマが「気候変動」と「人権」です。
多くの企業は自社のサプライチェーンに人権侵害が起こっていないかを確認するようになりました。
今回は、アサヒグループホールディングス株式会社(以下アサヒ)の人権デューデリジェンスへの取り組みについてご紹介していきます。
人権デューデリジェンスについて知りたい方はまずこちらの記事をご覧ください。
アサヒの人権方針
ビジネスと人権に関する国連指導原則に従って、事業活動の中で関係する人権への負の影響を特定・予防するためにデューデリジェンスを実施しています。(アサヒ人権方針)
優先して取り組むべき重要な人権課題を特定し、それらの課題を分析する中で、特に「サプライチェーン」「自社従業員」における人権リスクへの対応の重要度が高いことがわかりました。また「人権侵害の被害者への救済の仕組みの構築」も必要であることがわかりました。
人権侵害の被害者への救済の仕組みの構築として相談窓口を設置しており、人権へ負の影響を引き起こしてしまった場合は、被害者の救済に取り組むとしています。言語も22ヶ国語に対応しています。
通告があったハラスメントやモラル違反などに対して是正対応を実施し、人事総務部の担当者を対象に研修を実施するなど、防止するための取り組みを強化しています。
人権に関する相談窓口に関する詳細はこちら
ではさっそく、取り組む優先度が高いとされた「サプライチェーン」「自社従業員」それぞれに対する対策について見ていきます。
サプライチェーン
アサヒは、短期~中期の具体的な行動計画を策定し取組みを進めています。
行動計画
まず大枠として、2020年から2022年までの取り組みとして以下の3つを挙げています。
- サプライヤーリスクと現代奴隷リスクの2つの切り口で人権デューデリジェンスプロセスを構築。
- 2022年までにサプライヤーに対する人権デューデリジェンスプロセスを一巡する。
- 同時に、社内規定類の改正、サプライヤー管理体制の構築、調達担当者や主要取引先への研修も実施。
分析状況
現代奴隷に焦点を当ててアサヒグループの生産拠点がある17ヶ国及び主要調達11品目(ホップ、モルト、コーヒー、乳製品、オレンジ果汁、トウモロコシ、コーヒー、砂糖、茶、パーム油、カカオ)を評価対象として、リスクの分析および評価を実施しています。
サプライチェーンを大きく3つに分けると、「栽培」「加工・流通」「卸売」となりますが、分析の結果、最もリスクが高いのは「栽培」段階であることがわかりました。
特に高いと判断されたのは、コーヒー、砂糖、茶、パーム油、カカオです。
また、コーヒー・栽培の項目を見ると、同じ農産物であっても国や地域によって現代奴隷のリスクが異なることが分かります。
これらの事業インパクトについては現在確認しています。
ステークホルダーとの対話
人権リスクを低減させるために、どのような人権マネジメントが必要なのかを有識者から意見をもらい、主に以下の点について指摘されています。
- 高リスクカテゴリーのサプライヤーへのアプローチ強化
- 持続可能な資源利用100%を目指したリスク把握と対応改善
有識者との対話を通じて、実際に訪問・インタビュー等でサプライチェーンも含めた労働環境の実態をこまめに把握することや、そのための体制・仕組みづくりの必要性を確認したそうです。
ステークホルダーダイアログの詳細はこちら
また、NGOなどの外部人材専門家との対話やイニシアチブへ参加。アサヒは、2020年一般社団法人グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(以下、ASSC)に加入しており、行動計画を具体化していく過程で多くのテーマに関して対話を行っています。
具体的な取り組み内容
- 「アサヒグループサプライヤー行動規範」を改正
人権の尊重に関して、「差別や個人の尊厳を損なう行為、あらゆるハラスメントを行わないこと」「安全で健康的な職場環境を確保すること」「強制労働を撤廃すること」「児童労働を実効的に廃止すること」「事業活動を行う地域社会において人権に対する責任を果たすこと」などをサプライヤー全員に対して要請しています。また、原材料一次サプライヤーに対しては新しい行動規範に対する同意書をもらっています。 - 人権研修の実施
国内事業会社調達部長とリーダーを対象とした研修や、国内外の調達部員に対するeラーニングを実施しています。また、継続的に取引のある国内外全一次サプライヤーに対し、人権を含む世界のESG動向と持続可能な調達の取組みに関する研修資料を送付し、理解を深める機会を提供しています。 - 人権デューデリジェンスプロセスの実施
上記で記載している通り、リスクの度合いなどを分析しており、電子プラットフォーム上で自社のCSR自己評価アンケート結果や監査結果を共有することができるSedexに入会したことで、今後はサプライヤーの人権や労働の管理状況を確認していきます。
従業員
行動計画
2020年から2022年までの取り組みとして以下の4つを挙げています。
- まずはアサヒグループホールディングス(株)が所在する日本の従業員で人権の取組みを実施し、知見を得てから海外に展開。
- ギャップ分析により未対応が明らかになった、日本における強制労働リスクと結社の自由実現への対応を優先して実施。
- コンプライアンスアンケートやエンゲージメントサーベイなどの結果や社内クリーン・ライン制度も活用し、早期に人権リスクに対処。
- 海外グループ会社の取組みの現状把握を進め、従業員に対する人権デューデリジェンスプロセスの実施と、従業員への人権教育を強化。
強制労働防止のための取り組み
NGOのASSCと共に、外国人技能実習生を受け入れているグループ会社を対象に、労働実態調査および実習生への母国語によるヒアリングを実施しています。その結果、良好という評価を得ています。今後は緊急時の対応の教育など、改善を行っていく予定です。
結社の自由実現への対応
日本の主要事業会社の労働組合幹部に対し、組合員・非組合員の現状について確認した結果、非組合員に関しては、十分なヒアリングができていないという課題がわかりました。今後アサヒは、非組合員に対して定期的に職場アンケートを実施し、意見を吸い上げて課題を特定、改善、さらなる健全な労使関係構築を目指します。
新型コロナウイルス感染拡大影響に対する対応
コロナの感染拡大においても、「従業員と従業員の家族の健康と安全」「ステークホルダーへの支援」「地域社会の支援」が最優先だと考えさまざまな対応を行っています。
子育てをしている従業員や非正規社員に対しては、コロナの影響が大きいとして特別有給休暇の付与や、国内では派遣社員や契約社員に給与の補償を行っています。
また、外国人技能実習生が契約終了となっても帰国便運行再開が未定の状況だったため、実習生の意向を確認の上、雇用期間を延長し無収入にならないように配慮しています。
新型コロナウイルスに関する取り組みの詳細はこちら
以上、アサヒグループホールディングス株式会社の人権デューデリジェンスへの取り組みについてご紹介させていただきました。
参照:
アサヒグループホールディングス
人権方針|各種レポート・ポリシー|企業情報|アサヒグループホールディングス
「ビジネスと人権」に関する取組事例集〜「ビジネスと人権の指導原則」に基づく取組の浸透・定着に向けて〜
ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(A/HRC/17/31) | 国連広報センター