地方中小企業におけるSDGsの活動|成功事例とメリットを解説
近年は企業活動の一環として取り組むケースも増え、その認知度も上がってきた持続可能な開発目標SDGs。しかし、それは一部の全国展開する大企業だけがブランドイメージ向上のために行っているといった、誤った考えを持たれる方も多いのではないでしょうか。
しかし実際は、生き残りの厳しさが増す地方の中小企業こそSDGsに積極的に取り組むべきです。この記事では、地方の中小企業がSDGsに取り組むメリットを4つのポイントに絞って解説するとともに、実際にSDGsに取り組んでいる地方の中小企業を3社ご紹介します。
地方の中小企業がSDGsに取り組むメリット
都市部の大企業のように、SDGsへの取り組みが企業のブランド価値を高めるというのは、あながち間違いではありません。しかし、ブランド価値を高めた結果、自社にどのようなメリットをもたらすのか。それをきちんと理解しておくことが、SDGsウォッシュ(実態の伴わない上辺だけのブランディング)などに陥らずに自社の経営とSDGsをうまくリンクさせるコツです。そのメリットは主に次の4つの側面から考えることができます。
経済面
SDGsに取り組み「地域社会に貢献する企業」というブランドイメージは、新たなビジネスチャンスを創出します。SDGsへの取り組みをきっかけとして新しい事業が生まれたり、イノベーションが生まれるなど、その可能性は無限大です。さらに環境に対する負荷を軽減させるという取り組みは、そのままコスト削減や生産性の向上を生み出すなど、生存戦略としても大きな意味を持ちます。
環境面
SDGsへの身近な取り組みとして、エネルギーや水といった資源を削減するというものがあります。また、資源の3R(リデュース、リユース、リサイクル)を行うことにより、資源を大切にして地球にやさしい企業体制を作ることは、そのまま地元の環境保全へ貢献することにつながるでしょう。地方にとって大きな財産である自然を守るという取り組みは、その地を拠点に地域密着で活動する中小企業においては、大きな意味を持つ取り組みです。
社会面
SDGsへの取り組みは、顧客、金融機関・投資家、従業員など、あらゆるステークホルダーに対して自社のブランドをアピールする大きな力となります。地域社会へ貢献し地元から愛される企業という評判は、なにものにも代えがたい企業の信頼度の現れです。
人材面
SDGsという言葉の認知度が上がるに従って、それに取り組む企業への人々の関心も高まっています。常に人材確保に悩まされる地方の中小企業において、地域だけにとどまらず採用の幅を広げるのに役立つでしょう。特に若い世代においてはSDGsへの関心が高いというデータもあるように、自社の次代を担う人材確保も期待できます。また、既存社員に対しては働きがい向上による生産性アップが見込めるなど、仕事へのモチベーションも変わってくるでしょう。
地方でSDGsに取り組む中小企業3事例
それでは、地方でSDGsに取り組む中小企業の事例を3つご紹介します。
信州吉野電機株式会社(長野県塩尻市)
プレス金型やエンジニアリングプラスチック金型の設計・製作や電子部品の精密プレスなどを行う信州吉野電機。これまではOEMが事業の柱でしたが、SDGsを切り口にした補助金活用で、新しい自社事業へと活動の領域を広げています。主なSDGsへの取り組みは次のとおり。
- SDGs14/海の豊かさを守ろう:生分解性プラスチック製品開発によりオリジナルのゴルフティーを開発。海洋汚染予防への取り組みを行うと同時に、その製品開発ノウハウを蓄積し新たな製品展開を計画しています。
- SDGs8/働きがいも経済成長も:教育訓練基準を制定し、積極的な人材育成を通じた能力向上やモチベーションアップを図っています。同時に障がい者の積極的な雇用も促進しています。
- SDGs12/つくる責任つかう責任:IATF16949、ISO9001、ISO14001を経営に統合し、不良品削減活動や廃棄物のリサイクル化、省エネの推進を実施。年間約2千万円前後の経済効果の実績を生み出しました。
- SDGs13/気候変動に具体的な対策を:自社の温室効果ガスの排出量を把握して、排出の抑制に取り組む。結果ISO1401認証を取得して、事業活動全体での環境負荷の低減に努めています。
同社にとってのSDGsは新しいことへの取り組みを重視するよりも、「現状の企業活動をさらに向上させるためのSDGs」として捉え、活用・貢献を行っています。こうしたさまざまなSDGsへの取り組みで、地域社会においても存在価値のある企業であり続けるよう、日夜挑戦を続けているのです。
株式会社ワンダフルライフ(愛知県常滑市)
美容院やエステサロンの経営、美容資材販売などを手がけるワンダフルライフでは、「知多の海をきれいに」を合言葉に、地域社会と共に地元の海を守るビーチクリーン活動を行っています。もともと「美容と健康を通してたくさんの幸せを届けたい。そして、いつもお世話になっている地域社会に貢献したい」という想いをモットーにしている同社。SDGsへは次の目標を主として取り組んでいます。
- SDGs4/質の高い教育をみんなに
- SDGs5/ジェンダー平等を実現しよう
- SDGs8/働きがいも経済成長も
- SDGs11/住み続けられるまちづくりを
- SDGs14/海の豊かさを守ろう
特筆すべきは目標14への取り組みで、もともとはSDGsへの取り組みを考える際、ヘアサロンでは大量に水を使用して環境に負荷をかけているので、水に関連する貢献をしようと考えたのが発端だったといいます。
同社の地元・知多半島の海は「水が汚い海水浴場ランキング2020(ダイヤモンドオンライン2020.8.6発表)でワースト10入りしたことから、社員とその家族でビーチクリーン活動をはじめました。それを2021年に「ワンダフルCHITA」と名付けてリニューアル。一般市民にも参加を募り、楽しみながらビーチクリーン活動に参加できるイベントを展開したり、子どもたちにマイクロプラスチック問題を理解してもらうオリジナル絵本の読み聞かせなども行っています。
こうした活動により社員の一体感が高まり、地域への感謝の気持ちや連帯感が育つ。さらには企業ブランドの向上による顧客の獲得や、他業種企業との交流が生まれるなど、さまざまなメリットが生まれるきっかけとなりました。
株式会社コラボプラネット(福岡県糸島市)
市場規模の小さな地方に特化した学習塾を経営するコラボプラネット。学習塾経営という事業の特性上、目標4「質の高い教育をみんなに」に特化したSDGsへの取り組みを行っています。具体的には地元の寺社や自治会の集会所などを活用し、eラーニングを中心とした学習の場として、地域密着の個別指導「学習塾ブランチ」を設立。「もっと身近に学びの場を!」を合言葉に、近くて安くて親切な学習塾を、福岡県を中心に九州各地で展開しています。
こうした取り組みは、子育て世代が都市部に集中してしまうといった地域課題を解決するビジネスモデルを創り出したとして、日経ソーシャルビジネスコンテスト(日本経済新聞社主催:2018年)では、全国252件の応募の中から地方創生賞に選出されました。
まとめ
SDGsへの取り組みは都市部の大企業だけが行うものではなく、地方の中小企業こそ取り組むメリットがあるという点について、そのメリットと実例についてご紹介してまいりました。これらの事例からも分かるように、その発端は地域社会へ貢献しようという想いです。それを自社の事業計画とうまく組み合わせることで、地域社会へ貢献しながら確実な利益が得られる事業戦略が生み出せるはずです。コロナ禍で都市部への一点集中体勢が崩れかけている現代こそ、地方の中小企業にとって商機ととらえて、SDGsビジネスに取り組んでみてはいかがでしょう。