世界の気候変動対策とは?各国の脱炭素の取り組みを紹介
SDGsの目標13に掲げられた「気候変動に具体的な対策を」は、地球温暖化を抑え、これ以上温度が上がらないように定められた世界共通の長期目標です。そのためには、温室効果ガスの排出削減などを、いち国家やいち企業単体で取り組むのではなく、世界全体で取り組む必要があります。現在、多くの国がそれぞれの削減目標や行動により気候変動に対して取り組んでいます。
しかし、その目標や取り組みには国ごとに差異があるのは否めず、そこには現状認識の意識の違いなども少なからず存在します。この記事では、そんな気候変動に対する現状の意識と取り組みについて、先進国の中から5カ国の事例をご紹介します。
気候変動サミットにみる各国の気候変動に対する現状の意識
日本の菅総理が「2030年度までに温室効果ガスを46%削減することを目指す」と宣言した2021年4月22日の気候変動サミット(バーチャル会議で開催)。米国のジョー・バイデン大統領主催で行われたこのサミットにおいて、各国はパリ協定以降の削減目標や取り組みの現状を語りました。その後作成されたJETRO(日本貿易振興機構)の調査レポートを元に、ここでは「米国」「英国」「ドイツ」「中国」「韓国」の5カ国の取り組みについてご紹介します。
米国
本会議の主催国でもあった米国は、バイデン大統領の口から2030年までのCO2排出量を2005年比で50~52%削減すると約束されました。これまでは2015年オバマ政権の頃に掲げていた2025年までの削減比を26~28%としてきた数値から見れば、約2倍の目標値引き上げです。
これは主催国であるがゆえに掲げざるを得なかった大きな目標かもしれませんが、これまで米国が約束したことのない大きく野心的な目標として、アメリカの意欲を示し指導力を取り戻す目論見もあると考えられています。合衆国星制を取る米国では、具体的な政策は州により異なるため、一概に列挙することはできませんが、一例としてカリフォルニア州の気候変動政策としては、次のような政策が掲げられています。
- 再生可能エネルギー政策・制度:州内の電力事業者に対して供給電源内の一定割合を再エネにするように義務付ける制度
- 産業部門の政策・制度:2013年からキャップ・アンド・トレードを実施。温室効果ガスを排出する事業者に対し排出枠を設定。過不足分の排出枠を取引することで規制を遵守する制度
- 輸送部門の政策・制度:2020年9月の地事令により、乗用車と小型トラックは2035年まで、中大型車は2045年までに100%ZEV(ゼロエミッション・ビークル)とする目標を設定
参考:JETRO/米国・カリフォルニア州の気候変動対策と産業・企業の対応
英国
2021年1月に正式にEUから脱退した英国ですが、気候変動対策では常に世界のリーダーシップを取る立場にいます。2020年11月にはクリーンエネルギー、輸送、自然、革新的な技術など野心的な10項目の計画を含む「グリーン産業革命」を発表。温暖化ガス排出削減目標も、2030年時点で1990年比で68%減を掲げるなど、EUを上回る目標を掲げています。これは、英国が2021年11月に開催が予定されているCOP26の議長国であるということも影響しているようで、英国政府としては同会議に向けて、国内の気候変動対策を強化。その上で気候変動分野で世界のリーダーとしての地位を確固たるものにしたいという思惑も隠れているようです。
具体的な政府の取り組みとしては、2050年までに温室効果ガスの純排出をゼロとするため、2008年から2050年の間5年毎に、その年の12年後からの5年間に排出が許される温室効果ガス排出量の上限である炭素予算を設定することを気候変動法で設定。産業のエネルギー消費及びCO2排出量削減を目的として、環境庁と業界団体間の自主協定「気候変動協定(CCA)」が結ばれています。
参考:JETRO/英国の気候変動対策と産業・企業の対応
ドイツ
ドイツは2030年までの温室効果ガス排出量の削減目標を、1990年比で55%、2040年までには70%(いずれも最小値として設定)としています。さらに「温暖化防止計画2050」を閣議了解し、CO2の排出量と吸収量を同量とする「カーボンニュートラル 」を50年までにほぼ実現するという目標を打ち立てました。この目標達成に向けてドイツでは、2019年12月に気候保護法を成立させ、国レベルでの法的拘束力を付与。
また、2020年6月には国家水素戦略を発表するなど、グリーン成長に向けた取り組みを国家レベルで取り組み、高い目標を達成することにコミットしています。ドイツ国内の各業界団体の気候変動への取り組みは、次のようなものが見られます。
- 自動車業界:遅くとも2050年までに気候中立(クライメート・ニュートラル)のモビリティ実現を目標とすると発表。内燃機関研究協会やハイブリッド駆動におけるガソリンエンジンの熱効率向上に関する研究プロジェクトを実施
- エネルギー業界:ドイツ全域を対象とする水素の輸送インフラ・ネットワークの構想マップを発表(2020年1月)
- 充電インフラ整備:ドイツのガソリンスタンド大手「アラル」は、2021年末までに同社がドイツ国内で運営するガソリンスタンド網に、120カ所超計500基の急速充電設備を整備すると発表
参考:JETRO/ドイツの気候変動政策と産業・企業の対応
中国
中国は気候変動サミットでは新たな目標設定は発表せず、新型コロナウイルスで落ち込んだ経済の回復に伴い、再び増加するとみられる石炭の消費については、今後数年で削減に取り組んでいくとするにとどまりました。しかし、これまでには2030年までのCO2排出量は2005年比で65%以上削減、2060年のカーボンニュートラル実現と高い目標が掲げられ、生態環境省を中心に関連計画や中国NDC(国別温暖化対策貢献)改定などの検討作業は進められています。
参考:JETRO/中国の気候変動対策と産業・企業の対応
韓国
韓国では2020年7月、先導国家へ跳躍する大韓民国大転換というビジョンのもと、「韓国版ニューディール政策」を発表。この中でカーボンニュートラルに向けた経済・社会のグリーン化により、人、環境、成長が調和し、国際社会に責任を尽くすグリーン先導国家をめざすと未来像を提示しました。
これまでは2030年までの温室効果ガス排出量を2017年比で24.4%としていた韓国ですが、今回の気候変動サミットではそれを引き上げる方針を明言(具体的数値は年内に国連に提出予定)。さらに2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。そのために2020年12月には「カーボンニュートラル推進戦略」も発表されています。また実行戦略としては、今後は海外での石炭火力発電所建設への支援(融資など)を停止すると宣言しました。
参考:JETRO/韓国の気候変動対策と産業・企業の対応
まとめ
本来であれば国家間の垣根をなくし、地球規模で取り組まなければならないはずのSDGs13「気候変動に具体的な対策を」ですが、各国の目標は国によってまちまちであり、決してその足並みが揃っているとはいえません。各国の目標設定や取り組みの現状をみる限り、やはり欧州の取り組みが先を行く印象で、日本を含めたアジア各国の政策はまだまだ道半ばといった印象を抱かざるを得ません。
先の気候変動サミットで日本の菅首相が述べた「わが国が世界の脱炭素化のリーダーシップをとっていきたいと考えている」という目標通り、国際社会の中で日本が真の意味で貢献するためには、まだまだクリアしなければならないハードルは多数存在します。そんな中でいち企業、いち個人としてなにが出来るのか。それを考察するところから始めてみるのも、企業のビジネスチャンスを獲得する目的のためには必要なアクションかもしれません。