日本でも人権侵害が起きている?その実態と対策を解説(前編)
気候変動問題に加えて、企業が取り組むべき大きな課題の一つに人権問題があります。
サプライチェーンの人権問題と聞くと、日本国内ではなく海外の児童労働や、最近話題になった中国の新疆ウイグル自治区の人権問題を思い浮かべるかもしれません。
しかし、国内に目を向けると、私たちが知らないだけでさまざまな人権侵害が起こっています。
日本でも大きく取り上げられた報告書があります。それが、アメリカの国務省により発表された「2020年人身取引報告書」(2020 Country Reports on Human Rights Practices: Japan)です。
人身取引と聞くと、奴隷貿易の時代の話かと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現代奴隷という言葉があります。
昔とは形が異なりますが、「奴隷制度」は形を変えて私たちが生きている現在でも存在しており、社会問題となっています。
主なものとしては、人身売買、性的搾取、悪質な児童労働、強制結婚、武力紛争に利用する目的での児童の強制徴兵などがあります。
「2020年人身取引報告書」では、TVPA(人身売買被害者保護法)の人身取引撲滅のための最低基準(Minimum Standards For The Elimination of Trafficking in Persons)を基に各国政府の取り組みを4段階で評価しています。
第1階層
政府による人身売買防止の取り組みが最低基準を満たしている。
第2階層
政府による人身売買防止の取り組みが最低基準を完全には満たせていないものの、基準を満たすための努力がなされている。
第2階層-ウォッチリスト
第2階層の条件を満たしているが、人身売買による被害が大きい、または人身売買を防止するための取り組み拡大を証明することができない。
第3階層
政府による人身売買防止の取り組みが最低基準を完全には満たせていない、また満たすための努力もなされていない。
日本は2018年、2019年と第1階層との判断ですが、2020年は第2階層と判断されています。
一方同じアジアに目を向けると、韓国、台湾、シンガポール、フィリピンなどは第1階層、中国は第3階層でした。
第1階層にランク付けされた国でも、その国に人身取引などの問題がないことを示しているわけではありません。あくまでも最低基準を満たしているだけであり、各国政府はランクを維持するために進歩しているという証拠を示す必要があります。
今回はこの「2020年人身取引報告書」の第6部 差別、社会的虐待、人身取引に関する部分から「女性」「子供」についてご紹介します。
後編では障害者、国籍や人種におけるマイノリティー、アイヌなどの先住民族、LGBTQ+についてご紹介しております。
女性に関する人権
強姦・配偶者からの暴力
2020年は2019年と比較すると、女性の自殺率が40%上昇しました。その原因としては、コロナによる影響もあり、家庭内暴力(DV)の激化、子育ての負担増、経済的困難といった理由で、無職の女性や10代の少女の自殺が増加している可能性があるとしています。
日本政府はこれらの対策として、DVを含む性犯罪や暴力に対する取り組みを強化するため、カウンセリングサービスや民間支援団体との連携を強化していく予定です。
差別
一つが夫婦別姓に関する問題です。新日本婦人の会などのNGOは『選択的夫婦別姓制度は、同姓を望む人はそのままで、別姓を望む人に選択の自由を認める、人権と民主主義にもとづく制度であり、互いの選択を尊重し、多様性のある社会の実現に欠かせないものである』として政府に対し選択的夫婦別姓の採用を求めていますが、認められていません。現在夫婦のうち96%が夫の性を採用していますが、女性が職場での不便さを感じていること、また個人のアイデンティティーの問題について触れています。
「ポテトサラダ論争」も報告書の中で取り上げられています。乳児を連れた女性が出来合いのポテトサラダを購入しようとすると、ポテトサラダを作らない女性は良い母親ではないと年配の男性が叱ったところをSNSでアップされ、反発が広がった事件です。
これは、女性蔑視の考えが社会の根底にあるとして記載されています。
子どもに対する人権
次に、日本で起こっている子どもに関する人権侵害についてご紹介します。
子どもへの虐待
児童虐待の報告件数は増加傾向にあり、2019年は前年と比較すると42%も増加しています。内訳は身体的暴力が1629件、性的虐待が243件、心理的虐待が50件、育児放棄が35件となっています。
学校教師による性的虐待も問題視されています。2020年は280人の教師が懲戒処分となりました。また、3年後には再び教員免許を取得できますが、禁止するよう求める約5万4000人から著名活動がありました。
また、スポーツにおける体罰に関しても報告されています。禁止するよう法律で定められましたが、加害者側の認識が大きく欠けていると指摘されています。また、実効性がないことに加え、子どもが訴えようとしても、必ず使用できるとは限らない郵送やファックスで報告するようなっていることも課題として残っています。
子どもの性的搾取
児童ポルノの単純所持は引き続き犯罪となっており、取り締まりを強化していくとしていますが、性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームには暴力的な性的虐待や子どもの強姦を描写するものもあり、日本の法律ではこれらを自由に入手できるという問題に対処していない点が指摘されています。
また、援助交際やデリバリー・ヘルスに関するウェブサイトが性的搾取を目的とする児童の人身取引を助長させたとしています。
成年男性と未成年の少女を結びつけるデートサービスやポルノ強要などの性的搾取を目的とする児童の人身取引「JK(女子高生)ビジネス」は今後も引き続き取り締まりを強化するとしており、2019年はこれらの事業を行う162ヶ所を特定し、8人を逮捕しています。
しかし、評価が下がった理由の一つとして、児童売買における事件に関する統計の公表が不十分であるとされています。
最後に
いかがでしたでしょうか?
2021年に世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数を表すレポートによると、日本の順位は156カ国中120位でした。
このデータからも分かるように、日本は男女平等と言いながらも世界と比較すると取り組みが遅れています。現状をより良くしていくためには、まずは国内でも人権侵害が起こっていることを知ることが大切だと感じます。
今回は前編ということで、女性と子どもの人権侵害についてご紹介させていただきました。後編では、障害者、国籍や人種におけるマイノリティー、アイヌなどの先住民族、LGBTQ+、外国人労働者についてご紹介しております。
参照:
「共同参画」2021年5月号 | 内閣府男女共同参画局
2020年国別人権報告書―日本に関する部分 – 在日米国大使館と領事館
Japan – United States Department of State
平成 28 年度 法務省委託調査研究事業外国人住民調査報告書- 訂正版 -
【抗議文】選択的夫婦別姓制度導入を妨害する時代錯誤の自民党につよく抗議し、 選挙での厳しい審判をひろげます – 新日本婦人の会中央本部