絶対的貧困と相対的貧困|日本の深刻な現状と解決に向けてできること
「貧困」と聞くと、日本ではない遠い国で生活に困っている人のことを想像する方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちの住んでいる日本でも貧困が深刻化しています。貧困には、「絶対的貧困」と「相対的貧困」が存在しており、日本で用いられる貧困というのは、後者の「相対的貧困」のことを指します。
ここでは、貧困の定義について「絶対的貧困」と「相対的貧困」とは何か、日本の貧困の現状と貧困増加の原因や貧困がまねく問題についてみていきましょう。そして貧困を解決するために私たちができることは何か、考えていければと思います。
貧困の定義
貧困を測る指標にはいくつかの種類があり、その中でも主要なものとして国連開発計画(UNDP)が提唱する「多次元貧困指数(MPI)」と、世界銀行の「国際貧困ライン」が挙げられます。UNDPはMPIを、「健康、教育、生活水準に関する加重指標のうち、少なくとも3分の1で貧困と認識される人々」と定義しています。
2019年のグローバル「多次元貧困指数(MPI)」によれば、世界の101か国において、総人口57億人(世界の人口の76%)の中で、約13億人が多次元貧困状態にあると報告されています。
持続可能な開発目標(SDGs)では、世界銀行の「国際貧困ライン」を基に貧困を定義しています。
世界銀行とは
世界銀行は、貧困削減を目的とする国際的な組織であり、途上国政府に対して融資、政策助言、技術協力などを提供しています。世界銀行は「国際貧困ラインで暮らす人々」を貧困層と定義しており、このラインは「1人あたり1日2.15ドル以下で生活する層」と設定されています。
世界銀行の発表によると、2015年時点で世界人口の10%にあたる7億3,400万人がこの国際貧困ラインに該当しており、その半数はインド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、バングラデシュの5カ国に集中しているとされています。
絶対的貧困とは
「絶対的貧困」は、生きるために最低限必要な生活水準が満たされていない状態を指します。具体的には、水や食料、衣服など基本的な生活必需品が手に入らず、命を維持することが難しい状況を意味します。この状態は、世界銀行が設定した国際貧困ラインである1日2.15ドル未満の収入で生活する「極度の貧困」を指します。
(※国際貧困ラインは、世界全体の物価データ等の変動を反映し、2022年9月にそれまでの1.90ドルから2.15ドルに改定されました。)
絶対的貧困状態にある人々を絶対的貧困者と呼び、海外ではストリート・チルドレンなどがこれに該当します。
絶対的貧困は、南アジアやサブサハラ・アフリカの途上国に集中しており、いずれも増加傾向にあります。低い教育水準や高い乳幼児死亡率が常態化しているため、国際社会として対策が求められています。
相対的貧困とは
相対的貧困とは、その国や地域の所得水準と比較して経済的に困窮した状態を指します。「相対的」という言葉がついているように、それぞれの国や地域の状況によって異なるため、日本の基準を他国に当てはめることはできません。
相対的貧困率
地域社会内の格差を測る指標として「相対的貧困率」というものがあります。相対的貧困率の計算方法について、厚生労働省は以下のように説明しています。
国民生活基礎調査における相対的貧困率は、一定の基準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない人々の割合を指します。貧困線とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得(収入から税金や社会保険料を差し引いた手取り収入)を世帯人数の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分の額です。この計算方法はOECD(経済協力開発機構)の基準に基づいています。
つまり、相対的貧困率とは、世帯所得が全世帯の中央値の半分未満である人々の割合を示しています。
2018年の日本では、等価可処分所得の中央値は254万円であり、その半分の127万円未満の可処分所得世帯が相対的貧困層に分類されます。
相対的貧困は国や地域によって異なりますが、日本では特に子どもの貧困率が問題となっており、進学や就学を諦める状況が見られます。先進国の日本でも経済的に豊かな家庭とそうでない家庭の格差が広がっているのです。
また、相対的貧困は絶対的貧困と比較して可視化されにくく、支援するのが難しいという課題もあります。相対的貧困を放置すると教育格差による貧富の差が拡大し、経済の二極化がさらに進んでしまうという懸念もされています。
所得格差の広がる日本の現状
世界各国の最新の相対的貧困率に関するデータは、OECD(経済協力開発機構)が加盟国を中心に37カ国のランキングを示しています(参考:Poverty rate丨OECD、2023年2月13日確認)。このデータによると、相対的貧困率が最も高い国はコスタリカで、20.3%を記録しています。次いで、ブルガリア(17.6%)、イスラエル(17.3%)、ルーマニア(17.0%)、ラトビア(16.9%)、メキシコ(16.6%)が続いており、日本は7位にランクインしています。
日本の相対的貧困率は15.7%であり、G7(主要7カ国)の中でも最も高く、先進国の中では特に貧困率が高い国と言えるでしょう。
しかし、貧困の数が増えている一方で、2019年の日本の富裕層・超富裕層の世帯数は2005年以降で最多となっています。
総務省はジニ係数と平均所得(等価可処分所得の中央値)の推移を公開しています。ジニ係数は所得分配の不平等を示す指標で、0に近いほど分配が公平であり、1に近いほど所得が一部に集中していることを意味します。つまり、ジニ係数が1に近づくほど所得格差が大きいということです。
ジニ係数は1999年には0.472でしたが、2017年には0.5594に上昇しました。少子高齢化や単身世帯の増加により、世帯の小規模化が進むと所得のジニ係数は上昇する傾向にあるとされています。
貧困増加の原因
コロナによる影響も大きいですが、コロナ以前から日本には貧困が存在しており、その原因は大きく3つに分けられます。
①高齢化
1つ目は高齢化です。高齢者が増えることで現役の労働世代が面倒を見ることになり、彼らの負担が増加します。例えば、両親の介護費用や生活費が重なることで経済的に貧しくなる人が増えています。
また、単身で生活しており働くことのできない高齢者は、生活にかかるすべての費用を1人で支払わなければならないことに加え、家族や親族からの金銭的援助もありません。年金などのわずかな収入で生活しなければならず貧困になりやすいという状況があります。
②非正規雇用
2つ目は非正規雇用の増加です。
非正規雇用とは、正式な契約を結ぶ正規雇用ではなく、一定期間のみの契約を結ぶ雇用のことを指します。
厚生労働省のデータからもお分かりいただけるように、2020年は減少しましたが、2019年は38.3%となっており1999年からは増加しています。
非正規雇用者は正規雇用者と比べて収入が低く、また安定した職につけないことから貧困に陥りやすいと言われています。
③一人親世帯
子どもを育てるのにかかる費用を一人で負担しなければならない一人親世帯は経済的負担が大きく、貧困に陥りやすいと言われています。厚生労働省によると一人親家庭の相対的貧困率は50.8%と、2世帯に1世帯が貧困状態にあります。
これは子供の貧困にも繋がっています。2015年の厚生労働省の調査によると、子どもの貧困率は13.9%という数字になっています。家庭が経済的に困窮していると、大学の進学を断念したり、家計を支えるためにアルバイトしなければならない状況になってしまいます。内閣府(2014)によると、生活保護世帯を全国平均と比較すると、中卒率は7倍、高校中退率は3.5倍、大学進学率は3分の1になると発表されており、学習機会が奪われてしまうことで貧困が連鎖してしまうことが懸念されています。
貧困がまねく問題
ここからは貧困がまねく問題についてみていきます。主にポイントは3つあります。
- 社会の発展を阻害する可能性がある
- 貧困の連鎖が続く恐れがある
- 格差の拡大につながる恐れがある
上記の問題点について、それぞれ解説します。
社会の発展を阻害する恐れがある
貧困を放置すると、以下の理由により社会全体の発展が妨げられる可能性があります。
- 国民がモノやサービスを購入しづらくなり、内需が弱まり経済成長が困難になる
- 病気やケガをしても適切な医療を受けられず、生産性が低下し、働き手が減る恐れがある
- 十分な教育を受けられず、高収入の仕事に就くことが難しくなる
収入が不十分で生活必需品を購入できないと、日常生活に支障をきたし、病気やケガの治療も受けられない状況になります。また、貧困は子どもにも影響を及ぼし、教育を受ける機会が限られるため、将来高収入の仕事に就くことが難しくなり、貧困から抜け出せない可能性が高まります。
貧困の連鎖が続く恐れがある
貧困問題を放置すると、子どもや孫の代に渡り貧困状態が続き、悪循環が発生する可能性があります。収入が不十分な家庭では、子どもが学校に行けない、進学できない、塾に通えないなどの問題が発生し、学力や学歴に差が生じます。これにより、将来的な収入にも格差が生まれます。
学歴による初任給や就職後の離職率にも差があり、高学歴の方が高収入の仕事に就きやすく、継続して働く傾向があります。教育の重要性は日本だけでなく、世界的にも同様であり、教育機会の欠如は貧困の連鎖を引き起こします。
格差拡大につながる恐れがある
貧困の連鎖は経済格差、教育格差、医療格差などを拡大させ、社会全体が悪循環に陥ります。裕福な家庭はより裕福に、貧しい家庭はより貧しくなるという現象が進行します。
格差が拡大すると以下のリスクが高まり、国としての発展を阻害します。
- 裕福な層への不満が高まり、社会が不安定になる
- 購買力のある層が限られ、経済成長が阻害される
- 富裕層に有利な政策が進みやすくなり、社会全体の公平性が失われる
これらの理由から、貧困問題を放置することは極めて危険と言えるのです。
貧困を解決するために私たちができること
貧困問題を解決するために、私たちができることを4つ紹介します。
1. 寄付:貧困支援団体への寄付はオンラインで簡単に行え、柔軟に支援活動に役立てることができます。寄付金控除も適用されることがあります。
2. ボランティア:実際の支援活動に参加することで、自分が貢献している実感を得られます。
3. 情報の拡散・呼びかけ:正しい情報をSNSなどで広め、貧困問題への理解を促進することが重要です。
4. フェアトレード商品の購入:生産者に適正な価格で商品を購入することで、貧困解決に貢献できます。
最後に
2015年に採択されたSDGsの目標1「貧困をなくそう」に示されているように、貧困は早急に解決すべき重要な課題です。
日本はGDP世界3位の先進国なので貧困とは無縁そうですが、私たちが思っている以上に深刻な状況であることが分かります。
これらを終わらせるために、私たちはまず貧困は本人たちの意思だけでなくさまざまな要因が複雑に絡み合った社会課題であることを認識する必要があります。
実は身近な人が貧困で苦しんでいるかもしれないのです。
解決へ向けて、どのような救済措置があるのか、まず情報を収集すること、そしてそれを知った上で、私たち一人一人ができることを考え、行動していくことが大事なのではないでしょうか。
参照:
資料5_現状と支援施策の課題(統合版)ひとり親家庭の現状と支援施策の課題について
政府統計の所得集計データからの相対的貧困率の推定 独立行政法人統計センター
厚生労働省
コロナ禍における所得格差の実態~格差の固定化を防ぐための施策の必要性~参議院常任委員会調査室・特別調査室
厚生労働省公式サイト
国民生活基礎調査の概況
世界の貧困に関するデータ | 世界銀行