Zespri社のキウイフルーツと気候変動|持続可能性に向けた取り組みを紹介
ニュージーランドには、キウイフルーツの生産で有名な会社・Zespri(ゼスプリ)の本社があります。一般的に、農業、林業、水産業といった一次産業は、気候変動の影響を受けやすいと言われており、キウイフルーツもその影響を受けています。本記事は、Zespri社が2022年に発表した気候変動への適応プランを紹介します。
Zespri社について
ニュージーランドに本社を置くZespri社は、同国だけでなく日本や韓国、イタリア、フランスでもキウイフルーツを栽培しており、世界50ヵ国以上に輸出しています。ニュージーランド国内では、15,000ヘクタール(東京ドーム約3,208個分)で栽培されています。
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Zespri社のサステナビリティ戦略について
Zespri社にとってサステナビリティに取り組むことは、生産者、地域社会、環境、そして消費者と共に成長するという同社の理念に沿っており、成長戦略の中心に置かれているトピックの一つです。同社は以下4つのステートメントを掲げており、業界をリードしていくことを目指しています。
- 世界中の人々がより健康的なライフスタイルを選択できるよう支援する。
- サーキュラーエコノミーを目指したパッケージへの移行。
- キウイフルーツの栽培を通じて環境を豊かにする。
- 生産者、雇用、地域経済を支援することにより、繁栄する地域社会を構築する。
具体的には、各項目において以下のような目標を掲げています。
健康について
- 2025年までに、世界中の人々に60億回以上の健康的な食事の機会を提供する。
包装・梱包について
- 2025年までに、100%リサイクル可能、再利用可能、または堆肥化可能な梱包材にする。
- プラスチック包装材を使用する場合、2025年までに少なくとも30%は再生プラスチックを使用する。
- 2030年までに、果実1kgあたりのパッケージング・フットプリントを25%削減する。
気候変動について
- パートナーとともに、2035年までにカーボン・ポジティブになることを目指す。
- ゼスプリのコーポレート部門は、2025年までにカーボンニュートラルを目指す。2030年までにリテーラーに対してカーボン・ポジティブになる。
- 2021年8月までに気候変動リスクと機会について報告し、2022年までに業界全体の適応計画を策定する。
水資源について
- 栄養塩の投入と損失が適正実施限度量に適合していることを実証することにより、水質を保護する。
- モニタリング技術を利用して、貴重な水資源を適切に管理し、効率的な利用を実証する。
生産者について
- キウイフルーツ生産に関わる産業で働きたいすべての従業員は、安全な環境で仕事を行いサポートされていること。
従業員・労働力について
- 2030年までに、キウイフルーツ生産のバリューチェーンで働く人材を惹きつけ、活気ある労働力を構築し続ける。
マーケットについて
- 2022年までに、主要マーケットにおいて、健康的なライフスタイル・プログラムについて地域社会と提携する。
キウイフルーツ生産に関わる産業で既に行われている取り組みを一部紹介します。キウイフルーツの生産者は、激しい暴風雨などの異常気象からキウイフルーツを保護するための保護ネットの設置を行うなど、気候の変化に合わせた栽培方法を模索しています。また、平均気温が上昇したため、キウイフルーツを農園から加工会社に移動させる間に追熟が進んでしまう問題に直面しています。そこで、加工会社は、キウイフルーツを箱に詰める前に予冷(青果物の貯蔵や出荷の前に鮮度保持のために、あらかじめ冷却すること)する時間を長くするなど、鮮度を保つための工夫を行っています。
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Zespri社の気候変動適応プラン
Zespri社は、2022年11月に気候変動適応プラン(Climate Change Adaptation Plan – Adapting to Thrive in a Changing Climate)を発表しました。
同プランには、以下3つの目標が記載されています。
- 世界にカーボンポジティブなキウイフルーツを提供すること
- キウイフルーツ生産に関連する産業が気候変動の影響を受けても成長できるようにすること
- 気候変動対策に積極的に取り組むリーダーとしての能力を高めること
また、同プランには、キウイフルーツ生産に関連する産業全体の二酸化炭素排出量を農園や輸送などのセクター別で分析した結果や気温が2度上昇した場合と4度上昇した際に考えられるリスクを評価したシナリオ分析の結果が記載されています。
さらに、同社は以下3つの具体的なゴールを掲げて2023年現在も取り組みを行っています。
ゴール1:将来を見据えた栽培と品種改良
ゴール2:果実の品質維持と供給管理
ゴール3:業界の収益性を守る
そして、これら3つのゴールを支える基盤となるのは、データ品質の向上、効果的な提言、そしてガバナンスの強化です。
それぞれのゴールの具体的な目標を紹介します。
ゴール1:将来を見据えた栽培と品種改良
生産者が気候変動に適応できる強い手法を導入できるよう支援する
- 気候変動の影響を考慮し、生産者のリソースを見直す。
- 伝統的な知見であるマータウランガ・マオリ(Mātauranga Māori)に関する関連研究をまとめる。
- マオリの生産者が、テ・アオ・マオリの文脈で互いに学び合うことを支援する。
- マータウランガ・マオリの観点から、マオリの生産者が知りたいことを特定し、その分野の学習を支援するプロジェクトを開発する。
- 生産者が気候変動に適応できるよう、改良普及サービスへの投資を継続する。
- 生産者が新たな病害虫のリスクを管理するためのシステムや技術への投資を継続する。
- ニュージーランドと海外の栽培地域間で学びを共有する。
気温上昇に強い品種への投資継続
- 最新の気候リスクを反映させるため、3年ごとに新しい結実品種と台木品種の基準を見直す。
- 栽培システムのイノベーションにより、気候変動リスクの緩和を可能にする。
将来を見据えた気候研究プログラムの開発
- 3年間の気候変動研究・革新計画を策定する。
- 気候変動リスクを評価し、業界のレジリエンスを高めるための解決策を策定する。
- 気候変動に起因する将来の生産システムのメリットを理解し、そのための投資を行う。
ゴール2:果実の品質維持と供給管理
果実の品質に関する課題への対応
- 業界の品質評価の一環として、果実の品質問題における気候変動の影響を評価する。
- 気候変動が果実の品質に及ぼす影響について、毎シーズン調査を行う。
気候の変化への適応
- 気候変動がどのように季節の変わり目に影響するかを調査する。
気候の影響を産業計画に含める
- オフショア・パートナー / 生産者選定プロセスにおける気候関連評価基準の見直しを行う。
- 洋上栽培地域のための、気候に関連した立地選定基準を見直す。
- Zespri社の5ヶ年計画プロセスに、気候変動に対する配慮を盛り込む。
ゴール3:業界の収益性を守る
生産性と収益性への影響を評価する
- ニュージーランドおよび、海外の栽培地域における気候の影響と適応のモデルを示す。
- 新品種投資に関する手引書と、ニュージーランドのライセンス・リリースに関する栽培者向け手引書を更新する。
- 少なくとも5年ごとに、ひょう以外の自然災害リスクに対する保険の加入に関心があるかどうかを生産者に尋ねる。
排出量を削減することで、炭素コストへの影響を軽減する。
- 業界のネット・ゼロ・エミッションへの移行に関する方針を策定する。
- ネット・ゼロへの業界の道筋とそれを達成するための取り組みに賛同する。
- サプライチェーン全体のGHG排出量フットプリントを更新する。
- 果樹園内での炭素貯留の可能性について分析する。
- 炭素コストをZespri社の財務計画に組み込む。
消費者と顧客の反応に対応するための行動をとる
- 環境に配慮することがブランドにもたらす価値を評価する。
- 環境配慮やサステナビリティといったトレンドに関する市場調査を行う。
- 認証されたカーボンニュートラルな製品を提供する。
上記で記載した3つのゴールを支えている基盤であるデータ品質の向上、効果的な提言、そしてガバナンスの強化についても、具体的なアクションプランが記載されています。
データ品質の向上
データシステムとインサイトの改善
- 気候変動に関する報告プロセスとモデルを改善し、タイムリーなデータ洞察を可能にする。
- 気象リスク監視プラットフォームと気候変動影響モデルを開発する。
効果的な提言
サプライチェーン・パートナーのサポート
- サプライチェーン・パートナーに対し、気候変動リスクの評価、監視、対応を促す。
- 業界全体の利益になるような、サプライチェーンの気候リスクに関する研究に資金を提供する。
影響力のある規制
- 国や地域レベルでの水問題や気候政策に関する支援活動への投資を継続する。
- ニュージーランドの地方議会および地区議会と、効果的な同意プロセスに関して協力する。
ステークホルダーからの賛同の強化
- ニュージーランドの収穫・加工業者に向けた環境に関するグループを設立する。
グローバル・スタンダードに影響を与える
- グローバルな報告基準において、ニュージーランドおよび業界固有の慣行を認めるよう提唱する。
- コラボレーション・プラットフォームを活用し、業界の利益を代表し、国家戦略に貢献する。
ガバナンスの強化
実施支援とリスク管理
- 気候変動適応計画の実施状況を毎年業界に報告する。
- 新たな気候変動リスクと機会、および業界の対応について、同社の監査・リスク管理委員会に毎年報告する。
- 同社の気候変動リスクと機会に関する報告書を3年ごとに見直す。
実際に現場の仕事をしてみての感想
2023年11月現在、筆者はZespriの本社があるタウランガという街から車で1時間弱の場所でキウイフルーツの栽培に関する仕事をしています。Zespri社と契約を行っている農園と契約を結んでいない農園の2箇所で仕事をしましたが、契約を行っている農園では、誰がどのレーンの作業を行ったのかが把握されているようでした。
Zespri社はトレーサビリティにも力を入れており、世界中で販売される同社のキウイフルーツの箱は、どこで栽培され、どこで包装されたかを特定し、追跡することが可能です。
最後に
ニュージーランドは、2023年初めに台風の上陸と豪雨により、歴史上3度目の緊急事態宣言が発令されるほどの大災害に見舞われました。キウイフルーツ生産に関わる産業も大きな被害を受け、Zespri社によると、主要な生産地の一つであるHawke’s Bay地方では70%が、Gisborne地方では25%が被害を受けたと発表しました。
Zespriのキウイフルーツは日本にも多く輸出されており、食べたことがある方も多いでしょう。そして、今後このような異常気象が増える可能性が高いと考えられています。Zespri社には、本記事で紹介した気候変動適応プランに沿って柔軟に対応することで、今後も美味しいキウイフルーツを生産してほしいなと思います。
参照:
Zespri Kiwifruit
KIWIFRUIT INDUSTRY SUSTAINABILITY POSITION STATEMENT
ADAPTING TO Thrive IN A CHANGING CLIMATE
予冷(ヨレイ)とは? 意味や使い方 – コトバンク