サステナブルリゾートとは?実現への取り組み事例
世界全体の8.8%のGHGガスを排出している観光業では、脱炭素化に向けたGHG排出ガス削減の取り組みが加速しています。
消費者である観光客の価値観も徐々に変化し、宿泊先が、「環境や社会に配慮しているかどうか」を気にするケースも増えつつあります。観光業のビジネスモデルにサステナビリティを取り入れることは、観光客の潜在的ニーズに応えるものです。
では、リゾート地のDMOや事業者が目指すべきビジネスモデルはどのようなものでしょうか。
本記事ではリゾート地が実現を目指したい「サステナブルリゾート」の解説および事例、成功ポイントを解説します。
サステナブルリゾートとは?
「サステナブル」(Sustainable)とは「持続可能な」という意味の言葉です。地球環境や社会に配慮した「持続可能な」産業や社会の開発を指して使われることが多く、サステナブルリゾートとは「持続可能なリゾート」を意味します。
サステナブルリゾートとは、環境保護と地域社会の発展を両立させる新しい観光スタイルです。地球環境や地域社会に配慮しながら、観光事業の持続的な発展を目指す宿泊施設やリゾート施設を指します。
具体的な取り組みとしては、次のようなものがあります。
- 再生可能エネルギーへの切り替え
- 使い捨てプラスチックの廃止
- 全員が人間らしく生活できる環境を提供するための地域での雇用創出
- 近隣の環境資源の保全と再生への取り組み
再生可能エネルギーへの切り替えは、地球環境や生態系に悪影響を及ぼすCO2の排出量の削減につながり、プラスチックゴミの削減は海洋生態系を守ることにつながります。
サステナブルリゾートの重要性
旅行者のサステナブルリゾートに対する関心が高まっています。Booking.comの調査によると、世界の観光客の75%が「今後12ヶ月間に、よりサステナブルな旅行をしたい」と回答しました。[1]
理由として「そうすることが正しいことだと思うから」や「サステナブルでない旅行を選択することに罪悪感を感じる」といった回答が多数を占めていることからも、サステナブルな旅行であることが重視されているのがわかるでしょう。
また、同調査ではサステナブルな旅行体験によって旅行を通じた体験価値が高まることもわかっています。
「旅行中にサステナブルな取り組みを体験することで、日常生活でも、よりサステナブルな生活を意識しようと思う」と回答した世界の観光客は67%にものぼります。
サステナブルな旅行を経ることで、日常生活でのサステナブルな選択を意識するようになるのです。
サステナブルリゾートのメリット
サステナブルリゾート実現の取り組みを強化することで、近隣の環境資源を保全・回復しながら、地域経済や観光客の意識向上に貢献できます。ブランド価値や顧客満足度の向上が期待できる点も特徴です。
環境負荷低減への貢献
サステナブルリゾートでは、環境負荷を低減する取り組みを積極的に行っています。
取り組み | 目的 |
---|---|
再生可能エネルギーの使用 エネルギーの効率化 | エネルギー自給率の向上 周辺環境への負荷削減 |
公共交通機関の使用の推奨 | CO2の排出量削減 交通渋滞の緩和 |
リサイクルやコンポストの取り組み | 資源の有効活用 環境汚染の防止 |
上記のような取り組みによって限られた資源を有効活用し、地球環境への負担が軽減されます。
「星のや軽井沢」では、「風楼」と呼ばれる屋根構造が空気の循環を促しているため、夏場であってもエアコンなしで過ごせるほど涼しいです。[2] 地域の気候を活かす建築構造や効率の良いエネルギーの活用が重要になります。
地域経済の発展
サステナブルリゾートでは、輸送に伴うCO2削減や地域文化の振興のため、地元の農産物や伝統的な手工芸品が取り扱われることがあります。地元産の商品を扱うことで、旅行者の地域への関心を高めるだけでなく、地元生産者や職人の経済的かつ文化継承のための支援ができるためです。
また、地域で働く従業員を雇用することは雇用機会の創出につながります。星野リゾートが再生の全体構想を提案した長門湯本温泉では、地域のガイドとのエコツアーの実施や、地元の飲食店への案内といった取り組みがされています。[3]
地域ガイドによるエコツアーは雇用創出に繋がり、地元の飲食店への案内は地域経済を豊かにするでしょう。
東急リゾートでは、体験型サステナブルリゾートの一環で「循環型社会」を提案しており、
- 地域の食材の積極的な提供
- 地域で生産された地産品の積極的な提供
- 積極的な地元雇用
といった取り組みをしています。[4]
地域社会との関係性は、その土地で長くリゾートを運営する上でとても重要です。
観光客のサステナブルな生活に対する意識向上
サステナブルリゾートの滞在を通じ、観光客の持続可能なライフスタイルへの意識を高めることが期待できます。
自然環境の保全・回復の重要性や地域社会との共生についての意識が高まることにより、観光客が日常生活でも持続可能な選択を意識するきっかけとなります。
ブランド価値と顧客満足度の向上
特に若い消費者は、企業や施設による社会的責任がどれだけ果たされているかを重要視します。サステナブルリゾートに取り組むことで、環境保護や地域発展に貢献でき、同時にブランド価値の向上にも繋がるのです。
また、サステナビリティの意識が高い欧米豪からの訪日観光客の潜在的なニーズを満たし、顧客満足度を高める可能性があります。
サステナブルリゾートホテルの国内事例
サステナブルリゾートは、ホテルなどの観光事業者を示す場合と地域全体(ディスティネーション)を示す場合があります。以下に、それぞれの国内事例を紹介します。
サステナブルリゾートに取り組んでいるホテルの国内事例として「ホテル日航アリビラ -ヨミタンリゾート沖縄-」をご紹介します。
ホテル日航アリビラ -ヨミタンリゾート沖縄-
「ニッコーグループ」はサステナブルな取り組みに力を入れているホテルグループの一つです。「ホテル日航アリビラ -ヨミタンリゾート沖縄-」は国内外を問わず高く評価されています。
ホテル日航アリビラは異国情緒溢れるスパニッシュコロニアル風の建物が特徴的なリゾートホテルです。ホテルの目の前には「アリビラブルー」と呼ばれる本島屈指の高い透明度を誇るニライビーチが広がっています。[5]
- 雑排水を海に流さないための中水システムの導入
- 日暮れ以降のニライビーチへのサーチライト消灯
- 空調負荷軽減のため、窓ガラスに断熱フィルムの貼付け
- グリーン電力で点灯するイルミネーション
- 国内クレジット制度 排出削減事業に承認(2010年)
ホテル日航アリビラでは、以上のような環境保全の取り組みを行なっています。[6]
雑排水を海へ一滴も流さないため、ホテル内で使用された水道水は浄化槽に集められ、真水に変えてトイレの水などに使用されています。ニライビーチへの日暮れ以降のサーチライト消灯は、夜間に産卵・孵化するウミガメやその他の海の生き物に配慮するものです。また、窓ガラスに断熱材を貼ることで、空調負荷軽減につながり、重油使用量を削減しています。
サステナブルな取り組みが評価され、2023年12月には、SDGs を実践する宿泊施設を認定する「Sakura Quality An ESG Practice(サクラクオリティグリーン)」国際認証制度において、「4御衣黄(ぎょいこう)ザクラ」を取得。
「4御衣黄(ぎょいこう)ザクラ」は5段階評価のうち上から2番目のカテゴリーで“自然環境や社会への積極的な関与が認められる”とされる上位評価です。[7]
サステナブルリゾートディスティネーションの国内事例
地域全体でサステナブルリゾートに取り組んでいる国内事例として「西表島」をご紹介します。
西表島
豊かな自然が広がる沖縄県の離島「西表島」は、カヌーやトレッキングなどのアクティビティが人気の観光エリアです。しかし、西表島の観光を取り巻く状況には、以下のような課題が懸念されています。[8]
- 観光客の森林内への立入り
- 植物の違法な採取の増加
- 自然体験型の観光フィールドの過剰利用
- 観光客の増加により、島民の定期船利用に影響
観光客の森林内への立ち入りや、違法な植物の採取は、希少な生物の生息・生育環境への影響や個体数の減少を招きます。
また、自然体験型の観光事業を行うガイド事業者が急激に増加し、観光フィールドの過剰利用による自然環境の劣化も起きています。さらに、許容量を超えた観光客の来訪は、地域住民の暮らしを圧迫するものです。
現在抱えている課題を解決し、西表島の「持続可能な観光」を続けるための取り組みとして、以下のような取り組みが実施されています。
課題 | 取り組み |
---|---|
観光客の森林への立ち入り植物の違法な採取の増加 | 事前申請の義務付け免許を受けたガイドの同行の必須化 |
自然体験型の観光フィールドの過剰利用 | 自然環境への影響のモニタリング調査の実施 |
観光客の増加により、島民の定期船利用に影響 | 混雑日を示すカレンダーや混雑する時間帯の観光客への周知 |
サステナブルリゾートデスティネーションには、地域住民の理解が不可欠です。観光によって地域の自然環境を損なったり、暮らしを圧迫したりすることは、地域との関係悪化につながります。西表島のように、地域住民の理解を得ながら取り組むことが重要です。
最後に
サステナブルリゾートのメリットや取り組み方を事例を交えて解説しました。
サステナブルリゾートの開発には自社のブランド価値を高めるだけでなく、地域経済にも貢献でき、地域との友好な関係に繋がる効果があります。
各企業が、自社商品でできるSDGsを考え、旅行者に提案していくことが重要です。
企業が観光・旅行を通じて持続可能な選択を提案していくことで、持続可能な社会は現実のものになっていくでしょう。
参照
[1]ブッキング・ドットコム、 2024年版「サステナブル・トラベル」に関する調査結果を発表
[2]環境建築 – エアコンなしで 心地よく過ごせる理由 | 勝手にSDGs | 星野リゾート【公式】
[3]ステークホルダーツーリズム – 持続可能なホテル運営 は地域とともに | 勝手にSDGs | 星野リゾート【公式】
[4]CONCEPT | ENJOY! GREEN GUIDE
[5]ホテル概要 | 沖縄県の観光リゾートホテル日航アリビラ
[6]SDGsへの取り組みについて | 【公式】ホテル日航アリビラ|沖縄のリゾートホテル
[7]SDGs を実践する宿泊施設の国際認証「Sakura Quality An ESG Practice」の取得のお知らせ | 【公式】ホテル日航アリビラ
[8]持続可能な西表島のための来訪者管理基本計画