【COP29現地レポート】観光政策に気候行動を統合することを促す「バクー宣言」
アゼルバイジャンの首都バクーで開催されたCOP29では、バクー宣言の署名が行われました。この宣言には、世界的に成長している観光産業の環境負荷の削減を目指す行動宣言が盛り込まれており、50カ国以上の政府が署名しました。
COP29では、行動アジェンダの一つとして観光産業への対策が盛り込まれ、観光産業がテーマとなった2024年11月20日には、観光産業の気候変動対策について議論するさまざまなセッションやイベントがCOP29のブルーゾーンやグリーンゾーンで開催されました。
世界の観光産業から排出される温室効果ガスの排出量は全体の約8.8%を占め、決して少なくありません。
また、観光産業は世界のGDPの約3%を占めており、発展途上国を中心に経済基盤を観光産業に依存している国が多いため、気候変動による悪影響はその国々の経済に大きな影響を与えます。
COP29観光産業の気候行動強化に関する宣言
以下、バクー宣言の付録9における「COP29観光産業の気候行動強化に関する宣言」の日本語(仮訳)です。
私たち国の政府およびその他の関係者、国連機関、国際機関、金融機関を含む各主体は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)とパリ協定、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」および「未来のための協定」を尊重し、観光産業がUNFCCCの目的およびパリ協定の目標を達成する上で果たす重要性を強調します。
持続可能な開発目標(SDGs)および2030年までの関連する気候目標を達成するための世界的な能力に深刻な影響を及ぼす「トリプル惑星※1」を踏まえ、行動を加速させる緊急性を考慮し、効果的な気候行動には、地域、国、地域、そしてグローバルなレベルにおける各セクターでの協力的な取り組みが必要であることを認識します。
観光が世界の温室効果ガス(GHG)排出量のかなりの割合を占めており、その割合が今後増加する懸念を認識します。
気候変動が生態系、自然資源、文化遺産に与える影響の認識を高め、適応と緩和の両面で観光産業が地球規模の気候対策に貢献する可能性があります。
観光と開発の密接な関係と観光産業が気候変動に強靭で低炭素な未来へ移行する必要性を理解し、観光が気候行動を進めるための独自の機会を提供することで、特に観光が雇用と収益の重要な源となっている国々での役割を強調し、観光産業における気候行動を進めるため、国間およびセクター内のさまざまな関係者間での対話、協力、経験、知識の共有を促進する重要性を強調します。
2021年11月のCOP26で発表された観光における気候行動に関する「グラスゴー宣言」の目的を再認識し、国家観光行政を含む観光関係者にツールと行動の枠組みを提供し、気候行動を加速させる世界的な気候行動イニシアチブとしての役割を果たします。
2024年11月20日にアゼルバイジャン共和国のバクーで開催されるCOP29の枠組み内で、COPの行動アジェンダに観光産業対策が入り、初めて観光をテーマにした日を設定できたことをCOP29議長国のイニシアチブを歓迎します。
以下を宣言します。
私たちは、観光産業が気候変動に対して大きな脆弱性を持つことを認識し、持続可能な成長と回復力を確保するために、観光産業が気候行動においてその効果を強化することの重要性を強調します。
私たちは、国別目標(NDCs)、国家適応計画(NAPs)、技術行動計画(TAPs)、および長期低排出発展戦略(LT-LEDS)といった国家気候政策文書の設計において、観光産業をさらに適切に取り入れ、考慮する必要性を認識します。
適用可能かつ適切な場合において、以下のような効果的な緩和措置を検討する意向があります。
- 持続可能な実践の採用
- 革新的技術の導入
- クリーンエネルギーの利用
- 観光施設におけるエネルギー効率の向上と廃棄物管理の強化
- 炭素吸収源としての役割を果たす生態系の保全と健康の維持
- 低排出・ゼロ排出の輸送手段の推進
- 持続可能な生産と消費を促進する循環型アプローチの育成
- 資源の効率的な利用と汚染リスクの最小化
また、適切な場合において、以下のような観光に関連する適応措置を強化する意向があります。
- 自然を基盤とした解決策の実施
- 生態系を基盤としたアプローチの採用
- 生態系の回復
- 革新的技術の採用
- 持続可能な土地管理の実践を促進
特に観光が経済に大きく貢献している発展途上国、特に小島嶼開発途上国(SIDS)および最貧国(LDCs)において、これらの取り組みを重視します。
私たちは、観光の回復力を強化し、GHG排出量を削減するための国家行動を実施・推進する上で、資金、技術、能力構築が重要であることを認識し、これが持続可能な開発目標(SDGs)およびパリ協定に貢献することを確認します。
また、地域社会や先住民、移民、女性、子ども、若者、障害者、脆弱な状況にある人々の視点を考慮しながら、グローバルなパートナーシップと対話を通じて観光における気候行動を進展させることに尽力することを強調します。
私たちは、観光セクターにおける持続可能な観光の実践やGHG排出削減、適応と回復力強化の努力を推進し、支援することを誓います。本宣言の目的へのコミットメントを確認し、それらを達成するために協力することを約束します。”
本宣言には、国の政府およびその他の関係者が、COP29議長国への公式書簡(手紙、ヴァーバルノート等)または tourism@cop29.az へのメールを通じて賛同を表明することができます。
※1トリプル惑星
汚染、気候変動、生物多様性の損失、および生態学的危機という、交差する3つの地球規模の環境危機を表すために国連システムによって採択された用語及び枠組み。
あとがき
日本は、国家戦略として観光産業の更なる成長を目指しています。特に活況を呈している訪日外国人観光客をターゲットにしたインバウンドツーリズムは、日本の経済に大きく寄与する可能性があり、観光産業は一大輸出産業となり得ます。
最近では、地方創生 × インバウンドツーリズムが地方経済を潤す重要な施策として位置づけられ、自治体やDMOは積極的に訪日外国人観光客を呼び込む努力を行っています。
しかし、バクー宣言にあるように、観光産業は気候変動に対して大きな脆弱性を抱えています。そのため、地方の観光産業が持続的な成長を実現するためには、気候変動への適応を確実に行い、緩和策に貢献できる取り組みを徹底的に実施しなければ、異常気象などの大規模な被害を契機に、地方の観光産業が衰退する可能性があります。
2024年現在、日本の観光産業における気候変動対策はほとんど進んでいません。訪日外国人が感動する地方の魅力を高めると同時に、実行可能な気候変動対策を、自治体やDMOだけでなく、各観光事業者も検討し、実行していく必要があります。
参照:バクー宣言