資金支援の課題が浮き彫り、生物多様性COP16の成果とチャレンジ
2024年10月21日から11月1日まで、コロンビアのカリで「国連生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)」が開催されました。
世界の生物種の約28%が絶滅の危機に瀕している中、会議では昆明・モントリオール生物多様性枠組みの実施状況が評価され、重要な成果が得られました。
また、先住民族の生物多様性保全における役割が正式に認められ、デジタル遺伝情報の利益共有に関する新たな仕組みも合意されています。
一方で、各国の生態系保全の取り組みを評価する指標案は最終合意に至らず、発展途上国への資金支援も課題として残されました。
本記事ではコロンビアのカリで開催された「COP16」で合意された目標や、休会措置となった異例の展開についても解説します。
生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)とは
生物多様性条約(Convention on Biological Diversity: CBD)は、地球上の生物多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を実現することを目的とした国際条約です。この条約に基づき定期的に開催される締約国会議が COP(Conference of the Parties)です。
第16回締約国会議であるCOP16は、2024年10月21日から11月1日まで、コロンビアのカリで開催。196の国と地域が参加し、生物多様性の保全に関する国際的な取り決めや目標の進捗状況を評価・議論する重要な会議となりました。
生物多様性条約のCOPは、気候変動枠組条約のCOPと並んで、地球環境保全に関する重要な国際会議の一つとして位置づけられています。
今回のCOP16で特に注目された議題は以下の通りです。
- 2022年のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の実施状況評価
- 2030年までに世界の陸地と海域の30%を保護区域とする「30by30」目標の実現に向けた取り組み
- 発展途上国への資金支援の仕組み作り
- 先住民族の知識や権利の保護
- デジタル遺伝資源から得られる利益の公平な配分方法
主な成果として、昆明・モントリオール生物多様性枠組に基づき、以下の2点で合意に至りました。
- DNAのデジタル遺伝配列情報から得られる、利益を公平に共有する新たな仕組みの創設
- 先住民族やアフリカ系コミュニティによる、生物多様性保全への貢献の正式な認知
しかし、会議の焦点であった各国の生態系保全の取り組みを評価する指標案は、合意寸前で時間切れとなり採択に至りませんでした。
また、発展途上国が求めていた生態系保全のための資金支援についても、合意を得ることができませんでした。
昆明・モントリオール生物多様性枠組みの実施状況と30by30目標
昆明・モントリオール生物多様性枠組みの実施状況がCOP16で評価されました。枠組みの核となるのが「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」と呼ばれる目標です。この目標は、2030年までに世界の陸地と海域の30%を保護区域とすることを目指す、野心的な取り組みです。[1]
COP16では、この目標達成に向けて以下の3つの重要課題について協議が行われました。
- 各国のモニタリングシステムの改善
- 生物多様性保全の取り組みを支援するための財源確保
- デジタル遺伝情報への公平なアクセスに関する枠組みの最終調整
生物多様性保全における先住民族コミュニティの役割
COP16では、生物多様性保全における「先住民族コミュニティの役割」が重要な焦点となりました。特に、彼らが世代を超えて受け継いできた伝統的な知識や、土地・資源に対する権利の尊重が不可欠であると改めて確認されました。
この議論の背景には、生物多様性保護における「公平性」の考え方があります。生物多様性の損失は地球規模の課題であり、先進国と発展途上国が共同で責任を担うべきという認識が示されました。
先住民族の知識と権利を尊重しつつ、国際社会全体で協力して生物多様性保全に取り組む姿勢は、持続可能な生物多様性保全の新たな枠組みを構築する上で重要な基盤となっています。
生物多様性の危機的状況と国際社会の対応
国際自然保護連合(IUCN)は、COP16会期中に世界の絶滅危惧種をまとめたレッドリストの最新版を公表しました。調査によると、登録された約16万6000種の生物種のうち、約4万6000種以上が絶滅の危機に直面しているという深刻な状況が明らかになりました。
このような危機的状況を受け、グテーレス国連事務総長はCOP16での演説で強い危機感を表明しました。事務総長は「人類は危機的な状況に直面している。私たちは生物多様性を破壊し、汚染を深刻化させている」と述べ、早急な対策の必要性を訴えました。
一方で、COP15で合意された23の国際目標に言及し、「今世紀半ばまでに、人類が自然と調和して暮らす」という世界共通の約束の実現に向けて、COP16が重要な転換点となることへの期待を示しました。
COP16における未解決の課題と今後の展望
COP16では、各国の生態系保全に関する国家戦略を評価するための指標策定が主要な議題でしたが、最終的な合意には至りませんでした。各国は保全目標や必要な行動について基本的な認識は共有しているものの、具体的な実施方法、特に資金面での合意形成が課題として残されました。
最大の争点となったのは、発展途上国への資金支援の問題です。生態系保全に必要な資金をどのように確保し、どのような基準で配分するかについて、各国の立場の違いが顕著となり、合意形成に更なる時間が必要となりました。
生物多様性条約の締約国会議が休会となるのは極めて異例の事態です。しかし、重要課題の決着を急ぐのではなく、より実効性のある合意を目指すため、COP16は特別COPとして再開される方向で調整が進められています。
特別COPでは、評価指標の策定や資金支援の枠組みについて建設的な議論が行われることが期待されます。国際社会が協力して生物多様性の保全に取り組む姿勢を示すことで、2030年目標の達成に向けた具体的な一歩を踏み出すことができるでしょう。
参照