資源が循環するまちづくりのヒント|長野県・小布施町の成功事例を紹介
栗と北斎と花のまちとして有名な長野県の小布施町は、一時は人口減少という問題に直面していました。しかし元々の地域の特性はもちろん、新しく若者会議を開催するなどして、まちづくりの先進事例として注目されています。今回はその小布施町に実際に行ってきた私が、持続可能なまちづくりのヒントを探って参りました。
長野県小布施町について
長野県の北部に位置する小布施町は人口は約1万人ほどの小さな街です。年間100万人の観光客が訪れる人気の観光地となっています。一方で、中心地から少し歩くと扇状地という特性を生かしてリンゴやブドウなどの果樹園が広がっています。そして、長野県の栗の生産量は全国5位です。小布施町でも多くの栗が栽培されています。
実際に小布施町を訪問し、地域コミュニティの強さを感じました。こちらは後ほどご紹介します。
小布施町の歴史と成り立ち
小布施町は、高度経済成長期により人口が流出したことで一度は人口が減少したものの、長野市のベッドタウンとして栄えたという歴史があります。その中で、葛飾北斎が晩年の4年間を小布施町で過ごしていたということもあり、1976年に街の中に残されていた作品を集めて記念館が設立されました。
これにより観光客が増えたことで、栗菓子の老舗である「小布施堂」は、観光客向けに栗菓子の小売・飲食サービスをはじめました。それにより栗が小布施町の名物品として、県外から認識されるようになりました。実際に小布施町を歩いてみると、至る所に栗にまつわる商品を見つけることができます。また、商品だけでなく、学校や病院の名前も「栗」が入っています。
「保全」ではなく「修景」
小布施町の特徴として見逃せないのが統一感のある街並みです。多くの文化的な建物が残る場所というのはありのままを残そうと保全を行います。しかし、小布施町では修景といって、景観を守りながら新しい要素を組み合わせながらまちづくりを行っています。
しかも、外部から新しい要素を取り入れるのではなく、地元にある素材を活用し、地域でお金を循環させ、地域経済を生み出しています。例えば、こちらの写真は地域にある不要な栗の木を活用した木レンガです。こちらのメンテナンスは大変だそうですが、地元にある素材を地域で循環させている技術サイクルベースのサーキュラーエコノミーの一例です。
長屋文化から「お庭御免」へ
小布施町にはもともと長屋文化がありました。これが今の小布施のまちづくりとも深く関係しています。長屋というのは、表から自宅まで大回りする必要があったため、自分の住宅の敷地内を開放し、通り抜けるという文化が醸成されていきました。
小布施のまちづくりは1970年代から始まり、修景によって景観を意識した住民は、1990年代になると美しい景観のために「花のまちづくり」を始めます。その後、住民の間で自宅の庭を開放するオープンガーデンが2000年に始まり、現在では130軒近くあるそうです。そして元々通り抜ける文化があった小布施町だから生まれたのが「お庭御免」です。地域の住民だけでなく、小布施町を訪れた観光客も民家の裏道を通り抜けられます。
こちらは私が宿泊したゲストハウスの裏道になります。通り抜けて良い裏道には、このような看板が掛けられています。
小布施の観光地は、表の道だけを歩くと1時間程度で終わってしまいます。しかし、裏道を探検すると、1日かけて回れるほどとても奥行きのあるエリアです。googleマップで民家の間を抜けるように指示が出た時は少し驚きました。ちょっとした冒険のようでワクワクします。小布施町を訪問する際は、通り抜けできる裏道の看板を探して、散策してみて下さい。
なぜまちづくりに情熱を注げるのか
日本は少子高齢化が進み、多くの地方は人口の流出に悩まされています。小布施町はどうやって移住者や関係人口を増やしているのでしょうか?
最初に、人口1万人と小さすぎず、大きすぎない。心地よい人口数と街のコンパクトさが挙げられます。2000年頃は全国で合併が行われていましたが、小布施町は自立することを選択しました。まちづくりを行う上で、より多くの人の意見を反映できるよう、2008年には「小布施まちづくり委員会」が発足。地域住民がまちづくりに対する提案や実践が行える場所です。駐車場の事例をご紹介します。
こちらの駐車場は景観を守るために、従来の白線が描かれていません。このデザインをどうするかは、地域住民のみなさんが議論を重ねて決定したそうです。また、図書館も運営やコンセプトをどのようにするか2年以上に渡って議論が行われました。図書館のデザインもコンペ方式で地域住民によって選ばれています。
関係人口を増やす
次に、2012年から2018年まで開催された「小布施若者会議」に触れます。こちらは、多様な人が集まり、地域の在り方や地域ビジネスのアイディアなどを考えるイベントで、町にカオスと繋がりを生み出すことをコンセプトにしていました。全国から多くの若者が一斉に小布施町に集まるので、宿泊施設が不足してしまい住民のホームステイで場所を確保することで対応し、文字通り「カオス」な状態になったそうです。この会議によって、若者目線でのまちづくりのアイディアが誕生。スノーボードやスキージャンプ施設、あるいはボルダリング施設などができました。実際、これらを目当てに隣の長野市から遊びに来る若者が増えているそうです。
新型コロナウイルス感染拡大でのため、現在は「小布施バーチャル町民会議」を開催するなど、関係人口を増やす努力を継続しています。
大学との協働
小布施町は東京理科大学や東京大学、慶應大学とテーマごとに研究締結しています。役所の中には「東京理科大学・小布施町まちづくり研究所」があります。小布施の風土やまちづくりに関する研究が生まれているそうです。
災害に強いまちづくりを
小布施町は2019年に台風19号による浸水被害に遭い、住民の意識が変わる一つのきっかけとなりました。災害への備えはもちろん、このような異常気象の原因と考えられる「気候変動」対応の重要性も高まりました。
小布施町が既に行っている対策は、氾濫した川の堤防を高くすることです。また、世界で排出される二酸化炭素のうち25%を占めているエネルギーの問題に対しても、小布施町は取り組んでいます。小布施町に本社を置く、ながの電力株式会社と一緒に小水力発電所を設置しました。自然エネルギーによる発電によってエネルギーの自給自足を目指しています。
そして、小布施町では、さまざまな果樹を栽培する過程で多くの枝や栗の皮が出ます。今後はそれらを活用したバイオマス発電などが検討されているそうです。
環境と経済が両立する新しいまちづくり
小布施町は隣の長野市やフィンランドのトゥルク市と協働して、環境と経済が両立するまちづくりを推進しています。地元のケーキ屋では、「小布施マイ容器プロジェクト協力店」という表示がされており、プラスチックゴミ削減に向けて町が取り組んでいることがわかります。
最後に
人口減少という問題に直面している日本の自治体は多いです。今回ご紹介した小布施町の施策は、自治体の規模によっては真似することが難しい施策があるかもしれません。一方で、関係人口を増やすための積極的な取り組みやよそ者に対するオープンな姿勢は、地域活性化にとって重要な要素で真似できる点です。小布施町の取り組みが他の自治体に更に広がることを願っています。
参考:
現代のまちづくり – 小布施町
小布施町
ながの電力のでんき