食品産業の未来|SDGs目標3と健康食品の革新を知ろう
国連の持続可能な開発目標SDGsには、世界を変えるための17の目標が設定されていますが、それらは1つひとつ独立したものというわけではありません。相互に複雑に関係しあっている目標もあります。SDGsの目標2「飢餓をゼロに」と目標3「すべての人に健康と福祉を」の2つは、どちらも食と密接した目標のため、それぞれを切り離して考えることは難しいでしょう。
世界中の飢餓をなくすために不足なく食料が行き渡ることと、その食料がすべて健康的で栄養価の高いものであることは、似て非なるものかもしれません。この記事では特にSDGs3に焦点をあて、主に食品産業が果たすべき役割について考えてみたいと思います。
いつまでも健康で暮らすために考えたい食の安全性
SDGs2の目標達成のために、全世界の人々が飢餓に悩む必要がないように、世界の隅々まで過不足無く食料が行き渡ることは大切なことです。とはいえ、その食料はどんなものでも構わないというわけではないでしょう。同時にSDGs3の目標である「健康」という側面を考えた時、食の安全性や栄養改善は捨ておけないテーマとなります。
ジャンクフードの功罪
作業の合間やちょっとした時間でも口にすることのできるファストフード(ファーストフード)。調理手順が簡略化され、十分な設備がないところでも調理して食べることのできるインスタント食品です。これらのほとんどは、高エネルギーかつ塩分、糖分、脂質などを過剰に含むことが多い食品で、今現在飢餓に苦しんでいたり、災害などでインフラが切断された地域においては救世主となる面を持っています。
しかしながら、これらジャンクフードと呼ばれる食品たちは、「がらくた食品」というその名の通り、過剰に食べ続ければ体に悪いのもまた事実です。習慣的にこれらを食べ続ければ、肥満、糖尿病、心臓病などいわゆる生活習慣病の原因ともなり、とても健康的な食ということはできません。SDGs2の一時的な解決にはなったとしても、SDGs3の観点から見ればこれらの食に頼り続けることは、とても「持続可能な」問題解決にはつながりません。
食における栄養改善
2017年にJAICAF(ジェイカフ/公益社団法人 国際農林業共同協会)がリリースした『世界の食料安全保障と栄養の現状2017年報告―平和と食料安全保障に向けたレジリエンスの構築』において、それまで10年以上にわたって減少してきた世界の飢餓人口が、2016年に再び増加に転じたと報じられています。
これは「紛争」や「気候変動」が原因であると指摘されていますが、それにもまして比較的平和な地域においても問題とされているのが、さまざまな栄養不良など食の安全保障と栄養面の悪化への懸念です。災害時の一時的措置として先述のジャンクフードなどを用いるのは致し方ないとしても、持続可能な開発目標というSDGsの理念に立ち返ってみれば、より栄養改善された食を全世界に行き渡らせることこそが、SDGs2、およびSDGs3の目標達成のためには必要な考え方となるでしょう。
農林水産省の取り組みに見る食品産業の目指すべき未来
日本の食を取り扱う農林水産省では、こうしたSDGs2、3への取り組みとして、食品産業界との連携により、まさに官民一体となったいくつかの施策を展開しています。ここでは、SDGs3に関わる施策例として、2つの取組みについて紹介します。
和食文化の保護・継承に向けた事業の紹介
明治以降の日本では、西洋食を取り入れつつも日本の伝統的な食事も大切にすることで、欧米ほど脂質の摂取量が増えることなくバランスの良い食文化が作られてきました。こうした他国の食文化をうまく取り入れ、栄養バランスの良い豊かな食文化を生み出してきた日本だからこそ、世界に向けて発信できるメッセージがあるのではないか。農林水産省食料産業局ではそうした想いの元、「和食文化の保護・継承に向けた事業の紹介」をSDGs解決への柱の1つとして、人材育成や地域の食文化保護・継承事業に取り組んでいます。
参考:農林水産省【和食文化の保護・継承に向けた事業の紹介】
栄養改善の国際展開
農林水産省食料産業局のもう1つのSDGs3への取り組みとしては、栄養改善の国際展開として2016年に「栄養改善事業推進プラットフォーム(NJPPP)」を立ち上げ、民間企業のアイデアとイニシアティブを元に日本の技術と知見を活かした、途上国・新興国の栄養状態を改善できる食品供給などのビジネスを推進しています。この分野での国際的な取り組みは比較的新しく、官民連携による栄養改善事業として企業の社会的責任(CSR)を超えた共有価値の創造(CSV)の実現へ向けて大きな期待ができるでしょう。
日本だからこそできる栄養改善への取り組み
食品産業は食品や関連製品・サービスの提供など、人々の健康に大きな影響を直接的に及ぼす業界です。一部の健康を害する恐れのあるジャンクフードの提供などは、長い目で見れば「健康に悪い食品をつくる企業」と認識されることにより、経営的にも少なくないリスクを抱えることは意識すべきです。それは当然そこで働く従業員や、ステークベンダーたちの前向きな意思にも影響を及ぼすかもしれません。
しかし、食品産業としてもSDGs3を解決するために既に積極的にさまざまな取り組みを行っている企業もあり、それらの企業の取り組みは日本発の実践的な事例として世界でも注目を集めています。日本の技術力や、多様性がありバランスの取れた食文化は、他国においても大いに参考になるところでもありますし、SDGs3「すべての人に健康と福祉を」を解決するために貢献できる役割はますます増していくでしょう。日本だからこそできる栄養改善への取り組みに関して、自社でできる取り組みはどんなものがあるのか。そうしたことを自社の業務内容と照らし合わせて考えることから、SDGsへの取り組みは始まるのです。
まとめ
SDGs3「すべての人に健康と福祉を」に対して、ジャンクフードの持つ功罪や栄養改善の取り組みを通して、日本の食品業界の関わりを考えてまいりました。簡単に摂取できるジャンクフード(ファストフードやインスタント食品)は、災害時の一時しのぎな食材供給という観点では非常に役に立つ場合もありますが、持続可能な開発目標としては恒常的に食べ続けて良い食品ではありません。
しかし、日本の食文化をベースとしたインスタント食品の開発などを行えば、栄養改善をクリアした商品の開発もできるはずです。現にそうした動きを見せている企業も一部にはあるように、今こそ日本の食品産業界全体でこうした取り組みを検討すべき時が来ているのではないでしょうか。人々の健康状態の改善や平均寿命の延伸など、食品産業が貢献できる課題はいくつもあると考え、まずは自分のできることはなにがあるか。それを考えるところからSDGsへの取り組みはスタートします。
参考:
農林水産省【SDGs×食品産業】