ヨーロッパ屈指のクールな都市に選ばれたドイツ・ベルリンの持続可能なインフラ
ドイツ・ベルリンは、シティガイド誌「タイムアウト」が今年発表した「世界のトップ都市ランキング」の3位に選ばれました。1位はニューヨーク、2位はケープタウンという結果になっています。
有数のナイトクラブがあり、ギャラリーやミュージアムが充実しているヨーロッパ屈指のクールな都市であると評価され、市内12地区を電車やバスなどの公共交通機関で簡単に移動できる利便性が理由のひとつになっています。
また、空港跡地を多目的パークとして再利用しているテンペルホーフのような広大な公園を自転車で自由に探索できることが評価されたことはベルリンならではかもしれません。市内に点在する人気の観光スポットは「〇〇の跡地」が多く、その再利用のアイデアとセンスには脱帽させられることが多いです。
ベルリン人気が再燃している理由とは?
コロナ禍を経て再びベルリンに注目が集まった理由はなんだったのでしょうか?すでに10年以上ベルリンに住んでいる筆者の感覚としては、パンデミック前の5年間がベルリン人気のピークだったと感じています。
ネクストシリコンバレーと呼ばれ、スタートアップが次々と誕生し、夏は観光客で溢れ返り、街中のクラブで連日パーティーが開催され、アートシーンの発展も目覚ましく、街全体が活気に満ち溢れていました。2001年から2014年までベルリン市長を務め、同性愛者であることを公言しているクラウス・ヴォーヴェライト氏も「Berlin is poor, but sexy(ベルリンは貧しいが、セクシー)」という名言を残し、世界最高峰と呼び名の高いクラブ「Berghain(ベルグハイン)」の常連だったことでも有名です。
コロナ禍以降、世界が持続可能な世の中を作ろうという動きに変わり、観光地としてのあり方も変わってきました。ドイツは環境先進国として知られていますが、世界的なムーブメントとは関係なく、何十年も前からサステナビリティーを取り入れています。その背景には、旧東ドイツ時代の石炭発電所による深刻な大気汚染問題があり、学校でも環境教育が義務付けられているからです。また、多種多様な人種が入り混じり、セクシャルマイノリティにもオープンなことからダイバーシティを重要視する今の時代に合っているとも言えるのではないでしょうか。
都市の持続可能な取組みを審査する国際評価プログラム「グローバル・デスティネーション・サステナビリティ・インデックス(GDS-Index)」が2023年に発表した「世界で最も持続可能な大都市トップ10」では、ベルリンは6位に選ばれました。その他の上位にランク入りした都市は、グラスゴー、シンガポール、パリ、メルボルン、シドニーです。
「GDS-Index」は、エコロジー、社会的、経済的の3つの持続可能性の観点から、都市がどの程度持続可能に運営されているかを判断するために合計69の基準を設けています。また、このランキングは、国際的な観光地の持続可能な発展と責任あるビジネス観光を促進することを目的としています。
- 都市の環境戦略とインフラ
- 都市の社会的持続可能性のパフォーマンス
- レストラン、ホテル、会議センターなどのサービス提供者による持続可能性のパフォーマンス
- デスティネーションマネジメント戦略とイニシアティブ
上記4つの分野から評価されているとのことですが、住んでいると当たり前になっている環境やインフラを改めて見直してみると、ベルリンは非常に利便性が高く、意識が高いことに気付かされます。
自動車より自転車を好むベルリナーの暮らし
ドイツと言えば自動車産業が盛んなイメージがありますが、首都ベルリンでは自転車愛用者が非常に多く、通勤やプライベートにおいて生活必需品となっています。ベルリンは平地が多く、道路も広い上に自転車専用レーンが整備されています。また、電車やトラムに持ち込むことも可能です。自動車の排気ガスによる空気汚染を懸念して自転車に乗るようにしているというより、インフラが整っていることから自転車での移動が楽で快適な点が大きいのではないでしょうか?
また、アパートメントの中庭には専用駐輪場が設置されていることが多く、街の至るところ駐輪可能であることも大きいでしょう。ただし、バスには乗せれない、バイクチケットという専用の切符を買うこと、自転車専用の車両に乗せるなど、いくつかのルールが決められていますのでその点には注意が必要です。
先に述べた「タイムアウト」誌にもあるように、テンペルホーフのような空港跡地を公園として指定し、サイクリングやスケート、ジョギングなどのアクティビティを楽しめる環境が整っています。355ヘクタールもの広大な敷地は、ドイツで2番目に大きな都心の公園として緑地化され、大規模なイベントを開催したり、全長6キロのサイクリングコース、スケートパーク、ジョギングコース、バーベキューエリア、アーバンガーデニング、ピクニックエリアなどが整備されています。
ツーリスト向けのシェアバイクサービスも充実しており、街の至るところでアプリひとつで簡単に自転車をレンタルすることが可能です。ここ数年は電動キックボードが人気でスタートアップの参入が後を断ちません。自転車より早く楽に移動することができ、自動車のように免許が必要なく、排気ガスを気にする必要もないことから需要と供給のバランスが良いと言えます。
持続可能な運営方針を積極的に取り入れるホテルが増えている
ベルリンには約3040のエコフレンドリーなホテルが点在していますが、再生可能エネルギーの利用、廃棄物の削減、地域の有機食品の提供、リサイクルの推進などを積極的に行っています。また、「グリーンキー」や「ヨーロッパのエコラベル」と言ったサステナブル認証を取得しているホテルも多数あります。
ベルリンのガイドマガジン「visit Berlin」のホテルガイド「visit Berlin Partnerhotel e.V.」CEO、シュテファン・アスマン氏はベルリンのホテルについて以下のように述べています。
「ベルリンのホテルにおけるサステナビリティーは勢いを増しています。持続可能な方法で運営することにより、ホテルは環境を保護し、エコロジカルフットプリントを最小限に抑えることができ、経済的にも利益をもたらします。また、持続可能性に焦点を当てることで、ゲストのニーズや期待にも応えられます。さらに、持続可能なホテルは政府の支援プログラムや助成金の恩恵を受けることができ、すべての関係者にとってウィンウィンの状況が生まれます。」
ベルリンのエコフレンドリーなホテルを代表する「Scandic Berlin Potsdamer Platz」は、屋上にミツバチ園があり、フェアトレードコーヒーや地元産の農産物を提供し、ゼロウェイストをめざしているホテルです。グリーン・グロー認証を享受しており、ベルリンで最も環境に優しいホテルと評価されています。
最後に
世界に誇るクラブが多数点在し、独自のカルチャーを発信しているクールな街でありながら、都会なのに自然が多く、街の中心地にある公園であっても森林浴の心地良さを感じることができる2面性が訪れる人々を魅了しているのかもしれません。エコフレンドリーなホテルに滞在し、シェアバイクや電動キックボードでテンペルホーフを探索するだけで、ベルリンが重要視している持続可能な街作りに触れることができるのです。
しかし、その一方で街の至るところで劣悪なゴミ問題に直面します。その多くはテイクアウトしたフードやドリンクを外で食べ、そのままゴミを放置するという信じがたい行動が原因です。残念ながらツーリストに多く見られますが、ベルリン市民もゼロではありません。こういった個々の意識や行動を改善するには厳しい規則や罰則を設けないといけないのかもしれません。