テロリストとして生まれた人はいない。紛争の解決を目指す|NPO法人アクセプト・インターナショナル
これまで「戦争」といえば、第二次世界大戦を経験した世代の話であり、あくまで「歴史」として捉えていませんか?残念ながら、ロシアによるウクライナ侵攻によって大規模な戦争へと発展するシナリオが現実となりつつあります。日本は、平和ボケしていると言われるほど、争いがなく「平和」な国です。しかし、「平和」であることが当たり前になり、安全保障や国際情勢に対する関心が薄くなっていることも事実です。世界全体に目を向けると、ウクライナ侵攻だけでなく、日本のメディアでは積極的に取り上げられない紛争や争いが各地で起こっています。
本記事は、戦争、紛争、内戦の違いについて解説するとともに、紛争が起こる原因や解決に向けて取り組んでいるNPO団体について紹介します。
「紛争」「戦争」「内戦」の違い
紛争
紛争は2者以上が争う状況全般を指します。武力や暴力を伴う場合もそうでない場合も含み、 戦争や内戦を含む最も広い概念です。(例:家庭内紛争、地域紛争、国際紛争)
紛争の具体的な定義
JICAの定義は、「 国に限定せず、希少な資源(富や権力など)を巡る2つ以上の主体の争い」としています。
またセーブ・ザ・チルドレンの定義では、「 政府軍や武装勢力などの2つ以上の勢力が武力を用いて争い、戦闘により年間25人以上の犠牲者が出た場合」としています。
軍や武装勢力ではなく、一般市民が一方の勢力である場合でも、紛争とみなされます。その中でも、戦闘による年間死亡者数が1,000人を超えるものは特に「高強度紛争」と呼ばれます。
戦争や内戦はそれぞれ特定の条件下で起こる紛争の一形態であり、すべて紛争という大きな枠組みに含まれます。
戦争
国家間の武力を用いた大規模な争いのことを指します。国際法に基づくもので、戦時国際法が適用されます。(例:第二次世界大戦、イラク戦争)
戦争は国際法のもとで、一方の国が宣戦布告を行うことによって始まり、いずれかの国が敗北を認めるまで続きます。「戦時国際法」では民間人への攻撃や捕虜の虐待、対人地雷の使用などが禁止されています。しかし、戦時国際法には強制力がないため、違反した国があっても国際的に罰することはできません。
宣戦布告の有無や争いの規模によっては、国家間の大規模な争いでも「紛争」と呼ばれることがあります。
内戦
一国内での武力を用いた争いを指します。政府と反政府勢力間、あるいは異なるグループ間での武力衝突などです。(例:アメリカ南北戦争、シリア内戦)
SDGsと紛争の関係
SDGs(持続可能な開発目標)は、環境や人権、貧困などの国際的な問題を持続可能な形で解決するための目標です。SDGsには17の目標があり、その中の目標16「平和と公正をすべての人に」は、紛争と密接に関係しています。
目標16「平和と公正をすべての人に」の内容
目標・方法 | 内容 |
---|---|
16-1 | あらゆる場所で、あらゆる形の暴力と、暴力による死を大幅に減らす。 |
16-2 | 子どもに対する虐待、搾取、人身売買、あらゆる形の暴力や拷問を根絶する。 |
16-3 | 各国および国際的に法の支配を促進し、全ての人が平等に司法にアクセスできるようにする。 |
16-4 | 2030年までに、違法な資金や武器の取引を大幅に減らし、奪われた財産を取り戻す。あらゆる形の組織犯罪を撲滅する。 |
16-5 | あらゆる形の腐敗と賄賂を大幅に減らす。 |
16-6 | 効果的で説明責任のある透明性の高い公的機関を全てのレベルで発展させる。 |
16-7 | 包括的で参加型の意思決定をあらゆるレベルで実現する。 |
16-8 | 開発途上国の国際的な意思決定機関への参加を強化する。 |
16-9 | 出生登録を通じて全ての人に法的身分を提供する。 |
16-10 | 情報へのアクセスと基本的な自由を保障する。 |
16-a | 暴力防止とテロや犯罪撲滅のために、特に開発途上国での対応力を強化する。 |
16-b | 持続可能な開発のために差別のない法律や政策を推進・実施する。 |
紛争とSDGs目標16の関係
目標16-1では「暴力と、暴力による死を大幅に減らす」とされています。紛争を減少させることは、暴力とそれによる死を減らし、平和な世界の実現に寄与します。これにより、紛争はSDGsと深く結びついていることがわかります。
さらに、目標16-2では「子どもに対する虐待をなくす」と明記されています。紛争が続くと食糧不足が発生し、子どもたちが十分な栄養を摂取できず、虐待のリスクが高まります。紛争の解決は、こうした虐待防止にもつながるのです。
このように、紛争の解決はSDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の達成に直結します。紛争を早急に解決し、現地で苦しむ人々を救うことが求められます。
世界各地で起こっている紛争
World Population Reviewが公開しているデータによると、2023年現在、32ヵ国で紛争が起こっています。紛争が起こる主な原因には、以下の5つがあります。
- 宗教の違い
世界には、キリスト教やイスラム教、仏教といったさまざまな宗教があります。大多数の宗教は、お互いを尊重し合っていますが、過激な考えや捉え方をする宗教や宗派によって紛争が勃発する場合があります。一例として、イスラム過激派組織であるヌスラ戦線と政府軍によるシリア内戦などが挙げられます。
- 民族の違い
世界には約650の異なる民族集団が存在しています。同じ国の中に複数の民族が存在する場合や同じ民族が複数の国にまたがっている場合があり、紛争に繋がる傾向が高いです。例えば、1994年に、ルワンダでは、国内の多数派であるフツ族と少数派のツチ族の対立により大虐殺が起こりました。
- 政権が不安定
国内の政権が不安定な場合、内部の対立が起こりやすくなります。例えば、政権が腐敗している場合や独裁政権が続いている場合、国民による反乱や軍によるクーデターが起こることもあります。2021年には、ミャンマーで政権をめぐって軍によるクーデターがあり、民主化勢力がそれに抗議しています。
- 大国の介入
「代理戦争」と言われるように、アメリカやロシア(旧ソ連)といった大国が介入することで紛争に繋がる場合もあります。代理戦争には、冷戦時代に行われたベトナム戦争や朝鮮戦争があります。他にも、アメリカは、2001年に同時多発テロを受けて「対テロ戦争」としてアフガニスタン・イラクへ侵攻しました。これも、大国アメリカの介入によって引き起こされた紛争です。
- 資源の奪い合い
ダイヤモンドやレアメタル、水といった資源を巡って紛争が起こる場合もあります。世界では、紛争と関わりのある「紛争ダイヤモンド」を購入しないよう国際的な取り組みが進められています。
紛争は宗教、民族、資源、政権への不満など、さまざまな要因が絡み合って発生します。これらの原因が複合的に作用することで、紛争が激化し、長期化することがあります。理解を深めることで、紛争解決への道が見えてくるかもしれません。
紛争が人々に与える影響
食糧難
紛争により農村地が荒らされ、農作物の生産が困難になることから、食糧難が発生します。国連世界食糧計画(WFP)では、飢餓の原因の一つとして紛争を挙げています。例えば、レバノンは食糧の85%を輸入に頼っており、ロシアとウクライナの戦争により穀物の輸入が滞ると、深刻な食糧不足に陥る可能性があります。
病気や感染症の流行
紛争は医療インフラを破壊し、健康な人でも感染症にかかりやすい状況を作り出します。医療施設が爆撃されると、適切な治療を受けられず、病気や感染症が蔓延します。また、新型コロナウイルスのような感染症が加わることで、「二重の危機」が発生し、医療提供が一層困難になります。
教育の機会を奪う
紛争は教育機関を破壊し、子どもたちの学びの場を奪います。学校が軍事目的で使用されることで、空爆の標的となり、生徒が強制労働に駆り出されることもあります。さらに、精神的なダメージを受けた子どもたちは、学ぶ意欲を失ってしまうこともあるのです。
敵対勢力への暴力や性的虐待
紛争中には、敵対勢力に対する暴力や性的虐待が発生します。少女が誘拐されて兵士から性暴力を受けたり、子どもが兵士にさせられたりするケースが多々あります。こうした暴力から人々を守るため、紛争の早期解決が求められます。
貧困問題の加速
紛争が続くと、国は武器や弾薬の生産を優先し、民間の食糧生産が疎かになります。これにより、食料不足と収入源の喪失が発生し、貧困が加速します。また、教育を受けられない子どもたちは、将来的に安定した職に就けず、貧困が連鎖します。
衛生問題
戦闘による負傷者が増え、医療が追いつかなくなることや、インフラ破壊により清潔な水や十分な食料が得られなくなることで、病気や感染症が広がります。新型コロナウイルスの流行も加わり、紛争地では「二重の危機」となっています。
長期化する紛争の影響
紛争が長期化すると、病院や学校などのインフラが再建困難となり、市民の犠牲が増えます。特に子どもたちは、空爆や銃撃に巻き込まれたり、誘拐されて兵士にされたりします。
教育を受けられず、精神的にも大きなダメージを受けるため、長期間にわたる支援が必要です。
紛争が人々に与える影響は多岐にわたりますが、特に子どもたちへの影響は深刻であり、支援組織の活動が重要となります。しかし、紛争当事者による妨害も多く、支援が行き届かない現状があります。
NPO法人アクセプト・インターナショナル
NPO法人アクセプト・インターナショナル(以下、アクセプト・インターナショナル)は、2017年4月(前身団体である日本ソマリア青年機構は2011年9月)に設立され、「排除するのではなく、受け入れる」をコンセプトにテロと紛争の解決を目指しています。主にソマリアやイエメンといった地域でテロリストを投降させ、更生を促す活動を行っています。
同団体のロゴは、人の指から鳩を放ち、銃をツタに絡め封じているデザインです。「人権的な手法で暴力を機能停止させる」という意味が込められています。葉の多様な彩りは多様性を意味し、10枚という枚数は数秘術において寛大や再生を表しています。
主な活動とアプローチ
従来、紛争は、紛争の当事者との対話を通じて、和平合意を締結し解決を行ってきました。しかし、近年は、「テロ組織が当事者として関与している紛争」が増加しており、現在発生している紛争の約44%を占めています。「テロ組織が当事者として関与している紛争」は、直接対話することが難しいため、国際社会は解決の糸口を模索している状況です。
そこで、アクセプト・インターナショナルは、当事者であるテロリストやギャングが脱過激化・社会復帰するための道筋を描き、自主的な投降(脱退)を促しています。また、新たな加入者を生み出さないことで、紛争地域においてテロ組織の勢力を削ぐ取り組みを基幹事業としています。同団体は、「排除するのではなく、受け入れる」をコンセプトにしているだけあり、ワークショップやスキルトレーニング、カウンセリングなどの平和的な手法を用いて取り組んでいます。
アクセプト・インターナショナルの活動について詳しくは、こちらの動画をご覧ください。
最後に
ロシアによるウクライナ侵攻から一年以上経ち、ニュースで取り上げられる頻度は、当初より減ったように感じます。侵攻当初は、あまりにもショックな出来事で、私自身にできることはないかと、募金活動や情報の拡散などを積極的に行っていました。しかし、ニュースとして耳にする機会が減ると、どうしても関心が薄れてしまいます。
また、紛争や戦争によって民間人が犠牲になっている地域は、ウクライナだけではありません。今後は、あすてなでも、世界各地で起こっている紛争を解決するために取り組んでいる団体についても積極的に発信していきます。