企業がSDGsに取り組む前に押さえるべき5つのポイントとは?
2015年の国連サミットで、17の目標・169のターゲットで構成されたSDGs(持続可能な開発目標)が採択されて以降、国や政府のみならず世界中の企業がこぞってSDGsに賛同。それぞれの視点や立場から、自分たちにできる形でのSDGsへの取り組みを行っています。
日本でもその流れはどんどん加速し、多くの企業がSDGsへの取り組みを表明し実行に移している最中です。そこでこの記事では、企業がSDGsに取り組む前にこれだけは押えておきたいことを、5つの項目に絞って詳しく解説します。
SDGsに取り組む前に押さえておきたいこと5選
SDGsに対する企業の行動指針を示した手引書としては、GRI、国連グローバル・コンパクトおよび持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)の3者が共同で制作した「SDG Compass(エス・ディー・ジー・コンパス)」が存在します。そうした手引書を読む前に大枠でSDGsが自社にもたらすメリットを押えておくことは、SDGsやSDGコンパスを理解するための大きな助けとなります。
しかし、そうした具体的なステップへ進む前に、実際にSDGsに取り組むべき自社のメリットや注意点を確認しておくことは、最短距離で成果を得るためにも必要な行為です。
1.経営ビジョンとの整合性を確認する
SDGsに取り組むということは、新しい分野への挑戦が生み出すビジネスチャンスや企業ブランド価値の向上、さらにはCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動などさまざまな意義・恩恵があります。しかし、その取り組み自体が現在の経営ビジョンや企業体制と大きな乖離(かいり)があったとすれば、そこに生ずるひずみはやがて見過ごせないものとなるかもしれません。
こうしたことを考えるための指針がSDGコンパスではありますが、まずはSDGsに取り組むことが自社の理念の延長線にあるかどうかを推し量る必要があります。もしもそこに小さくない乖離があるとして、それでもCSR活動などを通してSDGsに取り組む意義があると考えるのであれば、時として理念そのものを考え直さなければならないということもあり得るのです。
2.社会的価値と経済的価値の両立を目指す
SDGsへの取り組みから得られるものは、社会的価値と経済的価値の2つの側面があります。これまではこの2つの価値は、トレードオフ(=相反するもの)の関係にあると考えられてきました。それはつまり、経済的利益を求めた結果、新たな社会的な問題を引き起こしてしまうような状況を指します。しかし、SDGsの実現はそういった取り組み方ではうまくはいかず、むしろ両方のメリットを得ようとすることこそ大切な考え方です。
ゴミの収集から焼却を行うことで雇用が促進できる代わりに、CO2排出で地球の温暖化を招いてしまうという図式ではなく、焼却エネルギーを再生エネルギーとすることでより地球に優しい企業を目指し、それが回り回って企業の利益へと還元されるというような図式を作り上げる必要があります。こうしたトレードオフ(=経済活動と引き換えに新たな社会課題を生み出す図式)からトレードオン(経済的価値と社会的価値の両立)へシフトしていく考え方が、SDGsの実現には欠かせないのです。
3.SDGsウォッシュに陥らないようにする
企業の広報活動(外的・内的問わず)でSDGsへの取り組みを掲げておきながら、現実には実態が伴っていなければ、経済的にも社会的にも何の価値もありません。こうした状況を揶揄(やゆ)して、多くの場合SDGsウォッシュ(SDGsウォッシング)という言葉が用いられますが、まさしくSDGsウォッシュに陥らない計画的な取り組みが必要なのです。
特に近年はステークホルダーや社会の目は、こうしたお題目だけのSDGs広報には敏感で、発展途上国の開発による雇用促進をうたっていながら、その実態は劣悪な条件で子どもたちを働かせているなど、とうてい理解されることではありません。SDGsの取り組みで先を行く他社の例なども参考にしつつ、SDGsが絵に描いた餅にならないように、地に足がついたビジネスとすることが求められます。
>>外務省/JAPAN SDGs Action Platform【取り組み事例】
4.メリットを確認しておく
経済的・社会的を問わず、実際にSDGsに取り組むことで自社にどのようなメリットをもたらすことができるのか。企業活動の一環としてSDGsに取り組む以上、ここをしっかりと押えておくことは重要です。ここでは代表的なメリットを簡単にご紹介します。
ビジネスチャンスの拡大
SDGsには実に17の目標、169のターゲットが存在します。それは自社のビジネスに直結して解決すべき目標から、遠い位置にあると考えられる目標までさまざまでしょう。今後ますますSDGsに取り組む企業が増えてゆく中で、率先して取り組んだ実績は経済的にも優位性を持ち、新たなビジネスチャンスを創出する可能性は大いにあります。
ブランド価値の向上
SDGsは今や国境を超えた世界的な関心事です。その解決にビジネスを通して取り組んでいる企業という評判は、大きなブランド価値の向上につながります。特に地域社会に対しての取り組みなどは、外部に対しても分かりやすく社会的意義をアピールできますので、企業としての信頼を勝ち取るために大きな役割を果たしてくれるでしょう。
ステークホルダーの信頼確保
ブランド価値が向上するということは、地域社会に密接した中小企業においては大きな力となることが予想されます。しかしそうした目に見える相手だけでなく、クライアントや株主、金融機関や行政機関などからの信頼も確保することができ、企業の価値はますます上昇することでしょう。
資金調達の優位性
企業ブランドの価値が上がり、ステークホルダーの信頼を勝ち取ることができれば、新規事業を立ち上げる時の資金調達などでも、大いに優位性を発揮できることでしょう。特に投資家たちや地域の信用金庫などでは、地域社会に貢献する企業へ投資・融資を行っているということ自体がステータスや実績にもなりますので、新規ビジョンの実現のためのハードルが資金面では下がる可能性をはらんでいます。
社内モチベーションの向上
社会的意義のある取り組みをしている企業というブランドは、他社に対してだけでなく自社の従業員に対しても大きな価値を持ちます。地球に優しい企業で働いているという想いは、従業員の働く意義を生み、モチベーションへと直結することでしょう。
優秀な人材の確保
SDGsに取り組む企業というブランドは、新規の人材採用時にも大きなアピールポイントです。人は誰でも意義のある仕事をしたいと考えるもので、より優秀な人材ほどそうした付加価値に重きを置いて働く場所を決定する傾向にあります。社会的意義のある取り組みをする企業というブランドは、自社に最大の価値をもたらすでしょう。
例えば「ミレニアム世代(1981年以降に生まれ2000年以降に成人を迎えた世代)」や「Z世代」と呼ばれる若者たち(1990年代後半~2012年頃に生まれた世代で、2021年現在9~21歳ぐらい)は、SDGsへの関心が高いというデータも存在しています。これからの企業の中核を担う「ミレニアム世代」や、今後の社会を担う「Z世代」を企業として確保するためにも、SDGsに取り組む企業であるというブランディングは非常に有効です。
5.社内コミュニケーションで合意を取る
これまで説明してきた注意点に気をつけて、経済的にも社会的にもメリットを享受するためには、一部の経営陣や担当者たちが単独で息巻いた所でうまくいくものでもありません。SDGsへの取り組みは全社を上げて進めていかなければうまくいかず、そのためには現場で働く従業員1人ひとりにまでそのイズムが浸透していることが必要です。社内への情報発信も積極的に行い、時には直接的コミュニケーションでその意義を伝えるなど、SDGsをきっかけとして社内にイノベーションをもたらす仕組みづくりが大切といえるでしょう。
まとめ
企業がSDGsに取り組む前に考えておきたいことを、5つの項目に絞って解説してまいりました。いずれにしてもSDGsの理念をよく理解して、自社の理念との整合性を図ることがもっとも大切な第一歩となります。その上で社内の総意を取り付け、社外に対して適切な情報開示を行っていけば、きっと社会的にも自社的にも価値のあるSDGsへの取り組みを実現していけることでしょう。