パタゴニアが全株式を環境NPOに譲渡|地球を唯一の株主とする大胆な決断
事業の繁栄を大きく抑えてでも地球の繁栄を望むのならば、私たち全員が今手にしているリソースでできることを行う必要があります。これが私たちにできることです。
イボン・シュイナード氏
地球が私たちの唯一の株主
これまでは「株主資本主義」やステークホルダー(利害関係者)を重視する「ステークホルダー資本主義」という考え方が主流でした。しかし、2022年9月14日、アウトドアのブランドで有名なパタゴニアの創業者であるイボン・シュイナード氏は「地球が私たちの唯一の株主」であるとして、同社の全株式を環境危機対策に取り組むNPOと信託に譲渡すると発表しました。
これらの資金は、環境変動(気候危機)との戦い、生物多様性の保全といった、さまざまな社会課題解決に取り組むコミュニティへの支援、助成金の提供、理念・信念のある活動や選挙の立候補者の支援などに使用される予定です。
具体的な譲渡先についてですが、98%の株式を環境NPOである「ホールドファスト・コレクティブ(Holdfast Collective)」に譲渡し、残り2%と議決権をパタゴニアのミッションである「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に取り組むことを目的に設立した信託「パタゴニア・パーパス・トラスト(Patagonia Purpose Trust)」に譲渡します。
パタゴニアは、事業への再投資にまわさない資金をこれら2つの組織に分配するとしており、その年の経営状態にもよりますが、ホールドファスト・コレクティブ(Holdfast Collective)には年間約1億ドル(約140億円)が分配される見込みだそうです。
パタゴニアは1993年の時点で、ペットボトルを再利用したフリースを販売するなど、環境負荷の少ない製品づくりを行なってきました。また2002年には、ルー・リボン・フライズ社の創設者であるクレイグ・マシューズ氏と共に「1% for the planet」という、売上の1%を自然環境の保護や回復に寄付するNPOも設立しています。さらに持続可能かつ良い会社であることを認証する「Bコープ認証」の取得にもいち早く取り組んできました。
しかし、気候変動や森林破壊、生物多様性の喪失といった問題は解決に至っていません。地球環境がきちんと機能することは、私たち人間が生きていく上で最も重要な基盤となります。
パーパスを追求する
新たな組織形態の構築は2年前から進められ、パタゴニアを売却し、その利益を全額寄付する、もしくは株式を公開する、という2つの選択肢を検討してきました。しかし全額を寄付する場合、新たなオーナーがパタゴニアの意思や価値観を維持してくれるかどうか、また世界中で雇用されている人材を維持してくれるという確信を得ることができません。一方、株式を公開する、つまり上場させることは、長期的な活力と責任を犠牲にして短期的な利益を生み出す必要があります。彼らは、どちらも有効な方法ではないとして今回の選択をしました。
この方法を「株式公開に進む(Going public)」のではなく、「目的に進む(Going purpose)」と呼んでいます。パタゴニアは、今後生み出す富を投資家たちだけが裕福になるのではなく、人類全員が幸せになるために使うとしています。これは決して、非営利企業になるということではありません。パタゴニアは営利企業として、資本主義が地球の役に立つことを証明するための方針を示しています。
地球を救うことができる
イボン・シュイナード氏は、発表の中で「地球の資源は、莫大ではありますが無限ではありません。そして、私たちがその限界を超えてしまっていることは明らかです。しかし、まだ回復可能です。私たちが最大限努力すれば地球を救うことができるのです」と文章を締めくくっています。