ドバイの未来博物館「The Museum of the Future」
2022年2月、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに、「The Museum of the Future(未来博物館)」がオープンしました。来館者は、2071年の未来へタイムスリップし、「宇宙旅行」や「気候変動」「生物多様性」「ウェルビーイング」「スマートシティ」などのテーマに沿った未来を体感することができます。
現地の様子がより伝わるかと思いますので、是非動画も合わせてご覧ください!
建物について
The Museum of the Futureが立っている緑の丘は、地球を表しています。丘の上の建物は、人類を象徴しており、環状で表現することで、過去と未来をしっかりと結ぶことを意味しています。中心に空けられた楕円の空間は、未知なる未来を示しています。また、建物には、現在のドバイの首相であるムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム(Mohammed bin Rashid Al Maktoum )氏による詩のフレーズが書かれています。
- 私たち人間は、何百年も生きることはできない。しかし自分たちの想像力が育んだものは、遺産としてずっと残り続ける。
- 想像して設計する、そしてそれを実行できる人にこそ未来はやってくる。未来は待つものではなく、創造するものである。
- 企業再生、文明革命の秘訣は実にシンプル。それは、イノベーション(革新)である。
The Museum of the Futureの目的は、主に2つあります。1つ目は、未来を創造し、次世代にインスピレーションを与えること。2つ目は、分野を問わず、世界中のあらゆる専門家たちを結びつけ、地球が現在抱える「森林破壊」や「気候変動」といった問題の解決に向けたヒントや私たちの幸せについて考える革新的な実験の場を提供することです。
没入感を大切にした体験型施設
The Museum of the Futureでは、入館時に来館者一人一人にリストバンドが配布されます。(一度絞ると緩めることができないので注意!)リストバンドは、館内に設置されたセンサーにタッチすることで、タッチパネルに自分の名前が表示されたり、画面の動きと連動するなどの仕掛けがされています。この仕組みは、来館者がより主体的にアクティビティに参加することを促します。他にも、宇宙船を模したエレベーターで宇宙に行く仕掛けや音、風、香りといった五感を刺激する展示がありました。
The Museum of the Futureは、大きく5つのコーナーに分かれています。本記事では、「気候変動とスマートシティ」「生物多様性」の2つのコーナーがどういう内容であったか紹介します。
気候変動とスマートシティ
The Museum of the Futureは、世界が直面している気候変動という大きな環境問題に対して、緩和及び適応に向けた複数の解決策を提示しています。
交通手段やインフラについて
交通・運輸産業は、世界全体で排出される二酸化炭素の17%を占めています。館内では、化石燃料由来のエネルギーではなく、リチウム電気で飛ぶ飛行機の事例が展示されています。他にも、地中にワイヤレス充電器を設置し、走行することで充電するバスや自動車の開発事例が紹介されています。地中に設置するワイヤレス充電器は、ドバイの車道に既に設置されています。
エネルギーについて
世界のエネルギー消費量は、人口増加、経済成長と共に増加し続けています。世界の人口は、今後も増加することが予想され、さらに多くのエネルギー量が必要と予測されています。このエネルギー消費量の増加分を化石燃料由来のエネルギーで賄おうとすると、温室効果ガス排出量が莫大に増えてしまいます。The Museum of the Futureは、化石燃料由来から太陽光や風力といった自然由来へと代替が進んでいる再生可能エネルギーについて紹介しています。「再生可能エネルギーは本当にクリーンなの?」「ゴミをエネルギーに変える方法は?」「水力を活用した発電によって、石炭を燃焼した時に得られるのと同等のエネルギー量を得られるのだろうか?」「最も豊富にある地球資源とは?」といった質問から選ぶことができます。
今回は、「水力を活用した発電によって、石炭を燃焼した時に得られるのと同等のエネルギー量を得られるのだろうか?」について詳しく見ていきます。水力発電は、世界全体の再生可能エネルギーの発電方法の中で、最も大きな割合を占めています。他にも、水資源を活用した発電方法には、潮流発電や波力発電があります。しかし、これらの方法による発電量は、カーボンニュートラルを実現しながら、世界の電力需要を満たすには十分ではありません。
そこで、新たに注目されているエネルギー源が「水素」です。水素は、製造工程とエネルギー源の違いによって、3つに分けられます。1つ目は、化石燃料をベースとして製造される「グレー水素」です。2つ目は、同じく化石燃料を使用しますが、製造過程で排出された二酸化炭素を回収することで温室効果ガス排出量を削減する「ブルー水素」です。そして3つ目が、再生可能エネルギーなどを使って、製造工程において二酸化炭素を排出せずにつくられた「グリーン水素」です。電気で分解(水を電解)することにより水素をつくる製造方法であり、この電解の際に再エネ由来の電力を利用します。
グリーン水素の技術は、サプライチェーンが複雑であり、製造コストも高いため、現在では実用化されていません。しかし、欧米、インドや日本の多くの企業が実用化に向けて研究を進めており、近い将来、グリーン水素で走るゼロエミッションの自動車を運転し、水素製造時に発生する水が飲めるようになるかもしれないことが紹介されています。
代替素材について
多くの建物に用いられるセメントなどの建設資材や食品を包装しているプラスチックの包装材は、原料調達と製造過程で多くの二酸化炭素を排出します。The Museum of the Futureでは、プラスチック包装材の代替素材を開発するNotpla社の海藻から作られた包装材が展示されています。
あすてなは、Notpla社についても紹介しています▼
また、新たな建築素材についても展示されています。
廃棄される予定だったココナッツの皮から取れる繊維を使用しています。
版築土塀と呼ばれる方法で、土や石灰、セメントを混ぜた材料を積み上げて土塀にするため、廃棄物はほとんど出ません。
農業廃棄物を処理する過程で成長したキノコの菌糸で作られた自然由来の素材です。
生物多様性
世界最大の熱帯雨林であるアマゾンが、プロジェクトマッピングによって再現されています。画面では、本来は土の中にある木の根っこ部分まで見れるようになっており、木や植物が単体ではなく、一つの生態系として相互に依存していることを知ることができます。
DNAライブラリーと呼ばれる空間では、ガラスに入った2,400種の生物が展示されています。この空間は、気候変動によって生物がどのような影響を受けるのかについて、来館者に考えるきっかけを与える設計となっています。専用のデバイスを動物のタグにかざすと、動物の生態について知ることができます。多くの生物は白く光りますが、絶滅の危険に晒されている生物は赤く光ります。いつ頃絶滅してしまうのかといった情報も書かれています。
哺乳類のコーナーには、私たちホモサピエンスもいます。ドキドキしながらかざしてみたところ、白色に光りました。
このままでは、2033年に絶滅すると予想されています。
地球温暖化によって氷河が溶け、絶滅しそうなイメージのあるシロクマですが、白色に光っています。
The Museum of the Futureは、危機感を煽るだけでなく、課題に対する解決方法も提示しています。次の空間では、生態系を保護・保全し、生態系を復元した際の影響をシュミレーションを通じて観察することが可能です。
さまざまな地域のシュミレーションを観察することができます。
また、来館者はリストバンドをかざすと、画面の中でアマゾンの森林を回復させることができます。最初は根っこが細く枯れていますが、一度リストバンドをかざすと植物が生え始めます。画像の赤い点は二酸化炭素、青色は酸素を表しています。最終的には、太い木に成長させることができ、根っこが太く大きく成長し、生態系が回復する過程を見ることができます。
現実から離れてウェルビーイング
世界は、自動車の普及やスマートフォンの登場により、便利で豊かになっています。しかし、うつ病や孤独、不安といった気持ちを抱えている人が多くいます。2030年には、最も高い健康リスクである「肥満」を超えて「うつ病」が1位になると言われています。原因は、一つではありません。具体的には、仕事のストレスや気圧の変化、AR、VR、いつでも簡単にアクセスできるSNSなど、要因はいくらでも考えられます。人類がより健康的に過ごすためには、自分自身の体に集中し、視覚や聴覚、触覚といった人間が本来持つ五感を使う必要があります。
The Museum of the Futureでは、忙しい現代社会から離れ、本来備わっている五感を取り戻す、ウェルビーイングに焦点を当てたゾーンです。このゾーンは、「Al Waha(アル・ワハ)」といい、オアシスという意味です。
奥に進むと、まず目に飛び込んでくるのが写真のようなスペースです。半円の中は、床が柔らかくなっており、踏み入れると水のような模様が自分の身体と連動して動きます。私たち人類は、世の中が便利になったことで、身体を動かす機会が減っています。しかし、身体を動かすことは精神的にも健康に良いと言われており、自然と身体を動かしたくなる仕掛けがされています。
次は、「Feel(感じる)」コーナーです。網が付いた円形の機械が設置されており、その上に手をかざすと柔らかい風が出てきます。ふわ〜と出る時もあれば、リズム良く途切れながら出る時もあり、数分間目を瞑って手のひらに神経を集中させます。終わると、とても気持ちがすっきりしていたので不思議です。
「connect(繋がり)」コーナーは、1人ではなく6人で行います。写真のような機械を囲み、手元にあるマイクに向かってハミングしてハーモニーを奏でます。6人全員の音が揃うと、マイクと同じ部分から香りが噴射されます。その後、香りについて感想を話し合いますが、同じ匂いを嗅いだにも関わらず、「花の香り」「甘い香り」「よく分からなかった」などさまざまな意見が出ました。
このコーナーは、見ず知らずの人ともコミュニケーションを取ることで、インターネット上だけでなくても繋がりを育むことができることを体感できます。そして、同じ香りでも同じように答えた人がいないように、人の感性が十人十色であることも伝えています。
人々の健康は、持続可能な社会を実現する上で欠かせません。自分の気持ちに余裕があれば、他者を思いやることができます。世界の貧困や飢餓、生物多様性の喪失といった問題は、彼らの立場に立って想像することから始まると思います。
最後に
私は、気候変動や食料危機、海洋汚染といった環境的課題について考えると、壮大な課題で1人では何もできないかもしれない。世界は変わらないかもしれない…と悲観的な気持ちになることがあります。
しかし、The Museum of the Futureに足を運ぶと、明るい未来を創ることはできるし、問題の解決向けて数多くの取り組みがあることを知ることができます。そして、自分が健康であることの重要性について知ることもできます。
また、大きな問題を自分ごと化する仕組みにも感激しました。リストバンドやデバイスを通じて主体的に動いたことで、自分自身も地球の未来を担う1人であることを認識し、明るい未来をより近くに感じることができます。
最後に、読んでくれた皆さんへThe Museum of the Futureの外観に書かれているドバイの現首長 シェイク・ムハンマド・ビン・ラーシッド・アール・マクトゥーム氏による次のような言葉を紹介します。
「想像して設計する、そしてそれを実行できる人にこそ未来はやってくる。未来は待つのものではなく、創造するものである」
山火事や食料生産のために森林が失われたり、異常気象による災害のニュースを見るとネガティブな気持ちになってしまうかもしれません。ですが、皆さんが明るい未来を創りたいと感じ、小さなアクションを起こせば、きっと少しずつ持続可能な未来を実現することができると思います。私も、あすてなを通じて明るいニュースの発信やエシカル商品への代替など、身近にできることから行っていきたいと思います。