リジェネラティブ(環境再生型)農業とは?ネスレの取り組みも紹介
リジェネラティブ農業(Regenerative Agriculture)を日本語に訳すと「再生農業」や「環境再生型農業」となります。聞き慣れない方も多いかもしれませんが、食料生産の過程で起こっている環境破壊や水質汚染、農薬による土壌汚染などの解決方法として、環境問題への意識が強い欧米では関心が高まっています。本記事では、リジェネラティブ農業について、そして実際に取り組んでいる企業の事例や商品についてご紹介します。
リジェネラティブ(環境再生型)農業とは
土壌は健康であればあるほど多くの炭素を吸収してくれるという性質を持っており、二酸化炭素の削減に貢献することができます。
その健康な土壌とは有機物が豊富であること、柔らかすぎない土などの条件があり、この環境にやさしい持続可能な脱炭素型の農業の取り組み方法として、具体的には以下のようなものがあります。
不耕起栽培
農地を耕さずに直接植えることを指します。
土壌を耕すことで酸素が取り込まれ、植物の光合成の過程で土の中にあった炭素と結びつき、二酸化炭素として空気中に放出されます。つまり、私たちは今まで当たり前に農地を耕していたわけですが、それは地球温暖化の一因になっていたということです。
また、耕すと土が柔らかくなってしまうので、土壌が浸食されやすくなります。これも炭素を放出しやすくなり、地球温暖化の原因になっています。
被覆作物の活用
主作物を何も植えていない期間に、他の植物を植えることを指します。
植物を植えておくことで土壌の浸食を防ぐことができ、また有機物が増加し炭素が地中に留まりやすくなります。そのため二酸化炭素削減にも繋がります。
輪作
同じ土地で違う作物を周期的に変えて栽培する方法のことを指します。
そうすることで土の中の栄養素や微生物のバランスを保ち、炭素が地中に留まり、また植えた作物も健康的に保つことが可能になります。
化学肥料の不使用
化学肥料ではなく有機肥料を使用することで、土壌の健康を維持するだけでなく、水質汚染も防ぐことが可能になります。
リジェネラティブ農業が貢献するもの
これまで書いてきた通り、この方法は二酸化炭素の排出削減に貢献するだけでなく、生物多様性の面でも貢献しています。
2019年にニューヨークで開催された国連気候変動サミットで、農業の生物多様性に焦点を当てたビジネス連合「One Planet Business for Biodiversity(OP2B) 」が発表され、3つの柱を掲げています。
- 土壌の健康保護のための再生可能な(regenerative)農業慣行の拡大
- 製品ポートフォリオ開発を通じた、 農地の生物多様性の強化と食料及び農業モデルの強靭性の増加
- 森林減少の排除、 価値が高い自然生態系の 管理・回復・保護の強化
このように、生物多様性の観点から見てもリジェネラティブ農業を行うことが有効であることが分かります。
大手企業で加速するリジェネラティブ農業
OP2Bは、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が主催しており、2021年2月現在、ダノン、ネスレ、ユニリーバ、グーグル、マイクロソフト、グッチやサンローランなどを扱うケリング・グループなど合計27社で構成されています。
前述した通り、リジェネラティブ農業は環境保全や生態系の回復だけでなく、二酸化炭素の排出を削減することができるので、自社が排出した温室効果ガスを吸収するために農家と連携し、サプライチェーン全体の排出量を削減する動きが加速しています。
Nestle(ネスレ)
Nestle(ネスレ)は、昨年2021年9月に再生可能なフードシステムへ以降することを発表しています。
ネスレの会長ポール・ブルケ氏は「これらの成果は、持続可能な食料生産の基盤を形成し、そして重要なこととして、ネスレの長期的な気候目標達成にも貢献するのです」と述べています。
サプライチェーン全体でリジェネラティブ農業を実現するため、ネスレは以下の方法でサポートを行なっています。
①最先端の科学技術を応用して技術支援を行う
ネスレは、研究開発の専門家や農学者の広大なネットワークを活用して、例えば、環境負荷が少ない高収量のコーヒーやカカオの品種開発、乳製品のサプライチェーンにおける排出量削減のための新たなソリューションの評価を行っています。またネスレは農業研修を提供し、情報や現地に合わせたベストプラクティスを農業従事者が交換できるように支援します。
②投資サポートを提供
リジェネラティブ農業への移行には、初期リスクや新たなコストを伴います。ネスレは、農業従事者との共同投資、融資の促進、特定の設備のために融資を受ける支援を行います。ネスレはパートナーと協力して、リジェネラティブ農業を推進する最良の方法を試験して学ぶパイロットプロジェクトに資金を提供します。
③再生農業の農産物に割増価格を支払う
ネスレは、リジェネラティブ農業で生産された多くの原材料に割増金を積み増し、より多くの量を購入します。これは原材料の量と質だけでなく、土壌保護、水管理、炭素隔離など環境上の利益に応じて、農業従事者に報いることを意味します。
最後に
いかがでしたでしょうか?
日本ではまだまだ聞き慣れない「リジェネラティブ農業」ですが、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの動きが加速することで、サプライチェーンに農家や畜産農家のある企業では今後導入が進むのではないでしょうか?
参照:
One Planet Business for Biodiversity (OP2B) – WBCSD
One Planet Business for Biodiversity (OP2B) – WBCSD
生物多様性に関する民間レベルの国際枠組について 令和2年12月環境省自然環境局自然環境計画課 生物多様性主流化室
ネスレ、再生可能なフードシステムへの移行を支援する計画を発表