ドイツ|若き才能を育て、伝統技術を守り続けるベルリン・ファッション・ウィーク
7月1日から4日にかけて「ベルリン・ファッション・ウィーク(以下、BFW)」が開催されました。「自由、包摂、創造性に対する責任ある行動」をテーマに、35ブランドがショーやエキシビジョンにて、2025年春夏コレクションを発表しました。残念ながら7月とは思えない寒さと悪天候に見舞われましたが、各会場とも多数の来場者や報道陣が集まり、どこも盛況の様子でした。公式サイトによると来場者は約28,500人を記録したと発表されています。
筆者が今シーズンのBFWで最も注目していたのは、すでにサステナブルな服作りや物作りが当たり前となっているファッション業界ですが、それと並行してどんなことを重要視しているのか?という点です。BFWは以前から若くて才能あるデザイナーの育成に力を入れてきましたが、今年新たに設立されたファッション基金の貢献が目立ちました。また、ドイツ国外から伝統文化やクラフツマンシップを重んじるブランドが多数出展していたことも印象的でした。
新進気鋭デザイナーを支援するファッション基金の設立
BFWは、設立当初から新進気鋭の若手デザイナーを育成する支援活動に力をいれてきました。特に、ここ数年の活動においては、資金援助だけでなく、最新コレクションの発表の場を設け、海外に進出するためのサポートなど、様々な手厚い支援を行っています。
世界遺産ボーデ博物館にて開催されたグループエキシビジョン「DER BERLINER SALON」では、BFWを運営する「ファッション・カウンシル・ジャーマニー」とVOGUEジャーマニーが立ち上げたファッション基金「FCG/VOGUE FASHION FUND」に選出された7名のファイナリストの作品と新進気鋭デザイナーの作品が展示されました。
「FCG/VOGUE FASHION FUND」とは、2024年に新しく設立されたばかりのファッション基金ですが、アメリカ、イギリス、中国、スペインなどのドイツ以外の国ではすでに設立されており、多くのデザイナーを排出しています。革新的で創造的なアプローチを追求する若手デザイナーを募集し、コンペティションを行い、受賞者には総額100,000ユーロの賞金が授与されます。さらには、VOGUEジャーマニーへの掲載や2025年2月に開催されるBFWでのランウェイショーが保証されているだけでなく、業界のプロフェッショナルとのネットワーキング機会が設けられ、販売、生産、スタイリング、サプライチェーン、クラフトの分野における専門家による独占ビジネスプログラムも含まれています。
同基金は現在、第2選考の段階に入っており、その後、国際的な審査員によって受賞者が選ばれ、9月に発表されることになっています。
ポツダム広場のアトリウムタワーで開催された「Neo.Fashion.」は、ドイツ国内にある11つのファッションカレッジの卒業生によるショー、パネルディスカッション、デジタルアーティストによるバーチャル作品の展示、若手ドイツ人デザイナーと「ウクライナ・ファッション・ウィーク」から若手デザイナーを招聘し、合同ショーを披露するなど様々なコンテンツが行われました。
「Neo.Fashion.」は、ファッションデザイナーを目指す学生を主な対象にしている支援であり、2017年にベルリン工科経済大学(HTW Berlin)の協力のもと発足され、2019年よりBFWのプログラムの一環として開催されています。アワードには、ベストデザイン賞、ベストクラフトマンシップ賞、ベストサステナビリティコンセプト賞、ベストイノベーション賞があり、受賞者には「FCG/VOGUE FASHION FUND」と同様に賞金や奨学金が授与され、メディアへの露出や企業とのコラボレーションの機会が与えられるなど多数のサポートが提供されます。
サステナブルに特化したマガジンがグループエキシビジョンを初開催
世界のサステナブルブランドを紹介するベルリン発のマガジン「The Lissome」主催による初のグループエキシビジョンが旧デンマーク王立公使館をリノベーションした5つ星ホテルSO/Berlin Das Stueにて開催されました。ガイドブック「The Book of Kin」の発売も兼ねた同展は、伝統文化を守り、職人技術にこだわった繊維や生地、生産背景を持つブランドが集結し、地球に害を及ぼす商品が大量に生産され、消費され、すぐに廃棄物になるサイクルが加速している問題を掲げたパネルディスカッションが行われました。
ドイツを代表するオーガニックコスメブランドの「ドクター・ハウシュカ」やインドの手織り生地を使用した日本の「ブノン(BUNON)」、ケニアでハンドメイドされている「ハマジ(Hamaji)」、伝統的な手織り技術とスローファッションを取り入れたスロバキアの「クリスティーナ・シプルヴォヴァ(Kristína Šipulová)」など、天然繊維や伝統工芸にこだわる7ブランドとアクセサリーが展示されました。
BFWでは、ドイツ国内のブランドやヨーロッパ諸国のブランドが出展することが多いため、同展のようにインドに生産背景を持つ日本のブランドや東アフリカのケニアといったなかなか見ることが出来ない国のサステナブルブランドを知ることができた貴重な機会でした。
クラブカルチャーだけでなく、ファッションも支援するベルリンの行政
BFWは2007年に設立されて以来、ベルリン州の経済・エネルギー・公共事業によって資金提供されてきました。ドイツだけに限らず、学生や若いデザイナーたちはたとえ才能があったとしても資金力やコネクションがありません。ベルリンのクラブカルチャーやアートカルチャーへの資金援助や行政のサポートは多くの人に認知されていますが、ファッションにおいてはまだまだ不足していると感じていました。
担当のフランツィスカ・ギフェイ上級議員は今シーズンのBFWにおいて以下のようなコメントを寄せています。
2025年春夏コレクションにおける「ベルリン・ファッションウィーク」は、ファッション業界にとって素晴らしいイベントとなり、ベルリン市内の多くの場所でそれを感じ、見ることができました。ショーと関連イベントによるプレゼンテーションは、才能あるデザイナーが自由、多様性、持続可能性に基づく創造性を生き生きと表現していました。国際的な注目が高まり、来場者も増え続けていることが私たちの進むべき道を示しているとおもっています。今後も勇敢で若い才能にスポットを当て、創造性と持続可能性を密接に織り交ぜる努力を続けていきます。ファッションはひとつのクラフトです。そのことにスポットライトを当てることによって、ベルリンをファッション都市としてより一層発展させることができると考えています。私たちの大きなミッションのひとつなのです。今後も「ベルリン・ファッションウィーク」を通じて、創造的な頭脳と才能あるデザイナーが優れた技術を披露し続けることを望んでいます。
最後に
筆者が今シーズンのBFW全体を通して感じたことは、運営だけでなく、ベルリン州や行政機関の協力あってこそクオリティーの高いランウェイショーやエキシビジョンが開催できるということです。ベルリン州や行政機関の全面的な協力なしでは到底貸し切ることはできない世界遺産の博物館が会場になっていたことに驚くと同時に今後のBFWにも期待が高まりました。過去にも歴史的建造物が会場として使用されたことはありますが、残念ながらブランドによって格差が生じ、デザイナーや運営側の熱意が全く感じられないショーを多数見てきました。
今シーズンは最も有名な観光スポットであり、歴史も深い博物館島「ムゼウムスインゼル」の一角を借り切って開催されたことは快挙であり、最新コレクションが美しくラグジュアリーに映えていたことに感動しました。また、ベルリンに多数点在する世界遺産を多くの人に知ってもらう機会にもなったのです。このように歴史的重要文化財と最先端のファッションシーンが融合することによって、クラブカルチャーやアートなどと足並みを揃え、世界基準へと発展していけるのではないでしょうか。