ドイツ・ベルリン・ファッションウィーク現地レポート|持続可能なものづくりは常識に?
2月5日から8日の4日間に渡り、ドイツ・ベルリンにて「2024-25年秋冬ベルリン・ファッションウィーク」が開催されました。ドイツは環境先進国として世界に知られていますが、ファッションにおいても世界規模で関心が高まる以前から積極的に取り入れてきました。しかし、”地球環境に優しいものづくり”が重要視され、トレンドを意識した最新のデザインや若年層に受け入れられるような前衛的なブランドは少なかったと言われています。
「ベルリン・ファッションウィーク(以下、BFW)」では、サステナビリティに特化したトレードショーやフィジカルなショーを積極的に行うようになり、以前はサステナブルとそうでないブランドを区別していましたが、現在では参加ブランドのほとんどが持続可能な製品を提供しており、あえて”サステナブル”というカテゴリに分類されなくなりました。
それに至った経緯はなんなのでしょうか?また、今後ファッション業界で生き残るためには持続可能なものづくりが必須条件となったのでしょうか?「2024-25年秋冬ベルリン・ファッションウィーク」の現場から検証したいと思います。
伝統的なファッション技術と持続可能な最新技術を教えるプロジェクトを実施
BFWを取り仕切る「ファッション・カウンシル・ジャーマニー」は、グループエキシビジョン「DER BERLINER SALON」を開催し、ショーを行うブランドの最新ルックから、UGGとの共同プロジェクト「UGG 2023 CULTURE CHANGEMAKER PRIZE」の受賞ブランド発表、伝統的なファッションやテキスタイルの生産方法の枠を超えた新しいプロセスを若きデザイナーに教えることを目的としたプロジェクト「FASHION X CRAFT」に参加する6名の学生を発表しました。
「FASHION X CRAFT」とは「ファッション・カウンシル・ジャーマニー」がスワロフスキー財団とキングス・ファウンデーションと提携し、2022年に立ち上げた新しいファッション支援プロジェクトです。今年は、木材由来の原料を使用した特殊繊維の世界的サプライヤーであるオーストリアのレンチング・グループが開発したブランド「テンセル™」「eBay」トミー ヒルフィガー、カルバン・クラインなどを保有する世界最大規模のグローバルアパレルカンパニー「PVH財団」がコラボレーション参加。「破壊」をテーマに掲げ、世界150カ国に輸出されている有名な英国のテキスタイル産業に新たな息吹を吹き込むことを目的に、ダンフリーズ・ハウス、ハイグローブ・ガーデンズ、ロンドンのトリニティ・ブイ・ワーフなどで実施され、高級ファッションの製造、織物、手刺繍などの伝統的な技術を教えます。
今回の最終選考に残ったのはドイツ国内に限らず、ヨーロッパの各都市に点在する芸術大学やファッションカレッジに在籍する学生6名。2024年2月から2025年初めまでさまざまなプログラムが実施され、最終プレゼンテーションまでに掛かる旅費などの費用は「ファッション・カウンシル・ジャーマニー」とスワロフスキー財団によって負担されます。
「テンセル™」とパートナーシップを結んでいるパトリック・マクダウェルは「持続可能なメッセージを発信し、より広範なコミュニティにおける相互の取り組みを促進するためには、このような機会がもっと必要。パトリック・マクダウェルでは、生産方法だけでなく、販売方法や消費者への教育方法においても持続可能性を推進している。それは、ファッションとの感情的なつながりであり、自分のために作られたものを身につけることで、見た目も着心地も素晴らしいものになることを人々に示すこと。テンセル™との継続的なコラボレーションは、このような相互のブランド価値を自然に調和させ、際立たせている」と述べました。
ウクライナ拠点の新人デザイナーは靴をアップサイクルして洋服に
ロシアによるウクライナ侵攻以来、ウクライナ人の難民受け入れを積極的に行っているドイツですが、BFWでも同様に、発表の場を失いつつあるウクライナブランドの支援を行っています。若手の気鋭デザイナーが多い印象ですが、中には活動拠点をベルリンへ移したブランドもあるほどです。2021年に設立されたばかりの「PLNGNS」は「2024-25年秋冬ベルリン・ファッションウィーク」に初参加し、ショーにて最新コレクションを発表しました。
「PLNGNS」は、古くなったスニーカーなどの靴を解体し、洋服のパーツに作り変えているアップサイクルに特化したブランドです。古いスニーカーをゴミとして燃やすことなく、洋服の素材としてアップサイクルすることによって、CO2の排出量を大幅に削減できるといいます。スニーカー以外の素材も全てリサイクルやアップサイクルによって作られており、カラフルなハイテク素材がレイヤードされたデザインが印象的です。
関連イベントのポップアップもサステナブルなブランドが主体
BFW開催中には、関連イベントとしてさまざまな催しが行われます。西ベルリンのランドマークタワー的存在のショッピングモール「BIKINI」の一角では、ポップアップストア「Studio2Retail」が期間限定でオープンし、ベルリン拠点のブランドが多数出店していました。
BFWの常連ブランドの一つである「SUSUMU AI」は、ドイツ人と日本人の両親を持つデザイナーが日本の伝統文化である着物からインスパイアされたデザインが特徴的です。日本から直輸入した生地を使用し、伝統的な製造工程に従って服づくりを行っています。また、大量生産は行わず、受注生産にこだわり、各生地に使用されている水の消費量をテストマークにて表示しています。さらには、生地の端切れをヘアタイやキーホルダーといったアクセサリーに使用することで無駄を最小限にすることに尽力しています。
「Natascha von Hirschhausen」は、上質な素材とタイムレスでずっと着れるデザインが特徴的ですが、廃棄物ゼロを目指すブランドとして、2017年にドイツにおけるエコロジーデザインの最高賞「Bundespreis Ecodesign」を受賞しています。GOTSやIVN Best規格によるオーガニック認証を受けた天然繊維のみを使用し、生地の裁断時に発生する廃棄を1%未満に抑え、99%以上の資源効率を実現させています。特筆すべきは、ジュエリーブランドかと思うほど多い型数で展開しているシルバーとゴールドのジュエリーです。繊細でミニマルなピアスやネックレスは、全てリサイクルシルバーを使用し、インドの職人の手によって1点ずつ作られています。
通常のアパレルブランドにおいて、生地の裁断時には約20%のロスが生じるのに対し、「Natascha von Hirschhausen」は1%未満に抑えているといいます。これは、多くのブランドが見習うべき生産方法ではないでしょうか。
ベルリンは、パリ、ミラノ、ロンドンのようなファッションシティーではなく、ファッションウィークもメゾンブランドが華やかなショーを開催したり、世界のセレブリティーやトップバイヤーたちが来ることもありません。それどころか、メインのトレードショーの「PREMIUM」「SEEK」、サステナブルブランドに特化したトレードショー「NEONYT」は、一時期はフランクフルトに開催地を移転していた経緯もあります。その理由については明確にされておらず、「PREMIUM」と「SEEK」はベルリンに戻ったのも束の間「PREMIUM」に限っては2024-25年秋冬より休止を発表しました。「NEONYT」はデュッセルドルフやパリなどで現在も開催されていますが注目度は低いです。ドイツ国内でファッションウィークが2都市で開催されるのは非常に奇妙な話であり、コロナ禍も重なり良い結果を残せていないのが現状です。
また、勢いを感じさせる新しいトレードショーが参入し、日本のブランドも多数出展する中、20年以上の歴史を持つ老舗トレードショーが休止を発表するなど、さまざまな変化が続いています。BFWにおいても、これまで以上に新進気鋭の若手デザイナーにスポットを当て、発表の場を与え、支援する動きが強まっています。20代のデザイナーが手掛けるそのほとんどのブランドがリサイクルやアップサイクル、廃棄処分対策、労働環境や条件の徹底、クラフトマンシップなど、持続可能なものづくりを当たり前のように取り入れており、次世代ファッションにおける”常識”となっているのだと実感しました。