オランダ・アムステルダムのCIRC|サーキュラーエコノミーの未来を体験
オランダのアムステルダムには、CIRCL(サークル)と呼ばれるサーキュラーエコノミーの考えに基づいて建てられた施設があります。この施設では、毎月見学ツアーが行われています。今回参加したツアーでは、私を含めて合計12人の方々が参加しました。ドイツで建築関係の仕事をされている方から家具のデザインを行っている学生まで幅広いバックグランドの方々が興味を持って、ツアー案内人の話に聞き入っていました。
CIRCLについて
CIRCLは、オランダの3大手銀行のひとつであるABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)によって建設された複合施設で、2017年にオープンしました。施設内には、ミーティングルームやセミナー会場、レストランなどが併設されており、他業種の交流イベントなどが定期的に開催されています。
ツアーを案内してくれたニナさん曰く、構想時当初はサーキュラー建築に関する情報がとても少なく、グリーンウォッシングだと批判を浴びてしまうかもしれないという懸念もあったそうです。しかし、サプライヤーやパートナー企業との対話を通じて、評価基準を満たした結果、CIRCLはサステナブルな建築であることを証明するBREAM認証を取得しています。
シンプルはサステナブル
リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の3Rは、限りある資源の利用を減らすために重要だと言われてきました。3Rの中でも、資源の利用を必要最低限に抑えることに繋がるリデュース(Reduce)は、最も重要な取り組みです。3Rを推進する経済モデルのことをリサイクリングエコノミーと言いますが、これをさらに推し進めて、廃棄物を出さないことを目指す経済モデルがサーキュラーエコノミーです。
建物の名前であるCIRCLは、本来「CIRCLE」が正しい英単語となりますが、最後の「E」はなくても読めることから、サーキュラーエコノミーの無駄を省くという精神を尊重して、CIRCLとなっています。
建設された複合施設も、従来の建築方法と比較して36%少ない資材で建てられています。カーボンフットプリントを抑えるため、使用するコンクリートやスチールを現地で調達しました。その結果、従来の方法と比較してカーボンフットプリントを40%削減することにも成功しています。さらに、施設で使用する全ての素材は、可能な限りリサイクルやリユースできることが前提となっています。CIRCLで使用されている資材の90%以上は、リサイクル可能だそうです。
現在、同施設は買収され、数年以内に解体されることが決まっています。ニナさんは、解体された資材が本当にリユース、リサイクルできるのかを調査することができる良い機会だと話していました。
建物のあちこちで見れるサーキュラーな取り組み
施設内は、見学するだけで面白い発見が多くあります。設置されているソファーや椅子、テーブル、そしてアート作品に至るまで、目に映るもの全てにストーリーがあります。
館内に入るための扉は、電動ではなく手動のため電気を消費しません。
また、館内の床は、アムステルダム市内の15カ所で解体された建築物から集めた木材を使用しています。よく見ると、色はまばらで形や長さも異なる形が組み合わさっています。
こちらのソファーは、横にポケットがついており、ジーンズをアップサイクルし活用されていることが分かります。さらにあちこちに置かれている椅子の素材にも注目です。
こちらの椅子は、ガラスかと思いきや、プラスチックからできています。
こちらの椅子は、段ボールからできています。
カフェのコーナーにあるカフェテーブルも段ボールで作られています。
レストランで使用されているこちらの椅子は、冷蔵庫の内装材をリサイクルして、3Dプリンターで製造しています。実際に椅子を引いてみると、結構重さがありました。座り心地はよかったです!
天井には、断熱材が貼られています。こちらの断熱材は、16,000組以上の使用済みジーンズをダウンサイクルして作られています。また、防音材には、ABN AMROで以前使用されていた従業員の制服が使用されています。
こちらのカフェカウンターは、銀行で使用されていた金庫を再利用しています。引き出しには、茶葉のストックなどが入れられており、収納スペースとして利用されています。
アート作品にも注目です。こちらはケーブルをアート作品として展示しています。本来であれば、「ゴミ」として処分されるケーブルを遊び心満載なアートにする姿勢を私も学びたいと感じました。
庭には、太陽光発電で充電ができるUSBポートや運河から引き上げられた自転車をアップサイクルして作ったベンチが置かれています。
CIRCLには雨水を貯めるための巨大なタンクが設置されています。それらは、植物の水やりやお手洗いの水として利用されています。
人々が集まるレストランや手話で注文するカフェ
CIRCLの中には、レストランが併設されています。私もチョウマメのチャイティーとカリフラワーのスープをいただきました。
壁には、さまざまな野菜をピクルスにしてインテリアの一部として置いています。発酵させることで、食材ロスの削減に取り組んでいます。
また、CIRCLの一角には、手話で注文を行うカフェもあります。お店の前に置かれたタッチパネルには、「TEA(紅茶)」や「COFFEE(コーヒー)」といったメニューだけでなく、「TASTES GOOD(美味しい)」や「HAVE A NICE DAY(いい1日を!)」といった挨拶の仕方も知ることができます。
施設内には、給水所も設けられています。さりげなく、海洋プラスチック問題について知れる工夫があるのも素敵です。
オランダで有名な水筒メーカーdopper社による給水所もあります。同社は、消費者に水筒を持ってもらうだけでは十分ではないと考え、雫型が可愛らしい給水スポットをデザインしました。この給水器は、給水分のインパクトが表示され、祝福するメッセージが画面に表示されます。
サーキュラーなPaaSモデル
CIRCLには、三菱電機株式会社(以下、三菱電機)のエレベーターが1台設置されています。設計当初は、スタッフ用と来客用で2台設置する予定だったそうですが、三菱電機の担当者がこの規模の建物に対して2台もエレベーターを設置するのはもったいないとアドバイスをしたそうです。結果、エレベーターは1台のみ設置され、スタッフと車椅子を利用している方々が利用しています。
従来のリニアエコノミーでは、企業はより多くの製品、商品やサービスを購入してもらうことで利益を得ます。そのため、三菱電機がしたようなアドバイスはされません。しかし、三菱電機は当時からPaaS(Product as a service)、つまり製品のサービス化という新たなビジネスモデルを導入していました。
時代は変化している
オランダは、サーキュラーエコノミー先進国と言われています。そのため、多くの国民が新しい生産と消費のシステムへ移行することに賛同しているように見えるかもしれません。しかし、実際には既存の生活様式に固執し、変化を拒む国民もいます。
ツアーの終盤でニナさんは「リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換は、社会構造の大きな変化を伴います。しかし、経済的な成長だけを追い求めるこれまでの考え方だけでなく、人々が幸せに健康に過ごせる社会に変化していくことが求められています。口で言うのは簡単で実践するのは難しいけど」と話していました。
続けて、大手銀行のABN AMROのサーキュラーエコノミー推進活動についても話してくれました。同金融機関は、変化したいと思っている企業と挑戦しているスタートアップを繋ぐ架け橋としての機能も果たしています。2023年2月6日から11日は、オランダ全土でサーキュラーエコノミー週間です。ABN AMROは、政府に対してよりサーキュラーエコノミーを推進するための制度の整備を進めるよう伝えるそうです。
最後に
実際にCIRCLへ足を運んで私が感じたことがあります。それは、身の回りにある廃棄されてしまうゴミだと思っている素材に対して、どうすれば面白くできるだろう?というワクワク感を持つことです。本来は「ゴミ」だと思っていたものでも、役割を与えることで価値が生まれます。その価値を見出すか見出さないかは、私たち次第です。
サステナビリティや環境へ配慮することは、コストがかかります。よって、日本国内でも、オランダ同様に変化を嫌う人たちが一定数いるでしょう。企業が率先してサステナビリティに取り組んでも、グリーンウォッシュだと批判を浴びるかもしれません。しかし、産業問わず、多くの企業が先陣を切ってサーキュラーエコノミーを推進することで日本国内でも変化が起こると思います。例えば、ミツカングループは、フードロスの削減を目指してトウモロコシの芯や枝豆のさやなどの素材をまるごと原材料として使ったブランドZEMBを立ち上げました。住宅メーカーのアトリエデフは、化学合成の新建材や接着剤を一切使用せず、国産の木材や土壁といった自然素材を使ったサーキュラーデザイン住宅を手掛けています。
重要なことは、初めから完璧を目指すのではなく、小さくはじめてみることです。